16 調査:美園中央公園駅
PM3:08
エリス達4人は、次の目的地、
かつては、
その名の通り、歩いてすぐの場所に大きな公園がある。
木々が生い茂り、芝生も整備された立派なもの。
奥にはイベントも開ける広場や、大きなアスレチック遊具も置かれており、子供たちの姿が多く見受けられる。
「片側ホームに自然っぽい風景……確かに、写真の特徴と合致するけど……」
ホームに降り立った4人。
あやめがスマホ画面を見ながら、開口一声。
その言葉を受け取るに、納得いかないご様子。
そのはずだ。
線路と森林の間には、自動車が通れるほどの道が整備されているほか、侵入対策の鉄柵も置かれている。
更に、この駅もバリアフリーの改良工事を施されたため、真新しい見た目をしている。
「ここでもないわね。
第一、駅の周りが賑やかすぎる。
消えた電車が、この駅に停車したなら、誰か見てるはずだし、誰かが助けを求めるはずよ」
エリスの言うことは、ごもっともだ。
駅の周辺は住宅街が広がるほか、先述した浜松市立北浜中学校や、区内唯一のホテルビルといった、目立ちやすい鉄筋建築が立っている。
更に100メートルほど離れた場所を、二俣街道が走っているのだ。
浜北と天竜を結ぶ幹線道路で、この駅の入り口からも、車が激しく往来する交差点が、容易にのぞき込める。
美奈の乗った電車が、ここに停車したならば、彼女は真っ先に近くの家に飛び込むか、この街道に走って逃げるはずだ。
写真だけを寄越すなんて奇妙。
「すると、やっぱり――」
「リオ」
「ああ、認めたくないけど、認めざるを得ないな。
イタズラである可能性は低い上に、ミナは旅行に行くことがないときた。
こりゃあ、駅標と一緒に送られてきた3枚は、状況的に、きさらぎ駅だってことになるな」
しかし、と付け加え、リオは続けた。
「いったい、どこを探すんだ?
きさらぎは異世界の駅なんだろ?
延々と、この鉄道の駅を探したって無駄じゃないか」
「どうかしらね?」
エリスは言う。
「駅の場所は分からなくても、そこへ向かう入り口の手がかりは、すぐ近くで掴めるかもよ」
彼女が指さした駅標。
この次の駅が、浜北だ。
「さあ、次の電車で浜北に移動するわよ」
「最終電車が消えた駅、か。
ところで、アヤ、お姉さんからなんか、捜査情報とか来てないのか?」
リオから聞かれ、あやめは首を横に振った。
「まだよ」
「そう言えば、きさらぎ駅の件は彼女には――」
「伝えてないわ」
あやめは言う。
「依頼人との約束ってのもあるけど、それよりも、未確定な情報で、警察を悪戯に混乱させるのは、今の状況じゃあ良くないわ。
最終電車がきさらぎ駅に迷い込んだ、っていう証拠は、この4枚の写真と、美奈さんとのトークアプリだけで、単なる状況証拠に過ぎない。
電車が消えたという確たる事実もあるけど、やっぱり課題は、きさらぎ駅がどこにあるか、ということになる。
姉は、怪奇事件特捜セクションにいるわ。
それでも、今回の事件はかなり特異よ。
ラーメン食べた時は気丈にふるまってたけど、相当、頭を抱えているに違いないわ」
すると、メイコが口を開いた。
「そんな風には見えませんでしたけど?」
「分かるのよ。
まかりなりにも、私のお姉ちゃん……たった一人の肉親ですもの。
どれだけ離れてても、時間が私たちを分かち合ってもね」
あやめの瞳は、午後の日差しを受けて輝いていた。
その奥には、姉の残像が浮かんでいたのかもしれない。
浜松駅での熱烈な歓迎。
クールに避けていた、あの時も、心の中では、久しぶりに見た元気な姉の姿が、嬉しかったのだろう。
エリスには、兄弟姉妹はいないから、そういった血の繋がった近親の感情と言うのは、完璧には理解できない。
でも、その嬉しそうな瞳と、姉を想う行動に、その片鱗を見た。
依頼人の約束を守りつつ、事件解決のために断片的な情報を、警察や八咫鞍馬に公開し、交換条件を得る。
あやめだけでなく、エリスやリオも時に、この手を使う。
それを行わないのだ。
事件解決までに、残された時間が少ないと分かってても。
「いい妹を持ったものね……ミス・セツナ」
彼女のつぶやきは、響き渡る踏切の警報にかき消された。
気づけば、新浜松行きの電車がホームに滑り込もうとしている。
扉が開き、いよいよノクターンは、事件の玄関口、浜北駅に向かう!!
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