第5話 実力と他企業
「GO!GO!GO!」
合図と共にあずきが走り出す。的を見かけたら丁寧かつ慎重に一つ一つ打っていく。だだし、動きながらの射撃は得意ではないようだ。的を打つ度止まってから打っている。
「まだ当たらないなー くっそー」
そんなことを言いながらあずきが帰ってきた。
「タイムは56秒、ペナルティは無しだ。タイムは上がってるが、やはり動きのある射撃が今後の課題だな。よし今度はミナヅキちゃん行ってみようか」
縦に首を振ってとてとてとスタート位置に向かう。考えてみればこれが初めてみるミナヅキの実力か。
「準備はできたかい?そんじゃReady GO!GO!GO!」
合図と共に走り始めたが
「なっ!」
とても素早い。人間クラスの速さではあるが世界に数人くらいしかいないであろう速さで的に近づく。これが獣人。素早さ重視のモンスターはいるが、それも獣人になり、その能力がそのまま引き継がれていると考えるのが妥当か。的を逃しまくってるけど。
「タイムは42秒、ペナルティは4回でプラス40秒、合わせて1分22秒だな。こっちは索敵と的当てを中心的にやるべきだな」
予想外だ。これが一番の感想だ。こんなにも戦闘向きだとは思わなかった。人よりはマシ程度だとは思っていたが、これならあずきと一緒にデビューできるんじゃないか?
今日の訓練は試験の後にミナヅキに施設の使い方の説明をして帰ることになった。
「今日の飯は何かな」
「兄貴は肉じゃがって言ってたっけ」
「にくじゃが、おいしい?」
「「美味い」」
揃った二人は目を合わせて笑った。ミナヅキはワクワクしている。平和的であり日常的でありそれでかつ尊い会話だ。そんなことを本人たちは思わない。それは当たり前の事であり慣れてしまっているから。だが、この生活がつまらないと思う者もいる訳で
「おうおう、誰かと思えば立花のマヌケ共じゃないか!」
「なにっ!」
「やめろ、あずき」
喰らい付くあずきを抑制し話しかけてきた3人組に話しかける。
「えっと、どちら様ですか?」
「は?このバッチですぐにわかれや」
「これだから弱者企業は。礼儀を知らんなぁ」
そうやって胸についた翼の形をした銅のバッチを自慢げに見せつけてくる。これはこの国で一番力を持った傭兵集団、『ウィング・リバー』のマークだ。
「これは失敬、まさかあの天下のウィング・リバーの方がこんな不良のような立ち振る舞いをするとは思いもしませんでしたから」
「なんだと!」
あずきを止めたが、自分としても些か頭に来ていたので少し煽り口調になる。
「何か問題でもありましたか?」
1人の男がこちらへと向かってくる。胸には金の翼のバッチをつけ高身長でイケメン顔。だがどこか恐怖を感じる雰囲気を醸し出している。
「い、磯川支部長!」
辺りを見渡し察しがついたのか溜息をひとつ。
「私はウィング・リバー東方支部支部長をしております、磯川石地と申します。何やらご無礼なことをそちら側にしてしまったようで、お詫び申し上げます」
「いえいえ、大企業にもなるとしつけが末端まで行き届きづらくなるのも仕方のないことですから」
易々と先の行為を許してしまうことに不満を見せるあずきを横目に話を続ける。
「それでは失礼します。あずき、ミナズキ行くぞ」
何事もなかったように帰路に着く。
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