第11話

 翌日の放課後、二人は男達を捕まえた地下室にいた。

「この訓練の目標は、効果が切れるまで自制すること。具体的には、私とスパーリングして私に傷を負わせずに捕獲、解放してまたスパーリング、をどこまで繰り返せるかを試すわ。私が危ないと判断したら即座に電撃でけーくんを無力化します」

「おう!」

 圭太は大きくうなずいた。

「じゃあ、注射するわね」

「お、おう……」

 圭太は目をそらした。

 投薬されると、急激に圭太の鼓動が早まっていき、口からは湯気が出てくる。

 梓は圭太から距離をとり、口を開いた。

「いくよ、けーくん」

「おう……」

 梓が圭太に飛び込んでくる。

 強化された圭太には、その動きをじっくりと観察できる程度には遅く見えた。

 梓が片手を地面につけ、下から右足で圭太の顔面を狙う。圭太は首の動きだけでそれを避ける。すると梓は両足を開き、両足で圭太の頭を挟もうとする。

 圭太は両手で梓の両足をつかんだ。そこで梓が捕まれた足を支えに、上体をぐっと起こし、圭太の首に手を伸ばし、圭太の首を絞めにかかる。

 そこで圭太は足をつかんでいた手を離し、腰につけていたロープをとり、ゆっくりと伸ばされる梓の両手にロープを絡める。それに反応した梓が手を引き抜こうとするが間に合わない。梓の両腕はすでに絡められていた。

 そのまま圭太は梓の両足をロープで束ね、梓の両手両足を拘束した。梓は飛びこんできた勢いのまま、両手両足を拘束されて地面の上を転がっていく。

「っつう……。一本目……」

「まだいけるぞ……」

「じゃあこれほどいて二本目いきましょ」

 圭太は梓に絡めたロープをほどいて腰につけた。


 梓は一度距離をとり、また圭太に飛びかかった。

 梓は隙の少ない攻撃として、左手でジャブを打つが、それも圭太にはゆっくりに見えた。圭太は右手で払い落としつつ、腰につけたロープを取り出し、梓の左手首に巻き付ける。そのまま梓の左手をひねって梓の背中側に回して固定し、ロープを梓の首に回し、残りの右手を引き寄せて捻って背中側に固定し、右手首にもロープを回す。そして背中で締め上げ、梓の上体を完全に固定した。

「タップ、参ったわ……まだ大丈夫そう?」

「おう……」

「オーケー。じゃあ次いきましょう」


 二人は先ほどと同じようにロープをほどいて距離をとる。

 梓は少し様子をうかがっていたが、唐突に圭太に飛びかかる。そして圭太に接触しようとした直前に、姿勢を極端に低くして四つん這いになり、両手両足で地面を突き放し、両手で圭太の顎に掌底を放った。圭太はそれを首を少し傾けて避ける。梓は飛び上がった勢いのまま、膝蹴りを圭太の顎に放つが、これも圭太は上体を少し後ろに傾けることで避ける。梓は勢いのまま真上に飛び上がった。

 真上に飛び上がった梓は天井に両手足をつけると、両手は天井につけたまま、両手両足のバネを全力で使って、梓にとっては最速で、両足での蹴りを圭太の頭に放つ。

 圭太は上体を僅かにずらしてそれを避けると同時に、腰からロープを取り出して梓の両足に巻き付ける。

 梓は伸ばしきった両足を元に戻す反動と、両手で天井を突き放した勢いを使って、既に上体をずらして体勢が崩れている圭太の頭部に、両手を組んで一撃をたたき込もうとする。

 圭太は身体をずらして避けることが出来なくなったので、残ったロープの端をピンと張り、梓の一撃を受け止め、そのまま勢いを殺しつつ両手首にもロープを巻き付ける。結果、両足、両手首を固定された梓は、自分でつけた勢いで、地面にたたきつけられた。

「ったい……人間は上下の動きには弱いはずなのに、上下動の奇襲がまるっきり通用しないのね……参ったわ……タップ。ほどいてちょうだい」

「おう……」

 素直にほどく圭太。

「まだ大丈夫?」

「そろそろ……視界が赤くなってきた……自制が効かないかもしれない……」

「じゃあ今日はこの辺にしておきましょう。一撃でももらったら大怪我になるし……暴れないの?」

 梓が圭太から距離をとりながら聞く。

「どうも、悪意のない攻撃だと気持ちがそこまで昂ぶらないらしい……何もされなければ攻撃しようって気にならないみたいだ……」

「なるほど……凶暴性というより、過剰な防衛反応って感じなのかしらね。座って待てる?」

「ああ……」

「じゃあ座りましょ。薬が切れるまで待機」

 二人は座り込んだ。しばらくすると、圭太の鼓動が戻っていき、口からの湯気もなくなっていく。そうして圭太がいつも通り全身が痛い痛いと転げ回る。

 そして圭太が落ち着いた頃、二人は立ち上がって地下室を後にした。

「自制が効くのが最初の数分だけみたいだから、なるだけけーくんは数分で決着がつけられるようにしなきゃいけないみたいね」

 そう言う梓に、「そうだなあ」と圭太は返事をした。

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