第32話 即席料理試作中

 午後、つまり学校の授業終了後。

 俺達は畑に近い方の開発用執務室で商品開発を行うことになった。

 開発室のメンバーでそれぞれ制作する物を決めて試作品を作る。

 実際には俺&イザベル対グロリア&ロレッタの組み合わせだけれども。

 俺達はインスタントヌードルから始めることにした。

 実はこれにはそこそこ自信がある。

 何故なら前世で某所某ファクトリーで自作のチ●ンラーメンを作った経験があるからだ。

 そんな訳でちょいと自信たっぷりに製造開始。


 まずは材料の調達。

 麺の材料で取りあえず無いのはかん水だ。

 でも確かかん水は重曹とか植物の灰とかでも代用出来る筈。

 重曹は手元に無いのでその辺に生えているヨモギっぽい雑草を燃やして灰を作り、水と混ぜて上澄みを取る。

 確か前世でもヨモギの灰でかん水代わりにした話を読んだ記憶があるし、とりあえずこれでいいだろう。

 次はラーメンの味の決め手になる出汁。

 バリケンのガラとネギと人参を入れ、施術を併用して高熱高圧力で煮込む。

 煮込んで煮込んで味噌のもろみでちょい味付けて、濃いタレになれば完成だ。


「いま作っているのをみてもよくわからないのですが、何を作っているのですか」

「ふふふふふ、今までにないヌードルだ。まずは完成形をみてからだな」

 なお他の皆さんも鋭意調理中だ

 例えばロレッタとグロリアが作っているのは冷凍ハンバーグ。

 焼いただけで美味しくなるよう、味を調えたり網脂を使ったり工夫している。

 イザベルは俺の手伝いで乾燥野菜や乾燥肉を制作中。

 基本的には薄く切って乾かすだけの簡単なお仕事だ。

 ただお湯で戻してある程度美味しく食べられるよう色々工夫はしている模様。

 野菜はともかく肉がちょっと難しいらしい。


 さて、俺の方は麺作りの段階に入る。

 小麦粉に塩と自作かん水と水を加え、オリーブオイルと卵も加えて混ぜ混ぜ。

 全体がおから状になったらがっしりまとめてこねまくる。

 麺棒と大きなまな板はあらかじめ適当なちょい重めの丸棒と分厚い板を建築部署から頂いてきた。

 本部だと全ての部署が近くにあるから楽でいい。

 農産品も新鮮なのが揃うし。


 さて麺の種をこねて重ねて潰して重ねてを繰りかえす。

 この辺でいいかなとなったら薄く伸ばして打ち粉をしてと。

 なおこの麺の元はかなり薄めに伸ばす事にした。

 確かチ●ンラーメンの麺は結構細かった記憶があるから。

 ここまで出来たら最後は麺切り。

 パスタマシンでもあれば楽なのだが今はそんな便利な物は無い。

 なので麺棒で薄く薄くのばした生地を打ち粉した後重ね、細く細く切る。


 使徒にはこういった器用さのチートもあるのだろうか。

 案外綺麗に出来た。

 これを軽く揉んで縮れさせたら上で先程作った濃いタレを全体に絡める。

 あとは高温の油に入れて3分ほど揚げれば完成だ。

 確か揚げるときは専用の籠を使ったんだよな。

 勿論ここにはそんな物はない。

 仕方無いのでほどよく油が通るように隙間を空けた塊を作成し、スプーンと菜箸で入れる。

 やっぱり揚げる際は専用の籠が必要だなと痛感。

 広がってしまったし浮き上がるのを押さえるのが面倒くさい。

 この辺はこの麺がちゃんと出来ていたらどこぞの製造部署に作って貰おう。

 教団本部は鍛冶場もあるからその辺色々便利だ。

 その時にパスタマシンも作って貰おう。

 設計図を書くのが面倒だが、説明すれば現場がなんとかしてくれるだろう。

 

 さて、見てくれはともかく試作チキ●ラーメンが完成した。

「イザベル、乾燥野菜や肉の方はどうだ?」

「取りあえず作ってはみたのですが、まだまだ研究が必要なのですよ」

 まあ良しとしよう。

 これとあわせれば俺の『すぐおいしい、凄く美味しい』インスタントラーメンが完成だ。


「ロレッタ、冷凍シリーズはどんな感じだ?」

「やはりハンバーグが一番良さそうです。他は解凍に時間がかかってかえって面倒になるように思えます。あとは脂を使って封じ込めた瓶詰めがいい感じです」

 なるほど、そういう保存方法もある訳か。


 俺達の共通目線は『主婦が簡単に食事を作れ、そこそこ長持ちする』商品だ。

 この世界は当然のことながら洗濯機も無いし掃除機も無い。

 水も共同水路から汲み上げて家に運ぶという生活。

 なので主婦は色々忙しい。

 だからせめて食事は簡単かつ素早く作れるようにしようというものだ。

 場合によっては買いだめも出来て保存備蓄可能でささっと作れるように。

 勿論パンにパテとチーズなんて食事ならすぐに作れる。

 でももしパンの買い置きが無かったら。

 もしくは毎日同じ食事に飽きたなら。

 こういった簡便に食事を作れる商品が欲しくなると思うのだ。


「明日の午後くらいには試食第一号が出来そうかな」

「こちらのハンバーグやアヒル肉の脂詰めはもう大丈夫です」

「取りあえず乾燥野菜は指示通りに出来たのですよ」

 よしよし。

「なら明日の昼食はキャンセルしてここで試食会だな」

「毒味会かもしれないのです」

 これこれイザベル。

 不吉なことを言うでない。

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