第42話『赤』との抗争

 魔術師および能力者による『赤』の拠点制圧作戦が実施された。


 まず最初に機動隊のように盾を持った先頭メンバーが素早く突っ込む。そしてその後を遠距離攻撃などができる者で固める。

 どれだけ少なくても各々四人は一つのチームに所属し、現れた敵の能力者を速やかに無力化する。捕縛が無理そうであれば殺しても構わない。


 全てのチームに指導の徹底が行われ、徐々に、かつ確実に『赤』の拠点を制圧していく。

 定期間隔で行う圭の探知魔術で、ほとんど犠牲なしに相手を無力化していく様子がコマ送りで分かるようになっている。


「おお!速いですね!」

「だろうな。今出てるのは訓練された戦闘員だ。俺たちは後方支援に徹している方がいい。というか、行くだけ無駄だ」

「でしょうね」


 袴田はランクでいうと3くらいだ。能力が便利なため独自に動いているが、実際の実力は大したことない。それに、中田の推定ランクは2らしい。

 よくこの二人で大規模組織である『赤』について調べようと思ったなと呆れてしまう。


 廃棄施設のすぐ横でのんびり待機している車の中で探知魔術を発動させてみると、あっという間に一階を制圧し、半分以上の人数が二階へと移動し始めているようだ。


 ただ、ここを四人で調査したときに比べて中にいた人数が少ない。

 おそらく別の出口があり、そこから逃げていったのだろう。中田はそこまでは調べられなかったようだが、これは仕方のないことだろう。


「おそらく、けっこう逃げられてそうですね」

「まあそれは仕方ないだろう。すぐにとはいえ少なくとも三時間は経っているしな」


 実のところ、思った以上に広かった『赤』の拠点をマッピングするために、四半日もの時間を費やした。それに加えての作戦会議だ。もう夜も更けており、日はすでに変わってしまった。年明けまで、あと二十四時間もない。


