第5章 予算が切れて一休み

第19話 開発室も一休み

 俺達の部署は通称『開発室』と呼ばれている。

 正式には『教団改革推進本部』なんて物々しい名前。

 でも新規事業の開発が多いので実態に即し『開発室』と呼んでいるだけのことだ。

 さて各地へ新タイプの施療院を建てるおかげで今年の補正予算すら無くなった。

 なので開発室でも出来る事は限られてくる。

 予算がかかる事は出来ない。

 だからという訳でもないが本日のお仕事は『ジャガイモの種の選別』である。


 何だそれは、そう思うかもしれない。

 でもこれはこれで重要なお仕事なのだ。

 俺が召喚されてきてそれほど経っていない頃の話だ。

 センチュウ被害に耐性のあるジャガイモを作る為、各地から集めた芋を使って品種改良を行う指示を出した。

 その品種改良の結果出来たジャガイモの種が無事収穫されたのである。

 困った事にこの種、同じ根茎から出てきている種を集めても、全部が同じ性質をもったものとは限らない。

 受粉具合とかで性質の違う種が混じってしまうのだ。


 本当ならそんな事は農業部門でやれと言いたい。

 だが農業部門は使える施術持ちがあまり多くない。

 施術持ちでも1ミリ程度しかない種を見て分別できるなんて奴はもっといない。

 そういった高等施術持ちは業務部門よりむしろ厚生医療部門に多いのだ。

 でも医療部門は施療院を抱えているのでそう施術持ちを他に貸したりは出来ない。

 だいたい今は新しい施療院計画で能力のある施術持ちが足りない位なのだ。


 そんな訳で結局俺達がやる羽目になったのである。

 厳密に言うと俺とイザベルが、なのだけれど。

 グロリアとロゼッタはそこまでの施術を持っていないから。

 なおグロリア達2人は本日は施療院の手伝い。

 朝一番の馬車で出て、明日の馬車で帰ってくる予定だ

 最初1週間手伝いをした時、特に子供と若いお母さんの評判が良かったらしい。

 そんな訳で今でも3の曜日、小児科と婦人科主体の日は2人とも施療院の手伝いに出向いている。

 ちなみに俺とイザベルが出向く日もある。

 1の曜日で重病及び重症指定日だ。

 なお俺とイザベルのコンビはこっちの綺麗な方の施療院だけではない。

 もう1箇所あるやばい方の施療院も回らされる。

 俺達とグロリア達の扱いが随分と違うような気がするのは気のせいだろうか。


「これはちまちましたお仕事なのですよ。鼻息ひとつで全てが台無しになるのです」

「頑張れイザベル。次には種芋が出来るからこの苦労もなくなる」

「意義はわかっているのです。ただイライラするのです」

「耐えろ。これも神の試練だ」

「絶対嘘なのです」

 そんな事を言いながら種をより分ける。


 なお交配そのものは上手く行ったし、品種もかなり満足いくものが出来たようだ。

 俺やイザベルなら種を見るだけでわかる。

 成長後の性質やら芋の状態まで見る事が出来るから。

 粉系の耐性品種は前世でのキタアカリによく似た感じ。

 あれも確か耐性品種だったよな。

 あとメークインよりちょい小さくて丸っこい、煮物には良さそうな品種もある。

 この2種類をメインに他に良さそうな特徴を持つものを選んでより分ける。


「区別をつける為に品種名をつけたいと思うけれど何か案はあるか」

「使徒様が作ったので使徒イモ1号とかでどうなのですか」

「却下」

 男爵イモと同じように使徒イモなんて呼ばれるのはどうかと思うのだ。

 あれも川田男爵イモにならなくて本当に良かったよな、川田氏としては。

 もっとも川田男爵が何をした人かは俺は知らない。

 もはや知るすべも無いけれど。


 俺は逆襲に出る。

「どうしてもそう名付けたいなら、小型煮物用はイザベルと名付けるぞ」

 イザベルは頷いた。

「了解。却下なのです。仕方ないので仮名として、セドナ神殿1号耐性粉系、セドナ神殿2号耐性粘質、セドナ神殿3号耐性中間とでも命名しておくのですよ」

 とりあえずはそんな感じでまとめる。


「これの種芋が普及したら零細農家なんかも大分楽になるからな」

「それはわかっているのですよ。でなければこんな面倒な事はしないのです」

 広大な耕地を持っている大農家や教団は輪作だの休閑地だのを使ってセンチュウや病害をある程度抑えられる。

 でも耕地面積が小さい小規模自作農等はそうもいかない。

 自然連作を繰り返し、結果土地を駄目にしてしまいがちなのだ。

 ただこの耐性品種があれば連作の害をある程度は抑える事が出来る。

 その上で教団がある程度連作の補助を受け持ってやれば、小規模農家の収入も大分安定してくれると思うのだ。

 その辺はイザベルもよくわかっている。


「教団による中小農家の保護策等も考えないとな」

「そういった他の事を考えないと気が遠くなるのです」

「がんばれイザベル。救いの日はきっと来る」

「使徒様は自分が信じていない事を人に説いてはいけないのですよ」

 そんな無駄口をたたきながら、ちまちました作業が今日中ずっと続く。

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