第22話 受難? は続く

 俺とイザベルの受難はまだ続く。

 何かというと国内ツアーだ。

 約2か月で各地の教団関係施設を巡回する。


 名目上は生命の神セドナから預かった言葉を使徒として信者の皆様に広く説く為の巡行だ。

 でも実際はそれ以外の方が主な目的だったりする。

 第一の目的は教団の使用する農地の消毒及び殺虫。

 俺は召喚されて早々に全国の教団施設を回り土地の消毒殺虫を行った。

 その結果今年の教団の農作物収穫高は例年の3割増し以上と好調。

 その因果関係がバレてしまったのだ。

 教団の皆さんの目も節穴ではない。

 生命の神セドナ教団だけあって、動植物の変化については皆さん特に敏感なのだ。


 第2の目的は各地の施療院の巡回診療。

 教団本部の施療院にはオルレナ大司教という化け物がいる。

 召喚された時、俺は大司教方の中で彼女が一番若いと思った。

 実年齢もせいぜい30代程度と見積もっただがとんでもない。

 実はオルレナ大司教はアセルムス大司教と同学年だそうだ。

 ただ彼女は生命の神セドナの施術のほとんどを使いこなす事が出来る。

 結果何歳になっても見かけはそれほど変わらない訳だ。


 そんな化け物のおかげで教団本部の施療院は他と比べて重病・重症が多くとも何とかなっている。

 でも他の施療院はそうもいかない。

 化け物レベルの治療施術を持つ存在はそういないのだ。

 大体の施療院は中級の治療施術や回復施術を使える程度。

 大きな街の施療院でも上級レベルの施術を使える術者は1人いるかどうかだ。

 だから俺が以前に巡回した際、入院患者を半数まで減らす事が出来た。

 そしてあれから約半年。

 再び各地方の施療院や救護院の入院患者が増え始めている。

 このうち治療できる分は治療して費用を節約せよという訳だ。


 つまり今回の巡行は『教団と信者の為に使徒様をこき使うぞ』というもの。

 だが今回は俺も独りではない。

 優秀な補佐がいる。

 知識は教団一、使える施術も教団有数という天才イザベル司教捕だ。

 これほど教団に寄与できる機会を俺一人で独占するのは申し訳ない。

 そんな訳でイザベルも同行させることにした。

 まあ説教の原稿とかも書いてもらわなければならないしね。

 これも仕事だ。


 なお俺達が巡行中、グロリアとロレッタはネーブルの新しい施療院や新しい教会を手伝うとの事。

 彼女達は優秀だし見た目もいいから一般人相手には役に立つだろう。

 そんな訳で俺とイザベルは心置きなく巡行の旅に出ることが出来た訳だ。 

「何か使徒様の補佐の中で私1人が貧乏くじをひいているような気がするのですよ」

「安心しろ。俺も一緒だ」

「使徒様は使徒だから仕方ないのです。でも私は一介の専従員に過ぎないのです」

「司教捕となれば立派な高位聖職者だ。諦めて生命の神セドナの御力をひろめる有難い仕事を出来る事を喜ぶがいい」

「諦めて、と言っている時点で本音駄々洩れなのですよ」

「あいやしまった」

 そんな感じで巡行は始まる。


 勿論歩いていくわけではない。

 各地へ向けて教団の連絡馬車が出ている。

 それに便乗させてもらう訳だ。

 教団の馬車の荷物の都合上、荷台に載っているのは主に農産物。

 ジャガイモとか麦の袋の間に身を縮こめて移動となる。

 これが使徒と高位聖職者に対する扱いなのだろうか。

 疑問もあるが生命の神セドナ教団は元々こんな教団なのだ。

 高位聖職者に贅沢させるよりは正しいと俺も思うのだが……


「次の街までどれくらいだっけか」

「ナープラなのですよ。おそらく日が暮れる前位には着くのです」

 つまりそれまでじゃがいもの袋と一緒に揺られる訳か。

 うん決めた。

 寝よう。

「とりあえず無駄なエネルギーを使わない為、ちょいと睡眠魔法で休むのです。何かあったら自動で起きるので気にしないで下さいなのです」

 おっと、先にイザベルにその手を使われたか。

 でもこいつがそうするという事は寝るのが正しいという事なんだろうな。

 なら俺も同じ手を取らせてもらうとしよう。

 おやすみ、ジャガイモの皆さん。


 そんな訳で起きたらナープラの教会に到着だ。

 狭い処で縮こまって寝ていたので身体のあちこちがキシキシする。

 まあ俺は仮にも使徒だから回復施術で何とか出来るけれどな。

 勿論補佐役殿も同じことをしている模様。

 さてナーブラの教会もネーブルの旧教会と同じくらい酷い状況だった。

 広いけれどボロく、掃除をしても薄汚れた感じが消えない建物。

 隣の施術院や救護院はほぼ人数一杯の状況。

 春に治療と回復をかけまくって半分まで整理した筈なのに。

「これはやりがいがありそうなのですね、使徒様」

 まったくもってその通りだ。

 疲れるがまあ、やれる処からやっていくとするか。


「遠い処お疲れでしょう。お部屋を用意しております。夕食まで少しそちらでお待ちください」

 迎えに出てくれた教会長で地区司教のベルナデッタ司教が頭を下げてくる。

「いえ、まずはやれるところからでもやっていきましょう。施術院の方を案内して頂けますでしょうか。出来れば各患者さんの様態に詳しい現場担当の方を案内につけて頂けると助かるのですが」 

 俺達の仕事が始まる。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る