第5話 再び農園で

 さて、国中を南へ北へ出歩く事2月ばかり。

 生命の神セドナ教団の施設のうち大規模なものはほぼ廻り終えた。

 教団の所有する大規模な農地には一通り害虫病原菌死滅の施術をかけ終えた。

 教団が運営している施療院に入院している患者も半数は施術で全快させた。

 残りはまあ重症だの年齢的なもの等で症状を和らげるのがやっとだったけれども。


 さて、俺達のいるこの国と教団についてちょっと説明しよう。

 この国はスティヴァーレ王国といい、南側に突き出た半島を領土としている。

 国の東西南は海、北は険しい山岳地帯で他国との交流はほとんど無い。

 その半島の中央部、やや東側の高原地帯に教団の本拠地ラテラノの村がある。

 基本的には教団と教団関係者しかいない農村だ。


 ラテラノ村から東へ歩くこと1日、馬車だと3時間程度の場所に王都アネイアがある。

 この位置関係からわかる通り、かつて生命の神セドナ教団はこの国スティヴァーレの国教に近い存在として扱われていた。

 だが約百年前、時の国王により『宗教と王権の分離』宣言が出され、大雑把に言えば宗教が完全に自由化された。

 宗教と政治の分離そのものは健全でいい事だ。

 でも実は他の教団から多額の金が国王側に流れた結果という話もある。 

 結果として生命の神セドナ教団は国の庇護が無くなった。

 その癖国と近かったころからの業務でもある施術院や救済所、孤児院の運営等はそのまま教団で維持する事となってしまった。

 目端の利く者や才気だった者は教団から離れ、善良で不器用な人々だけが残った。

 結果、現在の貧乏教団になってしまった訳である。

 

 貧乏から脱出するにはお金を儲けなければならない。

 俺が施術院で治療しまくったおかげで今月分の施療院の予算が少し余っている。

 また農業の収益も今年分は大分上がるだろう。

 その上がった分で儲ける施策を考えなければならない。


 さて。

 俺は2か月ぶりに帰ってきた教団本拠地で、スコラダ大司教の説明を聞いている。

 彼には俺のいない2か月の間、仕事を2件頼んでおいた。

 ジャガイモの品種の収集と、ここで栽培可能な調味料系作物の選定である。

「まずジャガイモになります。この付近だけではなく、国内各所から少しでも違った品種をという事で探させていただきました」

 様々な色や形のものが約100個程ある。

 冷暗所で保管しておいたらしく芽等はまだ生えていない。

 さて、これを神の御業で見分けたり遺伝子操作をしたりは可能か。

 うーむ、遺伝子操作までは俺の力では出来ない模様だ。

 しかし有望な組み合わせを見つけることは出来たぞ。


「これから取り分ける芋を栽培してください。花が咲いたらこれから書く組み合わせ通り交配して種を採取します。その種で栽培して種芋を作れば、5割程度の確率で連作でジャガイモが育たなくなった土地でも育ち、かつ土中の有害なものを減らす事が出来る芋になる筈です」

 そんな訳で芋をより分け、それぞれA,B,C,D,Eというように名付け、有望な交配パターンを紙に書いておく。

「このうち最も有望なのはAとCを交配したものです。煮物にすると崩れやすいですが。茹でたり蒸かしたりするとホクホクで甘い芋になると思います」

 この辺はジャガイモは主食の一つ。

 潰して食べたりそのまま食べたりする。

 だからしっとり系よりホクホク系がいいだろう。


「かしこまりました。それではこれらの芋はご指示の通り栽培したいと思います」

「では次に試験栽培中の調味料となる作物をご覧いただきたいと思います」

 そんな訳で畑へ。

 おうおう、色々集めてあるな。

 ジャガイモの方もそうだがこのスコラダ大司教おっさんとその部下、なかなか優秀だ。


「これはいいですね」

「説明しなくてもわかりますか」

「ええ、実物を見れば」

 何せ俺には現状認識能力がある。

 植わっているのは無臭ニンニク、オレガノ、バジル、ミント、唐辛子。

 更にローズマリー、タイム、月桂樹の若木も見える。

 胡椒はまあこの辺では育たないから仕方ない。

 カラシ菜はどうやら種で用意している模様。

 うん、ほぼ完ぺきだ。

 強いて言えば欲しいもので一つだけ足りないものがある。

 この世界ではまだ砂糖用としてテンサイは栽培されていない模様だ。

 だから気付かなかったのだろうけれど。


「すみませんがこういう植物を知らないでしょうか。葉っぱがこんな大きさでこんな形で、根っこがこれくらいの大きさになるものです。大体9月終わり位に葉っぱが黄色くなって枯れて、こんな形の芋みたいな太った根っこが採れます。ひょっとしたら家畜用に栽培しているかもしれません。葉っぱも根茎も食べられるます」

「赤っぽいカブに似たものでしょうか」

「そう言えばカブにも似ていますね。色は赤いものと白いものがあります。栽培の季節は過ぎていますが、もし有りそうなら教えていただけますか。これは家畜用だけでなく色々面白い用途がありますから」

「わかりました。探してみましょう」

「急がなくても大丈夫です。来年の植え付けに間に合えば充分ですから」

 砂糖が無くても代用品はある程度作ることが出来る。

 大麦の収穫時に少し分けてもらおう。

 アレの酵素で水飴が作れる筈だ。 

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