第8話

 その後、梓は圭太に連れられて、デパート近くにあるゲームセンターに連れて行かれた。

「けーくん、用事が済んだんだから帰ろうよー」

 梓がぶつぶつ言いながら圭太に引っ張られている。

「折角だし遊んでいこう! ほらほら! お、あれなんかどうだ!?」

 そういって圭太はガンシューティングゲームを指さした。

「えー……わたしやったことないんだけど……」

「大丈夫! 出てきた敵を撃てばいいだけだから!」

「うーん……」

 梓が迷っている間にも圭太は二人プレイ分の金を投入していた。

「ほら持って持って」

 圭太が梓に銃の形をしたコントローラーを渡す。

「まあ、いいけどさ……」

 渋々といった感じで銃型コントローラを受け取る梓。

「じゃあスタートな!」

 圭太は手元のボタンでゲームをスタートさせた。圭太が意気揚々と説明する。

「これはあれだ。敵の弱点を撃つと点が高くなる。ちなみに人型の敵は大抵頭が弱点な」

「ふーん……。けーくんこれやったことあるの?」

 ある程度内容を知っていそうな圭太に梓が尋ねた。

「何度かな! 結構いいところまで行けるんだぜ! まあ、コンティニュー無しでクリアはしたことねえけどな」

「ふーん……」

 気のない返事を梓は返したが、その目には何かを決意したような色が見て取れた。

「お、きたきた! あっちゃん、これが敵だ!」

 圭太は言い終わると同時に素早く敵を狙い撃ちし、仕留めていった。

 しばらくは眺めていた梓だったが、要領を把握したのか、徐々に敵を撃つようになっていった。

「おー! そんな感じそんな感じ! あっちゃんうめえな!」

 そうしている内に、最初のステージをクリアした。スコアは圭太が圧倒的に上回っていた。梓は途中まではなにもしていなかったこともあり、スコアは低かった。

「まあ初めはこんなもんだ!」

 そう言う圭太に、悔しそうな目を向ける梓。

「もうわかった。けーくんに負けない」

 そう言いきる梓。

「ほほー。言うねあっちゃん。俺だって負けねえぞ?」

 そうして次のステージが始まった。

 画面の中央に照準を合わせる梓。対して圭太は何度か遊んでいるので、次に敵がでる場所がわかっている。そのため、次に敵が出てくる場所にあらかじめ照準を合わせている。

 圭太が照準を合わせていたところに敵が出てきた。圭太は引き金を引こうとした。

 しかしその刹那。梓は出現した敵に反応し、精確に照準を合わせ、引き金を引き終わっていた。そしてまた中央に照準を戻した。

 その動きは、工業用のロボットを連想させた。

「え、ちょ……」

 圭太が言葉を失っている間にも、梓はそう動くように設計された機械のように、精密に敵を撃っていった。

 画面上に敵が出てきた瞬間、被弾エフェクトを残して敵は消えている。

 二ステージ目のスコアは、梓が圧倒した。また、梓の着弾率は九九%だった。そのスコアを見て、梓は「まだ慣れないわね……なんか遅延があるみたい……」とつぶやいた。

「え? あっちゃんこれ初めて?」

「初めてよ」

「何でそんなスコアとってんの?」

「何でもなにも、私の五感は強化されてんのよ? このくらい朝飯前よ」

「五感って、目がよく見えるとかじゃないの? なんで反応も速くなってんの?」

「あー、正確に言うと、五感だけじゃなくて、反射神経とか、いろんな能力が向上してるのよ。脳内の化学物質を薬で変異させるとか何とかで」

「でもなんか構えもしっかりしてるし……」

「ああ。一応戦闘訓練で銃の扱いの訓練も受けてるからね。訓練に比べたら、こんな棒立ちして撃つだけのゲームなんてどうってことないわ」

「まじか……」

 その後も梓は経験者の圭太を圧倒的なスコア差で引き放した。

 敵が出てきた瞬間梓に撃ち抜かれるため、二人とも被弾はゼロだった。

 そうこうしている間に、最終ステージまできてしまった。

「俺、ノーコンティニューでここまで来るの初めてなんだけど……ってかまだ被弾ゼロだし……」

「ふふん」

 梓は得意げに鼻を鳴らした。

「ちょっとけーくんにも訓練が必要みたいね。こんど訓練しましょう」

「あ、うん……」

 圭太は何か余計なことを梓にやらせてしまったような気がした。

「え、もしかして、訓練の度に注射するの?」

「しないわ。というか、ああなったけーくんは私じゃ太刀打ちできないもの。しかも凶暴化するし。そんな危険な真似できないわ」

 そうやって話している内に、最終ステージが始まった。

 最終ステージでは物量にものをいわせてプレイヤーを圧倒しよう、という制作者の意図が、梓が残す被弾エフェクトからのみから伝わってきた。画面中にはまばゆいばかりの被弾エフェクト。敵は動く間もなく梓に撃ち落とされていく。

