第21話 予算が無いので地味な作業
さて、今日は面白いものが入って来た。
スコラダ大司教配下の農業指導担当、ヒラルス司祭が色々な種を持ってきてくれたのである。
「使徒様に頼まれていたカブに似た野菜ですが、近いものをいくつか種で入手しました。確認の上ご査収お願いいたします」
小さいがしっかりした厚みがありジャガイモの種と比べると遥かに存在感がある。
施術で確認すると間違いなく各種ビートの種だ。
「ありがとう。この種類です。これをまた品種改良すればカブより更に面白いものが出来ると思います」
そんな訳で早速イザベルと種のより分け作業を開始する。
「このカブみたいなの、何に使うのですか。確かに葉も肥大化した根もいい飼料にはなるとおもうのですか」
種を見ただけで生育後の状態をわかるのはここではイザベルと使徒の俺くらいだ。
だがイザベル、君はまだ甘いな。
「今回注目するのはその肥大した根だ。よく成分を確認して見ろ。甘いだろ」
種から成長後の根の味まで確認しろとは何とも酷い話だ。
でも
そして教団の誰かが出来る事は大体イザベルも出来るのだ。
本当に天才だよな、こいつ。
「確かに甘いのです。でも食べられる味では無いのです。あくが酷いのです」
そう、イザベルや俺ならそこまでわかるのだ。
そして俺には前世の知識がある。
「これから甘味料を分離できるんだ。
① 太い根の部分を刻みまくって水で煮出して
② 草木灰を入れて沈殿以外を取って
③ また煮詰めて煮詰めて
④ 最後冷やしてやれば甘味の塊になる。
残った屑や葉っぱ部分なんかは家畜の飼料になるし無駄も無い」
「なるほど。麦ではなくこの根っこから甘味を取る訳ですか」
ふむふむとイザベルは頷く。
「でも今まで通り麦から作るのと何処が違うのでしょうか」
「甘みの質と構造が少し違うんだ。こっちの方が色々応用が効く。まあその辺は実際に出来てからのお楽しみだけれどな」
ただ今の処上手く育てたとしても根の糖度は10%になれば上等といったところ。
確か北海道で栽培していた品種は16%くらいだからそれに比べれば少ない。
まあその辺は育てながら品種改良していくしかないかな。
良さそうなものを毎年より分けて種をとってという形で。
「そんな訳でこれらの種を根っこが大きくなり甘みが多く取れる順に分別する」
「……ううっ。こういうちまちました仕事は嫌いなのですよ」
「でも出来るのは俺とイザベルしかいない。頑張れ!」
例えば医療や厚生担当のオルレナ大司教は使徒である俺と同等に近い生命に関する能力を持っている。
ただ彼女は医療厚生関係の業務が忙しい。
他にも施療院のフローラ司祭あたりなら同じ種類を集める程度なら出来る筈だ。
でもこの辺の皆さまは全員自分の仕事で忙しい。
こんな新規事業の種を拾うような作業に引っ張ってくるのは憚られる。
つまり俺とイザベルでやるしかないわけだ。
「できれば次の新規事業の計画を考えるような作業が楽しいのですよ」
「今は予算が無い。もう少しすれば2期目のジャガイモとインゲンの収入が入る。それまでは地道な作業をやるしかないんだ」
「わかっているけれどちまちました作業は苦手なのですよ」
「ジャガイモの種よりはましだろ」
あれは鼻息でも飛びそうだからな。
こっちは厚みがある分まだましだ。
「ほらほら、グロリアもロレッタも働いているぞ。補佐筆頭のイザベルが働かないでどうする」
「あっちの作業の方がまだいいのですよ」
グロリアやロレッタにやってもらっているのは乾燥ハーブ等の作成だ。
ただ乾燥させるだけのものもあれば、色々混ぜて加工するものもある。
混ぜるものは例えば七味唐辛子とかブーケガルニとかだ。
ブーケガルニは小さな木綿袋に入れて取り除きやすいようにしてある。
これらの乾燥ハーブや調味料が使えればどの季節もちょい味や香りに凝ったレシピが楽しめる。
無論ここで作っているのは試作品。
ここでのマニュアルを活かして来年以降は本格的に栽培し製造する予定だ。
なお味噌づくりとか麦芽糖作りは既にスコラダ大司教へと投げてある。
そこそこ美味しいものが教団内では流通し始めている状態だ。
レストラン用とかドリンクスタンド用もあるしな。
「うーっ、イライラするのです」
「耐えろ、これも
「自分でも本気で思っていない事を説くのは詐欺師なのです」
「俺は詐欺師ではなく使徒だ。ほれほれ、手が休んでいるぞ」
地味な作業はまだまだ続く。
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