12 捜査方針
「おい、エリス!
まさか、電車が異次元に迷い込んだなんて、本気で考えてるんじゃないだろうな?」
研究室をでたエリス達。
その足で、キャンパスの廊下を歩く中、リオはきさらぎ駅の存在に異を唱えていた。
3人とは距離を取っていたからこそ、生まれた否定。
それは何にも間違ったことではない。
むしろ、怪奇にかかわらない人からすれば、リオと同じことを思い、口にするだろう。
だが、エリスは自信をもって言い切る。
「本気よ」
「あんな写真、素人でも作れるぜ。
第一、送ってきた端末はスマートフォン。
簡単にプロ顔負けの写真編集ができるアプリケーションもあるし、端末の中には、撮影に特化した画面やカメラがあるんだから」
リオが言うことも一理ある。
言った通り、エリス達の写真の第一印象は作り物。
となれば、あの写真が既存の駅や、ジオラマの写真を加工して作ったものである可能性も否めない。
現に、きさらぎ駅に迷い込んだというネットの話、そこに添付された写真の全てが、日本国内のどこかにある駅の写真を加工、もしくは、そのまま貼り付けたものである。
「つまり、あの写真も、きさらぎ駅に迷い込んだって話も作り物?
ホノカが嘘をついてると?」
エリスの疑問に、リオは手を振って論じる。
「私も元FBIの端くれだ。 ホノカの慌てぶりは演技じゃないことは分かる。
代理ミュンヒハウゼンっていう可能性もあるが、警察やメディアを頼らず、私たちだけに事態を知らせてきた時点で、その線も必然的に消えることになる。
他者に注目され、哀れんでもらいたい欲求を満たすために、肉親や我が子を傷つけるのが、代理ミュンヒハウゼンの特徴だからね。
となれば、シナリオは一つ。
ミナのイタズラさ。 質の悪い御伽話に、私たちは付き合わされてるのさ」
すると、エリスはリオの言葉を、右手を差し出して静止。
「オーケイ。
仮に、リオの言う通り、これがミナの自作自演としましょう。
相手は誰も知らないし、見たことない、電脳空間に生まれた幽霊のような駅だもの。 あり得る話よ。
だったらね、リオ。
どうして彼女は、あんな写真を姉のもとに送ってきたの?
イタズラにしては、妙に生々しいわよ?」
それに対して、リオは涼しく答える。
「反抗心ってやつなんじゃない?
彼女、お姉さんに海外留学を反対されていたんでしょう?
それに腹を立てた妹が、イタズラで姉を困らせてやろうと、子供じみた行為に及んだ」
「反抗心ねぇ」
しかし、エリスは決定的な一撃を、リオに付きつけた。
「仮に、写真とメールが両方とも偽物だとして、一緒に消えた20人以上の乗客と、2両編成の電車はどう説明するの?」
「そ、それは……」
紛れもない事実。
そう、消えたのは美奈だけじゃない。
目的地に向い、順調に走っていたはずの最終電車が、乗客もろども消えているのだ。
「あなたが、この事件に異を唱えたい気持ちは分からなくもないわ、リオ。
確かに異次元ってのは、妖怪や魔術と違って見えにくい。
どこにいるのか、本当にあるのかすら分からない。
まるで雲の中から、雪の結晶を取り出すようなものよ。
バチカンでも枢機卿の間で、賛否は分かれてるぐらいだからね」
「そうだよ、エリス。
未だに信じられないし、信じたくもない。
まさか、この世界に、私たちの知らない別の空間があって、それがどこかでつながっているってことを」
エリスは諭すように、リオに伝える。
それは自分たちの根本、つまり、探偵社の役割だ。
「でもね、リオ。
電車が消えたのは、紛れもない事実であって、私たちは怪奇事件を解決できる、たった一つの存在。
それが例え、異世界でも宇宙からの侵略者でも、ね」
「ノクターン。
世界中の怪奇事件を解決できる、唯一無二の探偵社、かぁ」
「怪奇ある所に私たちはいる。
無論、そこには敵がいて、アカシックレコードもある」
リオは頭を掻きながら言う。
「やっぱり、考えてたか」
「異界との接続。
バチカン大学教授が唱えた怪奇単一起源説、いわゆるアカシックレコードを解くカギとしては、十分すぎるネタよ」
「止めるだけ野暮ってことか。
……いいぜ、走り始めた列車だ。 飛び降りるのも、また野暮だ。
行くところまで乗ってやる」
こうして、リオもきさらぎ駅説を受け入れた。
加えてエリスは、あやめとメイコにも、意見を聞いたが
「エリスと同じよ。
電車は恐らく、きさらぎ駅にいるわ」
「右に同じです」
満場一致。
こうして探偵社は、今回の事件はきさらぎ駅という、一種の亜空間が出現したことによる怪奇事件とみて、捜査することとなった。
だが、本格的なアクションはこれからだ。
なんせ3人とも、事件現場を知らないし、見ていない。
件の鉄道を――
「とりあえず、問題の遠州鉄道に乗ってみましょうか。
何か分かるかもしれないわ」
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