第2話 私の鮮明

「はい、そうですね。

着いた頃には落ちていて..」

「何故その時点で警察や救急車を呼ばなかったんです?」

「下では既に人だかりが出来ていて、呼ばなくても既に連絡がついていました。」

「下で朱実さんを眺める人が連絡をするのが見えた、そういう事ですね?」

「....はい。」

何故が中心で訳を話している男がいる

言葉のほぼは嘘八百だがよく纏めたものだと関心はする。


「それではもう一つの疑問ですが、現場の聞き込みや捜査を終えこの部屋に来たとき、貴方と友人の緋奈香さんはベッドで眠っていました。それもぐっすりと寝息をかきながら」

人を殺して現場で寝ている狂人がいるとよく聞く、警察は考える力が無いのですぐに既存の情報のみで決め付ける平和とは程遠い連中だ。

「..落胆し、嘆く気力すら無かったのでしょう。〝眠りたい〟と、言ったので共に添い寝をしただけですよ」

「添い寝...ですか。」

物足りなさを滲ませてはいたが聞き方が分からず、帰り支度をするしか無い様子だった。

「それでは私はこれで、また何かあったら御連絡します。」

「ええ..」

静かに扉を閉め一旦の区切りをつけた

「二度と顔を見せるなよ?」

「……。」

その後ホテルマンの男はオーナーにこっ酷く怒られ辞職を余儀なくされた。

怒号が飛び荒ぶ間も彼は、平然と無表情を貫いて揺らぐ事はなかった。


「.....ふぅ。」 「……」

「..よく切り抜けたね、警察」

「切り抜けた?

僕は真実を語っただけだけど」

「...それも嘘?」

嘘を頻繁に付く程悪戯な印象では無いが、ハキハキとものを言う程素直な雰囲気も見られない。

「あの女は僕が部屋に入る前から飛び降りようと考えていた。その時点で既に下には落ちていたんだ」

「...かもね。」

否定する気もおきない。

したところで言葉通り既に落ちている

「モップの跡はどうすんの?」

「柄を強く押しつけた部分か..」

左肩に、恐らくくっきりとアザが付いている。


「ごめんカマかけた」「..何?」

「朱実日頃から彼氏に暴力振るわれててさ、それが原因でああなったんだけど。丁度左肩の辺りにおっきな傷があって、それこそアザみたいな。」

日々のDVに悩まされ、活力は偏り死に向いた。死因はエゴと、身勝手だ。

「だから目立ちはしないと思うよ?」

「安い友情だな..」

「形だけだよ、そんなもの。

私と朱実は友達。逆にいえば、それ以外の何者でもないからさ」

それに関して裂崎は、随分と前から知っていた。友達は徒党を組み、同じものを好み合い成長を止めるもの。だから敢えて作らなかったが、意図して作ったものがいるとすればいつか消える消耗品なのだという理解もしっかりとあるのだろうか?


