第4章 俺、病院を設立する

第16話 取り敢えず仮開院

 まずは俺が病院のラフ案を作る。

 イメージは前世の病院だ。

 ただ前世の病院をそのまま真似するつもりはない。

 例えばあの待合室。

 風邪なんて引いている奴がいたら一気に広まりそうだ。

 だから待合室は個室とまではいかないけれどそれに近い構造で作りたい。

 あと清掃等がしやすいように出来るだけ合理的な設計で作りたい。

 常に綺麗で安心できる場所にしないといけないからな。

 清掃等に必要な人員が少なければ少ないほどコストが下がるし。

 受付や診察のシステムも考えた方がいいだろう。

 診療科は別けるべきか否か。


 そんな事を考えて作った案は残りの3人によって更に改良される。

「受付と診察と支払いの待合室が別なのは不合理なのです。全部同じ場所で待てるようにするべきなのです」

「この待合室構造だと閉塞感がありますよね。中をもう少し広い空間にして、その周りを大きめの衝立で仕切られた省スペースで囲うのはどうでしょう」

「急患や重病人が別ルートで入れるようにした方がいいと思いますわ。その辺を一般の病人の方の目にさらさない方がいいと思いますから」

「この順番札というのはいいシステムだと思うのですよ。これは診察順だけでなく、最後の会計まで同じ札で通せれば完璧なのです。不必要に患者の名前をさらさないで済むのです」

「治療担当者が曜日と午前午後別というのはいいですね。治療内容の得意不得意に合わせて配置することができますから、その分色々な患者に対応できます」

 そんな感じで次々にアイデアが形になっていく。


 結果、前世の病院と比較しても斬新な施療院案が完成した。

 入口から受付、支払い及び薬剤受取窓口、診察室1~5と並んだ配置。

 このうち受取窓口のところが少し出っ張っていて、更に角になっている。

 だから診察室方面は見通しにくい。

 それら施療院側の窓口や診察室を囲む空間を横方向だけ大きめの壁で仕切られ2~3人用の長椅子が置かれている場所がぐるっと取り囲んでいる。

 これが待合室がわりだ。

 待合用の空間にはそれぞれ1番から40番まで番号が振られている。

 受付して札を受け取ったら自分の番号の場所で待つ仕組みだ。

 これなら番号を呼んで相手がいないと探し回る事も少ないし、待合室内感染も起こりにくいだろう。

 更に急患用には別の出入り口が用意されている。

 こっちは別通路で診察室5と6へ入れるようになっている。

 この診察室5と6は大きめで大規模な施術が可能な治療室だ。


 診察及び治療代金についても考えた。

 診察1回のみで済むものは正銅貨5枚500円

 診察と施術1回で済むものは小銀貨1枚1000円

 薬代は時価で実費だが、おおむね小銀貨1枚1000円以内。

 数回に分けて施術や診察が必要なものは、

  2回目以降の診察は1回正銅貨4枚400円

  2回目以降の診察&施術は1回正銅貨8枚800円

 ただし例外として、大怪我とか重病等で施術者が限られたり高度な施術を必要とするものは別料金。

 有料だが気軽に来ることが出来る程度の代金に設定した。

 俺が言うのも何だがかなり良心的な価格だと思う。


 そんな感じで立派な計画が完成した。

 でも残念ながらすぐには建設へゴー!、とはならない。

 もともとここ生命の神セドナ教団は貧乏である。

 俺の農業対策で増収した分で、ドリンクスタンドやレストランを設置することが出来た。

 でもその辺の資金もそろそろ底をつく。

 ドリンクスタンドやレストランの収益がある程度増えるまでは我慢するしかない。


「とりあえず簡易的な施術院を作って面倒を見るか。診察料金設定はそのままで。今でも小さめの施設なら充分作れるしさ」

「まあ仕方ないと思うのです。新しい施術院が必要なのは確かなので、とりあえず今の予算で建設できる範囲で妥協案を作るのです」

 そんな訳でレストランからほど近く、将来を見越した広めの土地に出来たのは簡素で普通の家よりやや大きいかな程度の建物。

 ただお金が貯まれば改築して当初の予定に近い形に出来るよう設計してある。

 この辺は建築物担当グロリア司祭長苦心の賜物である。


 なお今回はどれくらい需要があるのか今ひとつわからない。

 なので最初は事務員2人、薬剤担当の調合師1人、治療施術師が専任1人とあと臨時で俺とイザベルという形でスタートすることになった。

 俺はこれでも使徒だから大抵の治療、回復施術を使う事が出来る。

 イザベルも知識過剰だから大抵の治療、回復施術を使う事が出来る。

 そんな器用貧乏系の2人でバックアップするという計画である。

 なお専任の治療施術師はフローラ司祭という中年の女性。

 今まではアネイアの施術院にいたそうである。

「一時的とは言え使徒様と共に働けるとは大変光栄です。どうぞよろしくお願いいたします」

 うん、普通の教団専従員さんだな。

 うちのスタッフのような癖は無い模様だ。


 そんな訳でとりあえず有料施術院仮開院である。

 今回はレストランの意見掲示板に施術院開院のお知らせを貼る程度にとどめた。

 場所と診察時間の他、費用等も記載しておいたので迷う事は無いだろう。

 今回は営業というより奉仕に近い感じなのでポスティングまではやらなかった。

 それに簡単な治療施術なら他の教団の教会でもやってくれるし。

 だから最初は閑古鳥が鳴く程度からかな。

 そう俺は思っていた。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る