第28話 これも勉強の一環です

 俺にとっては心休まらない会話は洋服店への到着でやっと止まった。

 女の子ってのは何故こういう会話が好きなのだろう。

 世界が変わってもこの辺は変わらない模様だ。


 さて、この世界では耐久消耗品の価格は高い。

 まだ工業化されていないので大量生産で値段が下がるという事が無いせいである。

 つまり彼女たちが今回所持している小銀貨2枚2,000円程度のお金では洋服は購入できない。

 でもその辺を知るのも学習の一つだ。


「校長先生、この服はこのお金で買えますか」

 商品はお金と引き換えに買う。

 その事は理解できているようだ。

 でも数字を少し理解し始めた程度で算数までまだ行っていない状態。

 だから俺は教えてやる。

「この服は小銀貨7枚7,000円。つまり今の所持金では4人分無いと買えないな」

「そんなに高いの?」

「そう。服とか長く使えるものはだいたい高いんだ」

「ならこれは?」

「値段に8という数字があるからもっと高いんじゃない?」

「その通り。所持金4人分全部使ってやっと買える値段だ」

「そんなに!」

 クロエちゃん、7より8が大きい事は理解している模様。

 これでも3組ではトップクラスの知識力と理解力だ。

 そんな感じで洋服屋さんの中を一回りして、出てきて絶望する。


「そうか、今持っているお金じゃあの程度の服も買えないんだ」

「頑張って貯めれば買えるかな。それに貯めているお金はまだまだあるんだよね」

 労働半日につき正銅貨3枚300円この子達の貯金にプールされる。

 今は大体1人小銀貨6枚6,000円位貯まっている筈だ。


「今貯まっているお金ではまださっきの服は買えない。それに学校を卒業したら食事のお金もかかる。住むための部屋を借りるお金も必要だ。そう考えると結構大変だろ、実際」

「参考までに部屋を借りるのは幾らくらいかかるの」

「港町ネーブルの安いところで1月あたり1部屋正銀貨4枚4万円位かな。その高い方の服が5枚買える値段だ」


「うわっ。ならずっとこのままが楽かも」

 実際自活できないで教団にそのまま住み着いているという結果的専従者も多い。

 でもそれでは困るのだ。

「この学校は基本的に3年間だからな。それまでに色々出来るようになっておかないと。まずはさっきの値段と自分の所持金の比較ができるようにならないと」

「お金の計算がわかるようになるまでどれくらいかかるかな」

「クロエはもう少しでわかるだろ。まあ遅くとも半年以内かな」

 勉強の意味を分かってくれれば今日来た甲斐があるってものだ。

 次は今の話で興味を持った生活の為の食料品店、次はちょっとアクセサリー店。

 そうやって次々に店を見ていく。


 昼食は『お店で食べるのとパンを買って外で食べるのとどっちが安いか』を皆で考えた結果『外で食べる』という事にした。

 サンドイッチや牛乳等を買って、近くの川沿いのベンチでいただく。

「うーん、これで1日半働いた分のお金がかかっているのか」

「実はいつも食べている食事の方が美味しいような気がする」

「私も思う。野菜とパンと塩味だけって感じだしこれ」

 確かにそうだなと俺も感じる。

 改善された教団の食事を食べ慣れるとこれでは物足りない。


「今の生命の神セドナ教団は実は割といいものを食べているんだ。元々農業を大規模にやっていて素材は豊富だし、同じサンドイッチだって中に他にバターやマヨネーズなんかを入れて味を調えている。その辺こっちに来て感じなかったかな」

「うーん。確かにこっちに来たときは凄く美味しいと思った気がする。でも家の食事が酷いだけだと思っていた」

「でも孤児院の食事も前はこんな感じだったよ。もっと悪かったかな。去年位から一気に良くなったけれど」

 うんうん、教団改革の成果が出ている。

「その辺は徐々に変えていこうとしているんだ。教団でも色々考えているわけでさ」

 

 そうか、この辺のレシピを広げる活動をしてみてもいいかもしれない。

 具体的には教会で付近の主婦相手に料理教室みたいな事をする訳だ。

 上手くいけば教団に対して何らかの親近感を持ってくれるだろう。

 住宅地に移設したり建て直して綺麗になった教会を中心にやらせてみるか。

 そんなアイデアを俺は心に書き留めておく。


「でも前にグロリア先生が言っていたよ。あまり食事にこだわり過ぎると大変なことになるって。前に教団の仕事で美味しい食事の開発を手伝ったことがあって、1週間くらい朝昼夜と特に美味しい料理を食べまくったんだって。その時は良かったけれどその後、体重が増えたり他で食べる食事が味がしないように感じたり。だから何事もほどほどがいいですよね、なんて話だった」

 ファミレスのメニュー開発時の事だな、きっと。

 確かにあの時は俺も同じような感じだった。


「ロレッタ先生はそういう美味しい料理が得意だぞ。その食事開発で料理担当をしていたからさ。何だったら休みの日にその辺を聞いてみるといい。ひょっとしたら作ってくれるかもしれない」

「えっそうなんだ。全然知らなかった」

「私が言ったと言うなよ」

 一応そう言っておく。

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