第8章 大がかりな救済計画
第35話 単調な作業の傍ら考えた
俺の改革案は信者の少なかった貧困層以外にシンパを広げる事を目的にしている。
でもそれ以外にも
教団のスリム化だ。
この教団、専従員の人数が非常に多い。
理由は簡単。
破産した貧困層や行き場の無い孤児等を専従員にしてしまっているからだ。
この状態だと作物の豊作不作、好況不況の波毎に専従員が増えてしまう。
学校を設立した結果、孤児が居残る事無く一般社会に就職できる可能性が少しは高くなった。
次は貧農対策である。
この国の小規模農家が破綻するのには定型パターンがある。
① 商品価値の高い小麦やジャガイモを作りたがる
② 耕作面積が大きくないから輪作をしない
③ 故に往々にして連作してしまい生産力が弱る
④ 弱ったところで大豊作や不作があると収入が激減し破産する
こんなパターンである。
だからと言って輪作させるのも難しい。
2年回転くらいではジャガイモ等の連作障害を防ぐには不十分だ。
でもインゲンや大豆、カブ等は小麦やジャガイモに比べ商品価値が劣る。
そもそもカブ等は畜産をやっている際の飼料として価値がある代物だ。
故に畜産をやっていない小規模農家では栽培する価値はほとんど無い。
この小規模農家破産パターンを防ぐには管理耕作面積を拡大することが必要だ。
でも農家同士で管理し合っても農作物の単価は年毎に変わるもの。
結果その年に何を栽培したかで収入が変わってしまい諍いを生じやすい。
だからここに教団を関与させることによって安定化を図ろう。
これが俺の次の改革案である。
この考えに至った理由は色々ある。
ひとつは今仕分けをしている耐性ジャガイモだ。
耐性ジャガイモが出来たからには出来るだけ早く普及させてセンチュウ害を克服させたい。
普及させるためにはどうすればいいか。
教団で信者にばらまいて作らせるのが一番早い。
もう一つは現在鋭意栽培中のテンサイの件だ。
これが思った以上にうまくいきそうな気配がする。
俺の予想以上に育っているし糖分濃度も高くなりそうだ。
ならこれを広げればいいが、このテンサイは結構手間暇がかかる。
苗作りが3月にははじまるし、収穫も土の中から大きな根を抜く訳だ。
土地面積あたりの作業者の数が結構必要だったりする。
でもこれが砂糖になり、家畜の餌にもなる訳だ。
つまり面積あたりの収益は良さそうなのだが労働力が必要。
逆に言えば土地がやや狭い小規模農家には適している訳だ。
つまり教団が近くの小規模農家をグループ化し、擬似的な大農園として教団と同じ方式の輪作を行わせる。
出来上がった作物は教団が買い取る。
報酬は4年の収益を平均化したものとして支払う。
豊作不作等あっても最低限の支払額は決めておく。
その代わり予想外の収益が出た年があっても最高支払額までとする。
こんな感じの案を思いついた。
ジャガイモの選別中にである。
「なあイザベル、こんな案はどうだ?」
そんな訳で腐りつつイモの選別をしているイザベルに今の案を説明する。
「なかなか面白い案なのです。でも大規模買い付けを行うという事は仲買市場を運営している
なるほど。
他教団との関係までは考えなかった。
「ただ有意義な仕事である事は間違いないのです。この国の過半数を占める小規模農家の生活がこれでかなり安定するのです。ただその分、準備や根回しは慎重にやる必要があるのです。農作物の流通を一変させる可能性が高いのです。
そんな訳で早速調査活動に出向きたいのですが宜しいでしょうか」
あ、こいつ逃げる気だ。
この単調なジャガイモ選別作業から。
でもこのジャガイモ選別作業が終われば配布作業も始まる。
小麦もどうせなら作物研究部で開発した優秀な品種を配りたい。
ならこの小規模農家対策を早めにまとめておいた方がいい筈だ。
仕方無い。
「わかった。だが出来るだけ早く頼む。一人でこの作業をやると思うと泣けてくる」
「過去の農業統計を調べるところから始めるのですよ。では行ってくるのです」
聞いちゃいない。
あえて聞いていない可能性も否定しないけれど。
結果残されたのは選別を待つ大量のジャガイモと麦の種。
せめてジャガイモの選別が終わってから話すべきだっただろうか。
いや、でも小規模農家対策は出来るだけ早くやるべきだろう。
なら今、俺がするべき事はひとつ。
俺は大きくため息をついた後。
ジャガイモ選別作業を再開した。
なお翌日の午後もイザベルは調べ物だの何だので姿が見えなかった。
更にその翌日も……
つまり残ったジャガイモは全て俺が仕分ける羽目になったという訳だ。
でもここでくじけるわけにはいかない。
次は麦の選別も待っている……って!
誰か助けてくれ!
勿論救いの手は現れない。
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