第36話 こき使われる教団幹部
結局麦の選別も一人で全部終わらせてしまった。
まあ午前中は学校だし、他に病院とか施療院とか教団本部での説教とかあるしさ。
逆に言うとそれ以外の午後は2週続けて全部芋や種籾の選別だったりしたけれど。
まあ厳密には部屋にずっと1人だった訳ではない。
グロリアやロレッタは当然午後は基本的にこの部屋にいる。
それに午後の作業を終わらせた生徒が遊びに来たりもする。
でも結局選別をやるのは俺一人だけだ。
ああもう細かい仕事は嫌だ!
せめて来年まではやらせないでくれ!
何なら俺の優秀な補佐殿を派遣するからさ。
さて行方不明の優秀な補佐殿。
決してその間サボっていた訳では無い。
資料を揃えたりプランの細部を詰めたり更には対外折衝までしていた模様。
午前中に学校で授業の無いときに報告してくれるから状況はわかっている。
一切作業部屋には近づいてこなかったけれどな。
そのおかげで小規模農家補助のプランもほぼ具体的に決まった。
ただしだ。
「最後の難関が残っているのですよ。担当役人、
こちらからは私とスコラダ大司教、それと使徒様が参加する事になったのです。期日は来週2の曜日、場所はアネイアの国王庁第3庁舎なのです」
俺の出席が俺の承認前に決定している模様。
まあそんなのはいつもの事だ。
ただ微妙に人選に疑問がある。
「俺とスコラダ大司教でいいのか。この手の事はソーフィア大司教やその部下の方がいいと思うのだが」
「今回は話し合いにいくのではないのですよ。こっちの事業を一方的に承認させに行くのです。調整だの譲歩だのは一切不要なのです。
なお基本的に使徒様は一切話す必要は無いのです。無言で傲岸不遜かつ自信ありげな態度を演じていて欲しいのです。話は基本的に全て私がやるのです。その辺は
何かイザベルなりに案があるようだ。
大丈夫だろうかとも思うがイザベルは俺より遙かに頭が切れる。
だから取りあえずは信じて行動するべきだろう。
「ところで会談にはいつもの教団の服でいいのか。あれは若干質素な気がするが」
「さすが使徒様なのです。その辺うちの教団の人間は配慮が足りないのです。でも今回に限ってはこの質素な服が正しいのです。心配はいらないのです」
「なら俺は基本的にいつもの服で、自信ありげに座っていれば良いんだな」
「その通りなのです。ただ場合によっては使徒様独自の力である『神の審判』を使う必要があるかもしれないのです。念の為お聞きしますが使えますよね」
「まだ使った事は無いけれどな。問題ない」
『神の審判』とは使徒が使える独自の術だ。
俺に限らずどの神の使徒でも使える使徒専用の術。
使徒が神を降臨させて真偽の問いに答えるというそれだけのものだ。
基本的に『その通りです』、『違います』しか答えが出ないので使う機会はまずないけれど。
やっぱりイザベル、何か企んでいる模様。
さて、俺とイザベルは1の曜日の日課通りアネイアの病院と施療院でこき使われた後、教団支部の客用寝室で就寝。
翌日は本部に帰らずそのまま会議まで病院。
つまり更に働かされている訳だ。
なおスコラダ大司教は朝一番の馬車で到着。
教団本部で説教をしてから病院に寄るそうだ。
病院は開院当初とくらべ段違いに立派な建物になった。
グロリアが設計したあの待合室も実現している。
ただやっぱり若干混んでいるのは変わらない。
待合室が半分程度まで埋まっている。
ほぼ満員だった昨日よりはましだけれど。
「評判がかなり良いらしいです。貴族が使う高い往診医よりもいい治療をしているからって、今ではかなり上級の貴族でもこちらにみえる事が多いようですね。特に1の曜日と3の曜日は外に馬車が並んだりもしますから」
院長のフローラ司祭によるとそんな感じらしい。
ちなみに1の曜日は俺とイザベルがいる重症・重傷・難治患者指定日。
3の曜日はグロリアとロゼッタがいる小児科と婦人科主体の日だ。
確かに教団の人間の方がなまじの往診医より医者として優秀かもしれない。
教団で治療の基礎をしっかり学んでいるし数多くの症例を見てもいるし。
俺やイザベルは例外に近いのだろうけれど、それはまあ
そんな感じで朝一番から風邪だの怪我だの腰痛だのを診る。
昨日と比べると大分楽だよななんて思いながら。
難病指定日は時に本当にとんでもない患者がいたりするのだ。
昨日の例だと虫垂炎を我慢しすぎて酷い事になっていたとか。
2時間ほど診療した後、スコラダ大司教と合流して国王庁へ。
なお
5キロ程度の距離なら容赦なく歩かされる。
スコラダ大司教も今朝は農作物と混載の馬車で本部からやってきたし、アネイア支部から病院までの2キロも歩いてやってきた。
俺達もまあ歩かされたのだが本当にご苦労様である。
そんな訳で国王庁の第3庁舎へ。
俺達の本部や教団支部と比べると遙かに立派な煉瓦と自然石造りの建物だ。
「本日産業審議官アレッシオ卿による協議に参りました
そんな感じで受付を経て会議室に案内される。
まだ相手は双方ともに来ていないようだ。
「よし、予定通りなのですよ」
イザベルが小さな声でそう言った。
「それではまず持って来た資料を配るのですよ。これさえ出来ればほぼ今回の件は終わったも同然なのです」
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