「仕事、クビになっちゃったね。」

「..いいさ、元々〝金を稼いでいる〟という事実をつくりたかっただけだ。無いならないでそれでいい」

「そう。」

あとで聞いたらオーナーはあの部屋の窓に、事故防止用のストッパーを付けていなかったらしい。

「だからあんなに怒鳴ってたんだ」

「人は不都合を同じ情報量の何かで誤魔化し隠すからな、期待するな」

見下す様にみえていたが誤解であった初めから、こういう話し方の人なのだ見下し、蔑むような普通なのだ。


「あたしね、大学辞めちゃった!」

「..まず通ってたのか。」

「朱実もいないし、目標も無いから。

高いお金出して勉強する意味もないかな〜って、今は何となくコンビニでバイトしてるんだ。」

「知らんよ」 「冷た..まぁそうか」

人の誕生日と近況は他人にとって最も不必要なものだろう。

「バイトなんて良くするな」

「アナタもしてたでしょ?」

「金を稼ぐ為じゃない。」

「私だって別に、お金稼ぎじゃないわよ。〝何故〟って聞かれたら、答えられないけど..。」

無意味な行動を取り続けている奴等が、同じ公園で時間を溶かしている。

「学生のときに、酷く不器用な奴がいてな。」

「..突然なに?」

前触れも無く、昔話をし始めた。

「何をするにも人より遅れ、劣ってた

毎日のように担任に叱られて泣いていた。」

「あー偶にいるよね、そういう子」

「そんな奴にもやりたい事が幾つかあって、思い付いては行動に移そうと試みた。」


「前向きだね..それで?」

「そいつは思いついた事柄を一つも行わず諦めた。」

「はっなんで⁉︎」

「周りが残らず否定した。

〝お前には出来ない〟〝無理だ〟とか〝やめとけ〟ってな、担任から親に至るまで全員が」

 「..なにそれ。」

「そいつは何も出来ない奴じゃない。〝何も出来ないにされた〟奴だった」

技術や感性、性能の全てを否とされ無力に変えられてしまっていた。

「寄ってたかってだね」

「全くだ、偶々最近そいつと再会してな。相変わらず無気力だった」

「そりゃそうだよね。」

思わず同情する、内面を害された者に

「そこで試しに言ってみたんだ。

お前は天才、なんでもできるってな」

「余計なお世話でしょ。」

隙間なく褒め称えた、貶され続けた男に向かって。

「意外にも奴の顔はみるみる綻び活気に満ちた。今では会社の経営者だ、それが原因かは知らないがな」

「嘘っ、ダメだった子が!?」

「上手くいく要因は何処にでもあるという事だ、失敗の要因はそれの比じゃない量だろうが」

世の中はいまだ金が強いが、それでどうも上手くいかない点も充分存在するらしい。有るに越した事は無いが。

「友達は選べと言うが、属する組織も吟味した方がいい。」


「貴方は?」「...ん?」

「組織に迎合するようには見えないけど、どうしてるの。」

「選ばない、属さないからな」

「痛い中学生みたいね。」

「また学生時代の話になるが、クラスの同級生が亡くなった」

「随分不幸な学校よね。」

「両親が派手好きで担任が馬鹿だったから、クラスの全員が葬式に参加する事になった」

「そんな事あるの?」

謂わゆるボンボンの息子の死祭は盛大にと全員が招かれた。美味しい昼飯という餌に釣られて。

「参列したクラスメイトは、一人残らず泣いていた。」

「そりゃそうでしょ、同級生が死んでるんだから」


「関連性が無いのにだぞ?」

「いやあるでしょ!

だって同じクラスだよ?」

「仲が良かった訳じゃない、関心がある訳でも無い。寧ろ一部のやつは毛嫌いしていた、金持ちの息子というだけでな。」

それらがこぞって涙を流しているのだ

それこそ金で雇われたかの様に。

「周りは何か言わなかった?」

「言うどころか怒鳴りつけて来た。

〝仲間が死んでるんだぞ!〟ってな」

「うわぁ、気持ちわる...。」

一斉に生徒は卑下するような目をこちらに向けた。個性とやらはそこには無く、一つの塊..恐らくエゴと呼ばれるものだろう。

「だから辞めたんだ、向いてなかったからな。誰かに加わるのは」


「私は拠り所として朱実を使ってたのかもね、朱実の拠り所は彼氏だったかもだけど。」

「失って駆けつけたのは彼氏ではなく警察だったぞ?」

「だーね..。」 「驚いたろ」

「それは無いかなぁ。

別に初めてじゃないしね」

「ほう。」

「何、今度私の番?

いいわ、話してあげるよ」

二人して戻らない過去に浸っている。

話している場所は皮肉にも例のホテルの一室。借りたら偶々この部屋だった


「学生のときね、タチの悪い先輩に万引きやらされた事があってさ。」

「悲惨な学校だな..」

「先輩は途中で逃げちゃって、私だけが警察に捕まった。」

「逮捕か?」 「じゃない。」

現場はコンビニだったが店長は知り合いで、しかし現行犯で警察に連れてかれた。

「人にやらされたって言ったけど、何度言っても聞いてくれなくれさ。

〝本当の事を言え〟の一点張りだよ」

「奴等は考える力が無いからな、質問した内容だけで望む答えを無理矢理言わせるしかできないんだろう。」

「その上思ってもいないのに白々しく

〝お前が心配なんだよ〟とか言ってさ

平気で下の名前呼んでくるし。」

「うわ気持ちわる..」

自分が悪いとはいえ都合の良い誘導尋問は、脅しのようにしか感じることが出来なかった。

「二度と話したくはないなと思っていたけどまさかまたね。平気だけど」


「理由は親友の死だ」「だね。」

よりにもよって味方の損失、形だけの拠り所だが家を失ったような不安定な感覚で今もふらついている。

「なんかお腹空いちゃった!

ご飯食べに行こ」

 「..金はないぞ?」

「安い所でいいからさ。」

いたずらにホテルに泊まった事で、出しあって質素な飯を食うハメにあう。

際限なく減る腹を満たすには最早、胃袋を切り取る他無いのだろうか。

「着いたぞ」

暗い男の行きつけは、イメージ通りのジメついた居心地の悪い場所だった。

「...いや着いたって、ここ店じゃないじゃん。何、路地裏?」

「飯を共に食いたいというのは意外だが悪いな。」

 「え?」


「俺に〝仲間〟はいらん..。」

「あっ」

大きな岩の影が、彼女の小さな顔を覆い隠す。味の感想は大きな音で聞き取れ無かったが、心配する事はない。

「もう二度と..腹が減る事は無いぞ」

血の跡が味覚を濁らせる。

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