第27話 今日は遠足実習
農業で入った収入は例年よりかなり多かったらしい。
教団経営のレストランやドリンクスタンド、病院はあちこちの都市に広がり始めている。
教団に入るお金も増えているのだが、やっぱり初期投資分の回収は結構重い。
しかも各地で新しい通いやすい教会を作ったりしているのでお金がかかる。
学校にも結構お金を使ったし。
そんな訳で当分は新規事業の立ち上げは休止という事になった。
俺達も学校業務がメインになっていたりする訳だ。
さて今日は3組の遠足。
目的地は歩いて2時間のリアーナの町。
この辺の村の農作物の集積地になっていてそこそこの商店街もある。
今回は生徒35名に教員その他7名体制だ。
実はこの遠足、普通の遠足ではない。
生活体験というか市場経済というか、要はお金の使い方の体験学習も兼ねている。
3組ともなると市場経済と無縁の生活をしていた奴が半数以上だ。
食べ物は半ば自給自足で服や生活必需品も共同体で物々交換。
お金で買い物などしたことが無いなんて奴が少なくないのだ。
だから今日は毎日働いた分のお金から
どんな店があるのか。
どんな物を売っているのか。
いくらくらいで売っているのか。
どうやって物を買うのか。
遠足とは言うが実際はそれを学ぶ実習だ。
ただこのクラスの皆さん、まだ初歩的な計算が出来ない。
値札を読むこともまだあまり自信が無い。
だから5人のグループに教員等1人が案内役兼世話係としてついている訳だ。
使徒で校長である俺も1グループ引率している。
なお副校長は学校に置いてきた。
奴の方が俺よりも学校では役に立つからな。
それに見かけが生徒と大差ないし。
街の広場まで集団で歩いて行って、そこから3時間の自由行動開始だ。
昼食も何処かの店で買って食べるか店で食べるかになる。
「さて、皆は何処へ行きたい?」
予め学校で店の種類と売っている物等を教えて計画を考えている筈だ。
そしてこのグループが最初に見たいと言ったものは。
「服屋さん。どんな服を売っているか見てみたい!」
「そうそう。買えるかどうかはわからないけれどね」
女子5人の班だけあって、まずは服を見に行きたいそうだ。
予め配った地図を見ながら皆さん歩き出す。
ただ図面の見方なんてのも訓練していないと分かりにくいのだ。
「ねえ、これどうやって見るんだっけ」
「この広場がここの場所だよね」
このグループは会話が成立している分大分ましなグループかもしれない。
その辺すら入学時には難しい生徒もいたからな。
俺の担当という事でかなりましな生徒をつけてくれた可能性は高い。
それでもやっぱり文字は読めないし、地図もアイコンで見ているだけだけれど。
仕方ない。ちょっと教えてやるとするか。
「この地図のこの部分に櫓が書いてあるだろ。それがそこにある櫓だ。あとこのマークは共同市場だろ。そっちに見える奴だ。
その2つを地図と本物同じ方向に合わせてやる。こんな感じでさ」
地図を回すより本人を回した方が早い。
そこまでやってやっと一部は方向と場所の関係を理解する。
「そうか、つまり服屋さんはあっちね」
「えっ、そうなの?」
そうなんだ。
まあその辺はおいおい学習するにつれて色々分かっていくだろう。
「それじゃその図を見ながら移動開始!」
取り敢えず理解したらしい1人、クロエちゃんを先頭に歩き出す。
うん、この中ではクロエちゃんなかなか優秀。
自分が道を曲がった時に地図も方向を変えることをわかっている。
この辺の相対化が出来ていれば今後伸びるだろうな。
まあそのうち他の子も出来るようになるだろうけれど。
「ところで校長先生と副校長先生ってどんな関係なんですか」
何か妙な事を聞かれた。
「元は教団の新しい教本を作る時に補佐としてついてもらったのがきっかけだな。使徒とはいうもののこの世界の事はあまり詳しくなかったからさ。副校長先生が色々知っているおかげで色々助かった。以来ずっと補佐役として働いてもらっている訳だ」
「個人的な関係としては」
うーむ。
「補佐役だし有能だから仕事では色々助かっているけれどな」
「そうじゃなくて!」
「そう言われてもな。でも優秀だぞ副校長。知識だけじゃなくて施術も使徒の私と同じくらいに使えるし」
「それ以外の関係は無いんですか」
何を聞こうとしているのだろう。
「エレナ駄目よ多分これ。きっと」
「でも
ああ、そういう事か。
やっと俺は何を聞かれているか理解した。
「そういう関係は全くないな」
「やっぱり見た目ですか」
「いや、そういうのじゃなくてさ。元々私にあまり奥さんが欲しいという感覚が無いからさ」
「使徒様だとその辺の感覚が普通の人と違うのかな」
「でも
おいおいおい。
この世界というか国でも女子とはこういう事を気にするのだろうか。
勘弁してくれよと思う。
「なら先生なら誰がタイプですか。グロリア先生やロレッタ先生も学校が出来る前から仕事をいっしょにやっていたんですよね」
「だからその気は今の処無いんだって」
「確か寮の生活指導をしているエヴェリーナ先生も一緒に仕事をしていたって聞いたよ。5人で学校の計画を立てていたって」
「でもエヴェ先生は去年の秋まではテュランの孤児院にいたんだよ。私の担当だったもん」
なんだかなあ。
確かにキレイどころと仕事をしていたという自覚はあるけれどさ。
俺自身は前世の事情で結婚恐怖症なんだよ。
まあそんな事、使徒様である俺が言えることじゃないけれどさ。
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