 気がつけば、梓と圭太の周りには、数人の観客が集まっていた。皆、梓のプレイを注視している。

 圭太も負けてられないと奮起するも、撃とうとしたときには既に敵は撃たれている。圭太もただの観客のようなものになってしまっていた。

 ついに最終ボス。複雑な軌道を描きながら移動し、攻撃を放ってきた。梓はその攻撃が放たれた瞬間に撃ち落とし、マシンガンのような速度でボスに攻撃を当て続ける。これには圭太もなんとか参戦できているが、圭太の数倍の射撃速度で梓が射撃し続ける。ボスの体力がゴリゴリと削れていく。

 唐突に圭太が声を上げた。

「あっちゃんストップストップ! 今攻撃すると反射ダメージ喰らう!」

 圭太がそう言ったときには、梓は二発ほど反射ダメージを喰らった後だった。梓はダメージエフェクトを見て反射的に身体を避けていた。

「むっ! けーくんそういうことは早めに言っといてよね!」

「わりいわりい! あの変な盾みたいなのが攻撃反射するんだよ。消えたら攻撃できる」

「わかったわ」

 そう言いながら、ボスから放たれる攻撃を撃ち落としていく梓。

 圭太が「そろそろだ!」と言ってからしばらくして、ボスの盾が解除された。その瞬間からまたマシンガンのような発射音が轟く。ボスの複雑な移動の残像のように、梓が放った弾丸のエフェクトが連なっていく。

 そしてボスの体力が後わずかになったとき、圭太が告げた。

「あっちゃん! そろそろ発狂モードになる!」

「なにそれ?」

「画面中にヤバいほどやたらめったら攻撃が飛んでくる! それ撃ち落としながらボス攻撃することになる!」

「了解! やることは変わらないわ!」

 梓は宣言通り、画面中に所狭しと放たれるボスからの攻撃を機械のような精確さで撃ち落として、こちらが被弾するまでの時間をつくり、その隙に動き回るボスを撃つ。そうしているとまた画面がボスの攻撃で埋め尽くされる。それを梓はショットガンで一掃するかのように、しかし一発のはずれもなく撃ち落とし、ボスを攻撃する。

 それを数度繰り返すと、派手なエフェクトとともにボスが撃沈していった。

「っはー! すげえなあっちゃん! ほとんど一人でやっちゃったじゃねえか! しかもノーコンティニュー!」

「ふうっ。まあこんなもんよ。所詮ゲームね」

 エンディングムービーの後に、ランキングが表示された。そこに梓はトップで表示されていた。

「うおっ! すげえ! トップだ! あっちゃん名前なんにする?」

「なんでもいいよ」

「じゃああっちゃんの名前にしようぜ!えっと、あ……あ……」

「梓よ! いい加減覚えてよね!」

「わりいわりい! じゃあAZUSAっと……よし! できた!」

「……」

 梓は圭太が入力するのを、まんざらでもなさそうに眺めていた。

「ねえ……」

 梓が問いかけた。

「ん?」

「他にもこういう反射神経とかでどうにかなるやつあるの?」

「んー……音ゲーとか格ゲーとか……あ、でも格ゲーはコンボがわかんないとなあ……」

「じゃあその音ゲーってやつやってみたい」

「お、いいぜ! やろうやろう! つっても俺はさっぱりやったことねえけどな!」

「え、そうなの……?」

「おう。どうしたあっちゃん?」

 圭太には梓が急にやる気をなくしたように見えた。

「そ、そんなことないわよ! その音ゲーってやつやりましょ!」

 そうやって二人は音楽ゲーム、その後はシューティングゲーム、エアホッケーなどをやっていった。

 梓はそのどれでも高得点を叩き出した。

 エアホッケーでは大差で圭太を圧倒した。あまりの速さに圭太がほとんど反応できずに終わってしまった。


 一通り遊び終えた二人は、店内に設置された休憩用のスペースに座ってジュースを飲んでいた。

「だー! やられたー! なんだあの速さ! 見えるわけねえよ!」

「ふふん」

 梓は得意げに鼻を鳴らした。

「あっちゃんさー、そんなに体動くんだったら体育出ればいいのに」

「だめよ。本気だしたら大騒ぎになっちゃうもの。それに手を抜いてるのばれたら本気出せって言われるだろうし。施設からも人前で本気だすなって言われてるし」

「今日はよかったのか?」

「まあゲームくらいならいいでしょ……私本気で走ったら自動車追い越せるわよ? 百メートル走も五秒くらい。目立つでしょ、普通に」

「まじかー! なんかすげえな! ……ちなみに俺が注射打つとどのくらいなんだ?」

「んー……この前、百メートル以上を一足飛びであっという間に移動してたし……百メートル走なら一歩で一~二秒くらいなんじゃないかなあ……」

「まじかよ! 俺すげえな!」

「たぶん銃弾も見てから避けられると思うよ。それで制御が効けばいいんだけどねえ……制御が効かなくなっちゃうのが困るのよ。一応施設から対策はもらったんだけど……」

 そう言って梓は気まずそうな顔をした。

 そのとき、梓の持っているスマートフォンが振動した。梓は素早くその内容を確認すると、険しい表情になった。

「けーくん、明日の二十時。任務」

「お、おう」

 緊張した面持ちで圭太はうなずいた。

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