第25話 あっという間の冬
教科書を一から作る程の学識とかは俺達には無い。
それに時間も無さすぎる。
何せ来年の春までには開校させる予定なのだ。
そんな訳で教科書は既存のものをある程度活用することにした。
幸いこの国にはそこそこ裕福な商人や貴族が通う学校があるし、もっと上級の貴族等が家庭教師等で使う教科書もある。
そんな訳で色々取り寄せて中身を研究。
ただそのまま購入して使う訳ではない。
これらの本は高価だからだ。
研究用に数冊取り寄せる位ならともかく、全員分を購入するほどの予算は無い。
ならばどうするのか。
必要な処を抜き出してプリントを作るのだ。
生徒に配るのはそのプリントにする。
幸いこの国には著作権法はまだ無い。
なので抜き出して他に使う位ならOKだ。
この辺を全て俺達5人でやるには時間が足りない。
そこでイザベルの古巣である教学部の力を借りることにした。
例えば教学部図書館担当の知識整理担当。
名前は長ったらしいが要は司書の皆さんだと思ってくれていい。
元イザベルの直接の配下だけあって知識量はなかなかのものだ。
ここの部署に教えるべき内容を指示してプリントの一部を作って貰う。
更に教学部教本出版担当にも支援を依頼した。
こいつらは本や印刷物を作るプロ集団だ。
「こんな感じでこんな文字を入れてこんなイラスト入れて作ってね」
そういう感じで頼むと指示した通りのものを作って、銅版なり木版なりで刷るところまでやってくれる。
この版の方をとっておけばプリントが足りなくなっても追加で刷る事が可能だ。
そうやって教学部の全面的応援を得ても俺達の仕事がなくなる訳でもない。
出来上がってくるプリントの原稿を見ながらチェックしたり。
科目毎の授業数を割り出して学校に必要な職員の数や性質を決めたり。
場合によっては教員にふさわしい人物を探したりスカウトしたり。
何故か皆さん妙に教育にこだわりがある模様。
だから色々指示も細かいしチェックも厳しい。
「やっぱり人材育成は事業の基本だと思うのですよ」
個々の理想の形は別として、全員そのイザベルの意見に賛成だったりする訳だ。
目標は『ここの学校を出た子供の能力が認められ、就職口が引く手あまたの状態』になることだ。
そうすれば貧困の連鎖が断ち切れるだけでは無い。
社会の色々な処に
3年間で卒業するのが惜しいような生徒がいれば奨学金をやって上級学校へ通わせてもいい。
数人程度ならその程度の余裕はある筈だ。
教科書代わりのプリントを作りつつ、そのほかの事務仕事も同時にこなす。
学級の人数は33人前後、3クラス編成に決定した。
なおクラス編成は成績順の予定だ。
貧困層が中心である以上、学習能力の差は結構あるだろう。
そんな中でもそれぞれの形で知識を身につけてもらえるようにである。
ガンガン知識を身につけていく生徒もいるだろう。
最低限の知識を身につけた後は実学を学ばせた方がいい生徒もいるだろう。
幸い農業や建築業等の現場作業は教団内でいくらでもやっている。
実業側のニーズに応えることもできる筈だ。
色々理想が入っている分、どうしても仕事は多くなる。
イザベルなんか自分で抱えている仕事も多いのに、教学部との連絡調整でかなりオーバーワーク気味だ。
「頼むから皆無理はするなよ。イザベルも回復施術を自分でかけながら無理をするのは極力控えとけ」
「バレていたのですか」
「バレバレだ」
なまじ施術万能なのでそんな無茶を平気でやるのだ。
「でも今までやった教団改革の中でも今の仕事はやりがいを感じるのですよ。正直な処収入面ではきっとマイナスなのです。でもこの学校が成功したら、そしてこの制度が広がったら、きっと色々変わっていくと思うのです。
それに使徒様もかなり無理をしているのが見え見えなのです」
バレていたか。
他の教科は他の人に任せるにしろ、算数数学関係は色々教えたい事があるのだ。
勿論加減算止まりの生徒もいるだろう。
でも出来れば分数、そして二元一次方程式までは進める奴は進ませたい。
この辺が自然に出来るようになれば『論理的に物を考える』事に間違いなく役立つと思うのだ。
他にも学校行事とか休日の扱いとか。
クラブ活動なんてのも色々考えている。
ここで生活する3年間が今後の生活の上で有意義なものになるように。
ある意味自分自身のかつての人生を反省しての面もある。
季節は冬になり、冬至を越え少しずつまた日が長くなり始める。
学校や寄宿舎の建設も始まった。
学習机だの寄宿舎の家具だの備品も作り始めている。
予算の関係で備品もとりあえず1年生の分優先で。
学習指導要領ならぬ授業の参考進度表も作った。
勿論各クラス学習能力に差があるだろうから、あくまでこれは目安である。
ただ最初は色々大変だろうな。
何せ文字の読み書きが出来ない生徒が多いだろうから。
その辺はある程度臨機応変にやるしかない。
理想はあくまで高くだけれど。
勿論同時並行で学校以外の仕事当然やっている。
例えば砂糖を取るための甜菜の栽培指示だとかハーブ・香辛料の同じく栽培指示。
病院や施術院廻り、更に週に一度の説教だってある。
こっちの手を抜くわけにもいかない。
これも重要な仕事だからな。
そして春。
教員や寮務担当もやってきた。
全員で何度も打ち合わせを行う。
更に授業方法の研究だの午後からの作業部門の責任者との連絡調整だの。
なお当座は校長は俺が兼任、副校長兼教頭はイザベルが兼任となった。
グロリアとロレッタは教師、エヴェリーナは寮務生活担当としてやはり兼任。
まずは企画した俺達で校風の基本を作れと言う事のようだ。
他にも教師は2人、寮務担当は3人程来てもらっている。
生徒の選抜も既に終わり、4月1日にあわせて教団の馬車でやってくるようだ。
俺達の新しい挑戦が始まる。
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