第6章 学校長兼任中

第26話 学校・開始

 生徒はなかなかバラエティに富んでいた。

 そして半数以上が自分の名前を書くことも出来ない。

 でもまあこれは元々の想定内。

 文字すら書けない人を少しでも減らすというのもこの学校の目的だ。


 男女比が3対7で女子が圧倒的に多いのは俺には意外だった。

 でも理由を聞いて納得した。

 男子はある程度育てば肉体労働系にこき使うことが出来る。

 女子はその辺ある程度制約がある。

 だから貧困家庭で『いらない子』扱いされるのは女子が圧倒的に多いそうなのだ。

 捨て子も8割は女子らしいしな。

 どうりで生命の神セドナ教団も女性ばかりな訳だ。

 農業や建築の実務部門以外はほとんど女性だしな。


 生活指導は最初非常に大変だったそうだ。

 例えば貧農すぎて大きな風呂に入るなんて習慣の無い子もいる。

 当然その辺は寮務生活指導が教える訳だ。

 他にもペンの持ち方使い方、机や椅子、基本的な掃除道具の使い方まで。

 生徒によっては1から指導する必要がある。

 授業も一番下のクラスはまず、

『ペンとインク、紙の使い方。線や丸を描いてみましょう』

なんて辺りからスタートだ。

 ただこの辺孤児院出身の先生は実情をよく知っている。

 だから教え方も色々手慣れていてスムーズだ。


 逆に貧困家庭出身でもそれなりに努力して妙に出来る生徒もいたりする。

 そんなのは先生に難しい質問を持って来たりするのだ。

 例えば、

『先生、この世界はどうやって出来たのですか』

なんてとんでもない質問を聞いてきたりする生徒もいたりする。

 こんな質問をごまかすのは簡単だ。

 でも生徒こいつは今までそうやって聞く相手がいなかったんだろうな。

 そう思うと無下に誤魔化すわけにもいかない。


 この場合は困った先生によってまずイザベル副校長兼教頭の処へ回された。

「これには様々な答えがあるのです。何故様々な答えがあるかというと、それだけこの質問が難しいという事と、見る立場によって見え方が違うという事を意味しているのです。

 例えば生命の神セドナ教団をはじめとするこの国の主要な教団では……」

 そんな感じで宗教及び伝承で言われている主な説明をした後、

「ただそれが事実かどうか、人間が見て事実と感じるのかはまた別なのです。

 あとこの学校には使徒としてこの世界とはまた違う世界を知っている校長先生がいるのです。そこで更に話を聞いてみると良いのです」


 そう言ってイザベルが生徒を引き連れて俺の席の前にやってくる。

 そこで俺は仕方なくビッグバン宇宙論を説明する。

「……ただ、これは俺が知っている世界で研究された結果の説なんだけれど、これも絶対そのまま正しいかどうかはわからない。例えば神の目線で見れば別の力なり意志なりが働いていたように見えたのかもしれない。それを神から何らかの方法で伝えられた話が俺達人間に分かりやすいように変化したものが宗教の教本にあるような話かもしれない訳だ。

 だからここから先は君自身の五感や思考や感触で確かめるしかない。まあそんなところだな」

 なんて余計にややこしい話にしつつ生徒本人を何となく納得させたりするわけだ。


 取り敢えずクラスは文字を書ける、自分の名前を書ける、ペンを使った事がある等で3クラスに分けている。

 1組が文字を読み書き可能、2組はペンくらいは使った事があるし少しは読める文字もある、3組はそもそも家に紙とかペンとか本とかが無かった組だ。

 だから3クラスともまるで進度が違う。

 2組だけはまあ生徒の質がそこそこ揃ったので授業がしやすい。

 でも3組はペンで線や円を描けるようにするのが最初の難関だ。 

 1組はこれまた知識がバラバラで、色々知っていたりしても知識源が偏っていたりする生徒もいるので難しい。

 調整役のイザベルや俺の出番が多くなったりする訳だ。


 それでも5月になるころには大分学校らしくなった。

 クラスにも学校にもそれぞれまとまりが出て来た。

 午後の農作業や工場作業等も生徒と指導監督担当それぞれが慣れてきて捗るようになった。

 勿論色々しょうもない事もある。

 何か質問等でわからない事があればイザベルや俺に事案が振られる。

 それをいいことに生徒の間で、

『校長と副校長双方に尋ねても納得できる説明が出来ない事チャレンジ!』

なんて事が流行ったりもした。

 主に1組の生徒が主犯だったが、一部は先生方まで加担していた模様。

 質問は性別がある理由、地球の構造、月の満ち欠け、物を分解した際の最小状態等々、いわゆるこの世界の普通の学習範囲を遠く外れた色々。


 ただ副校長イザベルの壁はとてつもなく厚かった。

 難しいものでもイザベルがこの世界での一般的理論を出した後、俺が前世で学んだ知識の一端を披露すると大体納得し諦めて戻って行った。

 なおこのチャレンジ、イザベル自身もかなり楽しんでいた模様。

「皆まだまだ甘いのですよ。でも私もいい勉強になるのです」

 なんて上機嫌で言っていた位だから。


 なおクラス担任は別として、俺もイザベルも授業を持っている。

 勿論他の仕事もあるからコマ数は少ないけれど。

 俺の場合は算数と理科中心で、イザベルの場合は国語と歴史中心。

 授業は無茶な質問が入ったりする1組が中心だ。

 いままで勉強できる場が無かったせいか、こいつらは無茶苦茶色々吸収する。

 俺達としても教えていて大変楽しい。

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