第18話 病院仮開院・その後

 ちょっと寝た。

 そう思ったらすぐにたたき起こされた。

 目を開けてみるとイザベルだ。

「そのまま寝ると回復がいまいちなのです。無理矢理でもいいからとにかく食べるのですよ」

 そう言って木箱を机上に置き、中から料理を取り出す。


「これは?」

「うちのレストランに作って貰ったのですよ。フローラ司祭分も用意しておいたのです。とりあえず寝るならこれを食べてからなのです。食べておけば回復量も多いのですよ」

 確かにその通りだ。

 俺はゆっくりと起き上がる。


「ありがとう、イザベル」

「ではフローラの処へも持って行っておくのです。あとランベルト司教には明日用にあと3人応援を出せと言って了解をとっておいたのです。だから心配しないでとにかく休むのです」

 何から何まで非常にありがたい。

 俺はさっそく夕食を頂くことにする。

 メニューが油淋鶏なのは消化の良さより俺の好みを優先した結果だろう。

 本当にありがたい奴だ。


 俺の今までの活動が上手く行っているのは半分以上イザベルのおかげだ。

 何せ俺、今までの教団の姿勢から見て問題になりそうな活動を色々やっている。

 教本改編だの営利活動だの贅沢のすすめだの。

 抵抗を受けずに実現しているのはひとえにイザベルの力だ。

 奴は教学をはじめとする知識で教団内の理論上断れない形へと話を持っていく。

 一方で事業そのものが成功するよう配慮するのも忘れない。

 必要なら人材を集めて来たり、教会を通じて近隣の信者に協力を依頼したり。

 使徒である俺の権威を使ってはいるが、実際にその辺の活動をやっているのはほぼイザベルだ。


 こういう相手が身近にいたら俺の前世も変わっていたかな。

 そう思いかけて慌ててそれ以上進みそうな思考を停止させる。

 ここ生命の神セドナ教団は生命の教団。

 故に聖職者だろうと妻帯はむしろ奨励されている。

 産めよ増やせよもまた神の意志なのだ。

 しかもイザベルが教本をいじったおかげで重婚や一夫多妻、多夫多妻すらOK。

 うん、この辺は泥沼にはまるな。

 考えない考えない。

 それにイザベルは合法ロリだしな。

 俺は本来巨乳愛好家なのだ。

 ただし前世で失敗して今では結婚は墓場と信じる独身原理教徒だが。

 

 そんな事を考えていたらいつの間にか眠ってしまったようだ。

 気付くと外が明るい。

 そろそろ朝の鐘が鳴る時間かな。

 使徒の身体の頑丈さのおかげか疲れはきれいさっぱりとれている。

 さて、洗面したら病院の周りを掃除して今日の開院に備えようか。

 この病院の2日目が始まる。


 ◇◇◇


 この事態を大司教の皆さんも重く受け止めたようだ。

 そんな訳で5日目から増築工事が始まった。

 事務方総括のソーフィア大司教が特別予算をつけてくれたのだ。

 また国内の他の大都市にも同じような中層階級用の施術院の開院を検討するとの事である。

 そんな訳でこの施術院で1週間容赦なく働いた後、俺達は解放された。

 手厚い人員配置も既に出来ている。


「でも使徒様とイザベル様のタッグを見ると、あれ以上強力な治療体制を想像できないのですわ」

「現在死んでいなければ即日全回復させる、そんな勢いでした」

 そう言われても困る。

 俺もイザベルも1人ずつしか存在しないのだ。

 それにこれ以上無茶な体制はやりたくない。

 俺やイザベルはともかくフローラがきっと潰れる。


「フローラ司祭も追加で派遣したベアトリーチェ司祭も治療施術のベテランなのです。宿直体制も2人で交代制にしたのです。ですから心配はいらないのですよ」

「でも当分開発室は予算不足で開店休業ですね。各地に建設する新しい施術院に補助予算を投入するそうですから」

「でもこれで救われる人が増えたなら、それはそれで神の意志にそう事なのですよ」

 イザベルの台詞はどこまで本気かわからなくて困る。

 正直こいつが本気で神を信じているかどうか、俺は怪しいと思っている。

 前世の俺と同じで見たものしか信じない。

 そんな雰囲気が時々感じられるのだ。


 ただこいつが動いている動機は権力欲とかそう言ったものでもない。

 以前黒幕に憧れるなんて言ってもいるがおそらく只の冗談だ。

 その辺は一緒に働いてみてわかるようになった。

 こいつの目線は何かきっと遠いところにあるような気がする。

 それは多分俺がやろうとしている教団の改革よりもっと遠いもの。

 でも結果としてはきっと近しいもの。

 そんな気がするのだ。

 俺はどこまでこいつの見ようとしている世界に近づけるのだろうか。

 俺としては出来るだけ同じ方向を歩いていければ助かるのだけれど。

 

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