第33話 製品試食会

 そんな訳で本日は製品の試食会だ。

 試食だけではない。

 どれだけ簡単に食事を作れるか、商品の状態から実際に料理にしてみる。

 なお一応主食用としてパンは用意してある。

 だからどれもヤバい出来だった場合、昼食はパンだけだ。

 まあそんな事にはならないと思うけれど。


「では一番わかりにくいこれから行きましょうか。これはアヒルのもも肉に味をつけて脂で煮込んだものです。販売する際は四角いやや深めの容器に入れて販売することになると思います。容器は素焼きで大量生産をすれば容器1個あたり小銅貨3枚30円程度で作れると思います」

 なるほど。

 今は深皿に入っているけれど実際は素焼きの深めの容器を作る訳か。

 ドリンクスタンド用の素焼きコップを作っている部門に頼めば大丈夫だな。


「さて、これはどうやって調理するんだ」

「暖めるだけです。施術が使えれば施術で、使えなければ鍋でも大丈夫です」

 そんな訳で俺は小鍋で暖めてみる。

 なお調理するのは開発者ではない方の面子だ。

 そうしないと本当に簡単にできるかわからないからである。

 そんな訳で全体が温まり脂が溶けて一部ジュージュー言っている程度で皿へ。

 全員で取り分けて食べてみる。


「うっ、これは美味しいのです。悔しいけれどこのままで最高なのです」

 うんうん、イザベルの言うとおりだ。

 保存食としてだけではなく、普通に夕食のメインにしても美味しい。

 そう思って俺は気づく。

 そうか、これはフランス料理のコンフィだ。

 確かにあれも元は保存食だよな。

 この世界は魔法を使えるから肉なども冷凍で保存した物を販売している。

 でも魔法を使えない俺の前世ではこうやって脂につけて保存したりもした訳だ。


「よくこんな料理を思いついたな」

「実はこれ、原型は貴族料理のひとつです。料理の場合は保存よりも風味を逃がさないという感じで作るのですけれども。貴族料理の場合は脂もアヒルの脂でつくるのですけれど、今回はここの農場でも多く取れる牛脂でつくってみました」

 その辺は流石ロレッタだよなと思う。

 他の3人も貴族出身。

 だが料理のレシピまで憶えているのはロレッタだけだ。

「ならこれは容器を試作して貰って実際に試して貰おう。レシピは後でイザベルに教えてやってくれ」

「わかりました」


 次は冷凍ハンバーグだ。

「これは素直に焼けばいいのかな」

「はい。脂もある程度あるのでそのままフライパンで焼いて頂ければ大丈夫です」

 よしよし。

 そんな訳で実際に焼いてみる。

 全体に熱が通ったら完成だ。

「それでは試食なのですよ」

 イザベルが切ってみると、おお!

 肉汁だけでなく中からとろけたチーズまで出てきた。


「これは美味しそうだな」

「焼いただけで味が出るようソースも脂分に混ぜて固めてあります。そのまま召し上がって下さい」

 うん、これも文句無く美味しい。

 若干甘めのソース、これも大分凝っているなきっと。

 そして肉汁とチーズが最高だ。

「この肉汁も凄いな。冷凍品だとは思えない」

「それはロレッタの技ですわ」

「適度に脂肪の層を作って暖めると肉汁が出るようにしたんです」


 うーむ。

 向こうは手間の簡略化と言いつつ高級路線で来た模様だ。

 俺の作ったインスタントラーメンがみすぼらしくて仕方無い。

 これも出身身分のなせる業か。

 でも仕方無い。

 俺は揚げた麺にイザベルが作った乾燥野菜等をつけた物を出す。

「ロレッタやグロリアが作った物に比べると大分簡素だけれどさ。これが俺とイザベルが作ったものだ。これがギリギリ浸る程度、やや少なめの沸騰したお湯に入れて3分間くらいで完成する」


 グロリアが試して見るようだ。

 小さめの鍋に水を入れ、施術で沸騰させる。

 そこに麺を含んだ一セットを入れれば終わりだ。

「これだけですか」

「ああ。これで3分くらい待って、麺がほぐれたら完成だ」

 味的にも問題は無い筈だ。

 ただコンフィとかチーズインハンバーグと比べるとちょっと……

 単価にしても一桁は違うような気がする。

 でもまあ、仕方無い。

「だいたいそれくらいでいいかな。一度かき混ぜてみて、うん、多分大丈夫だ」


「これはスパゲティのように麺を食べればいいのでしょうか」

 この国にもスパゲティは存在する。

 前世にあった物とほぼ同じだが、麺は生麺が主流だ。

 だから前世のものよりもちもちしている。

 しかしこれはラーメンだ。

「汁の味で麺を食べる感じだ。だからこんな感じで食べてみる」

 念の為俺自身が真っ先に味見を兼ねて食べてみる。

 うん、予想通りの味に仕上がっている。 

 でも今までの試作品と比べるとどうしてもチープ感が拭えない。


「どれどれ、食べてみるのですよ」

 イザベルが試食してみる。

「確かにスパゲティとは全然違う料理なのです。今まで食べた事がない傾向なのです。美味しいかどうかはよくわからないのですがちょっと後を引くのです」

 ちょっと意地汚く多めに食べてグロリアに交代。

「イザベル様の言うとおりです。多分これは食べ慣れると癖になるかもしれません。基本は塩味なのですがそれだけでは無い深みを感じます」

 基本的なチキンラーメンの味だけれどな。


 最後は開発室における料理の権威、ロレッタだ。

「美味しいと思います。何よりお湯に入れるだけという簡単さで、主食とおかず両方を兼ねる事が出来るというのが素晴らしいです。夕食には少し簡便だとは思いますが、朝食や昼食には時間をかけず簡単に暖かいものを食べられて最高なのでは無いでしょうか。ひと品加えれば夕食にも使えると思います。ただ具の乾燥野菜と乾燥肉が今ひとつなのでそこだけ研究すれば売れると私は思います」

 良かった。ロレッタのOKが出た。

 料理に関してはロレッタが俺達の基準だからな。


「ならあとは仮の商品化に必要なものの製造を頼んだり、容器等の製造を手配したり、製造マニュアルを作ったりする作業だな」

 とりあえず今日試作した3品目をある程度のロット作ってみて、全国で試食して貰ってアンケートをとればいい。

 これでソーフィア大司教からの宿題は取りあえず出来たぞ。


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