第31話 新たな利益源捜索中

 麦の収穫シーズンになった。

 今年は生徒がいるから少しだけ楽だ。

 まだ1学年だけで総勢100人、しかも働けるのは半日だけ。

 それでもいるのといないのでは大違いだ。

 何せ麦から水飴を作ったりハーブを定期的に摘み取ったり以前は無かった作業も加わっているし。

 でも若い新戦力のおかげで今年はイザベルを働かせないで済んでいる。

 イザベルは単純な肉体労働には向いていないからなあ。

 それはそれでまあ見ていて和むのだけれども。


 さて、他の皆さんが麦の収穫で忙しい中、俺とイザベルは現在ソーフィア大司教の執務室にいる。

 教団改革の成果確認と今後の課題を話し合っているのだ。

 これは今年になって始めた会合で、予定では月に1回やる事になっている。

 なお相手がソーフィア大司教である事からわかるとおり、成果とは精神的なものでは無く数値的なものだ。

 更に具体的に言うと収入と支出、つまりお金の関係。


「農作物の収穫増加、新規事業の開始等で例年と比べ収入は5割近く増えています。でも新規施設の建築や一部教会の新設、学校の建設等で支出も増えていますので、全体としての収支はほぼ変わらない状態です」


「ハコモノの建設が増えたのでやむを得ないと思うのです。それにハコモノは一度建てたら維持費は新規建設程かからないのです。なので今期はもう少し余裕が出ると思うのですよ」


「確かにそうですね。それに教会を訪れる一般の方も増えました。生命の神セドナ教団としては良い方向に向かっているのは私も認める処です。

 ただ今期も施設更新作業や施療院との分離化、更に要望がある各地域へのレストランやドリンクスタンドの出店等、出費がまだまだ増える事が予想されます。これ以上の改革を進めるためにも、出来れば新規費用がそれほどかからずに収入が得られるような新規事業を考え出したいところです」


 言っている事はわかる。

 でも実現するのはなかなか難しい。

 そんなに簡単に儲かる事業があれば誰かが先にやっているだろう。

 それに仮にも教団がやる事業だ。

 生命の神セドナの教えに背くような事は出来ない。


「料理教室の開催による調味料等の副次的売り上げ増加はどんな感じですか」

「単独でみれば好調です。ですのであのような事業案が他にもあるか考えていただきたいのです」

 そう言ってもこの条件で出来る事は限られている。

 教団内で材料が揃って他では手に入らない物を作って売るしかないだろう。

 何せ費用がかかる店の建築とかが出来ない。


「教団の農業生産を利用した加工食品あたりが無難でしょう。今までの調味料と同じ販売ルートなら商品開発・製造費用しかかかりませんから。ただどんな物が売れるかがわかりません。教団で暮らしている俺達では一般家庭が欲している物がわかりにくいですから」

 例えば食品ならインスタントラーメンとか冷凍食品とかが思いつく。

 でも消費者が何を欲しているかが俺にはわからないのだ。


「そう言うという事は、使徒様はある程度案を思いついていると判断して宜しいのですか」

 イザベルは俺の台詞からその辺を察したようだ。

「ああ。例えばお湯に入れて3分くらいかき混ぜれば出来る即席ヌードルとか、暖めれば食べられる冷凍食品とか。この国にはまだ無い珍味とかもある程度は思いつく」

 珍味の例としては納豆だ。

 あんなのは麦わらあたりで煮豆を包めばだいたい製造可能だ。

 ある程度日持ちもするし保存も簡単。

 欠点はこの世界に納豆を好む人がいるとは思えないだけで。


「なら実際に幾つか作ってみてアンケートをとってみればいいのですよ。料理教室の場ならそういった事もやりやすいのです」

 おっと、確かにそうだな。

「料理教室は既に厚生部や各教会の方にも話を通してあります。まずは教会を新しくしたアネイア、ネーブル、ナーブラ、テュラン、ゼナアで定期的に開催する予定です。地区司教を通して適任者を選抜し、教育のため本部に派遣するよう指示を出しました。今は麦の刈り入れで忙しいですが、来月初め頃には全員揃って本部に来る予定です」

 うわっ。

 予想以上の話が出てきたぞ。


「随分と大規模にやる予定なのですね」

「教団に親しみを持って貰う活動として有意義であると判断しました。費用もそれほどかからないでしょうし。

 ただ料理教室では教団への勧誘等は一切行わず、地域住民とのふれあい活動を重視する予定です。勧誘すればそれを面倒もしくは嫌う人も出るでしょうから」

 うん、ソーフィア大司教このおばさん、よくわかっている。


「ですので新製品の試作品を作るとしたら来月頭までには完成していた方がいいでしょう。料理教室の講師は本部で1週間ほど料理や注意事項等を学ばせで、それから各地区へと戻す予定です。あとこの期間の間、ロレッタ司祭長は講師としてお借りすることになります。その代わりこれが終われば通常業務に戻す予定です」

 うんうん。

 ロレッタは特に料理関係の開発をする際いてもらわないと困る。


「わかりました。それでは来月までに新製品をいくつか開発しておく事と、来月頭の1週間程ロレッタをこちらへ派遣する事。日常業務以外については当面この2点でよろしいですね」

「どうぞ宜しくお願い致します。本当はこのような事は使徒様にお願いするような事では無いのでしょうけれども」

「私は生命の神セドナに信者数を増やすとともに信者の生活を豊かにするよう命を受けて参りました。ですからこれもまた立派な仕事内容ですよ」

「そう言って頂けると助かります。どうぞ宜しくお願い致します」

 そんな感じで本日の話し合いは幕を閉じた。

 

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