 袴田が車内灯をつけてガサガサと車内をあさり、未開封だった箱を開けてタバコを口に咥えた。


 ジッポで火をつけてから、圭の前に一本だけ半分飛び出したタバコケースを出したが、首を横に振って押し下げた。


 探知魔術を再び発動すると、すでに二階も順調に終わりつつある。


「袴田さん?何か、地図と違うとこに行ってる人がいますよ」

「地図とは違う?」

「はい、施設から少しこちらに寄ってくるような……ん?」

「おい、どうした?」

「あー、ちょっと地図見せてください」


 タバコに火がついてから、白い煙が車内に充満し始める。

 どうもタバコが苦手らしい楓はしかめっつらを見せ、すぐに外の風を入れようと窓を開けた。


「あー、悪りぃな琴桐。癖で、ついな」


 すぐに袴田も窓を開けて吐息を外に吹くが、それでも耐えられなかったらしい。外に出ていると声をかけて車を降りてしまった。

 それに連れ添うように圭も車を降りる。特に意味はなかった。


「ケイ、中はどうなってるの?」


 楓が圭の探知魔術を再び感じたらしい。それに対して何かを言うでもなく、腕を組んだ。


「うまく制圧が進んでる、と思うんだけど……」

「探知を連続で……」


 楓の言う通り、今さっきから中の状況は逐一把握しており、現場が有利か不利かくらいは予測できる。予測できるのだが、様子が何かおかしかった。


「なんか、一箇所だけ膠着してる。というか、押されてる?」


 他のところは押しているのに、一箇所だけ、二つの反応だけおかしい。そこは袴田の書いた地図には入っていない。

 それどころか、二つの反応はさっきから高速で何度も移動しており、明らかに激闘が行われているらしいことが分かる。


「こっちに移動してきてる?」


 気付けば反応は地下すぐ近くまで来ていた。袴田の地図ではここまで近い位置に広い部屋はなかった。それなのにこうして反応がすぐ下に二つある。


「やっぱ、鍵の向こうは分かんないもんなんですね……」

「なーにあったりまえのこと言ってんだよ」


 車の窓から手を出してタバコの灰をはたき落とす。

 マッピングは全てを把握しなければならないというわけではない。カギがかかっている部分はそれだけでも十分な情報になる。


 ただ、今回のこれは聞いていない。


「今、かなり近くに誰かいるんですよ」

「……なに?」


 袴田は窓から乗り出して、落ちた灰を見つめた。

 楓は心配そうに圭を見るが、神妙な面持ちからはうまく気持ちを察することは出来なさそうだった。


 それからすぐに、能対課の面々が慌てた様子で施設から出てきた。中には拘束された『赤』のメンバーや死体を持つ人もいる。


 彼らは急いで護送車やパトカーに乗り込み離れたところで待機をする。その様子に四人が異変を感じたときだった。



「ん、?」


 携帯のバイブレーションがポケットから伝わってきた。

 ポケットから慌てて取り出すと、そこに表示されていたのは知らない電話番号。


 この電話にでるのはヤバいと圭のアンテナがビンビンに立っているのを押し殺して、恐る恐る通話ボタンを押した。



「もしもし」

『おー、やっっと出たかー!あたしだよあたし』

「……左神さんですか?」

『おうおう、そうだ。それで圭、今どこにいるんだ?おまえんところに面白いことが起こりそうだっていうのによ』

「ま、マジすか」

『ああ、あたしの能力がそう言っている。で、今どこにいるんだ?』

「実家に帰ってるんですよ。だからそっちの方にはいません」

『は?……くっそー、やっぱずっと見ときゃよかった!』

「それで、嫌な予感しかしないんですけど、面白いことってなんですか?」

『そんなん言わなくても分かってるだろ?』

「……」


 電話を切った。

 最悪な気分だった。『星詠』が言うのならば、間違いはない。


「ケイ?」

「……最悪だ」


 グラグラと地面が揺れる。


「んおっ、地震か!?」

「ひっ、」


 車の中で二人のコンビが慌てふためいていた。だがこれは地震などではない。


 少しずつ、地面が割れていく。

 もしかしたら圭だけだったら逃げ出せたのかもしれない。それでも『星詠』の言うことなら、同じ結末が待っているのだろう。運命にまで逆らい切れる気はしない。


「け、ケイ?これって……」

「死にたくないなぁ」


 地割れは大きく広がり、大地を陥没させていく。それをもはや諦観して地の進むままに従う。


 なんと運の悪いことか。


 圭を含めたこの場にいる四人は、地面が陥没していくど真ん中綺麗に収まっていた。






 ----------------









「っつつ、大丈夫か?」

「うん、平気」



 崩落した地盤のたどり着いた先は、鉄に囲まれた空間だった。


 ここがどんなところかはすぐに見当がつく。


「修練場みたいなものか」


 百メートル四方ほどだろう。全てが鉄に囲まれ、大きく斬り裂かれた部分や赤熱して変形した部分、巨大な岩が壁にめり込む部分もあった。

 夜空の光が、修練場に差し込む。

 しかし、なぜここが崩壊したのかはいまいち分かっていなかった。


 身体強化をした楓が怪我なく着地したのを確認して、圭はバランスの悪い瓦礫を飛び降りる。当然楓もそれについてきた。


「お、おお、どうなってんだ?」

「は、袴田さーん……」


 後ろ半分が潰れた車の中で、何とか命を取り留めた二人が出れない出れないと騒いでいる。だが、圭にはそれよりかはるかに気を引くものがあった。



「おいおい、マジかよ」


 ここに来る前に見た『五属』竹岡恵理子が、得体の知れないバケモノと戦っていた。


 バケモノ、ではない。形は人間、男だろう。足を広げ顔半分を常に手で覆っている。

 ヤバイ男の気配はビンビンする。どことなく厨二くさい仕草の周りには黒い影のようなものが蠢いていた。


「く、くくくっ」


 首を斜めにして笑う。

 男は圭と楓には目もくれず、竹岡を凝視しながら指差した。


「は、ははっ。ランク6っ、カッコいいなぁ」

「あなたは気持ち悪い」

「ああ、そうだろう。俺はこんな能力だ、英雄にはなれない」


 漂っていた不気味な黒い影が、男の身体を這い上がる。徐々に影が男の身体を包み込み、鎧のような形になると、影から物質に変態した。


「はぁはっ、」

「っ、」


 男が手を前に突き出すと、竹岡の目前まで伸びて髪を斬り落とした。その長さは優に二十メートルはあるだろう。

 竹岡は完全に見切って避けたが、それを読んでいた男は何の躊躇もなく手に伸びた物体を横に振り払った。


「うぉっ、あぶねぇっ!?」

「え、きゃあっ!」


 咄嗟に圭は楓を抱えて伏せる。状況を見てなかったら死んでいたかも知れない。

 振り回された先を見ると、瓦礫の山がきれいに切断され斜めにズレて崩れ落ちた。

 戦いの余波にしてはとんでもない威力だ。


「っ、一般人?!」


 二人が視界に入ったことで、竹岡は初めて誰かがこの場に存在することを認知した。


 巻き込まれた二人を見つけて慌てて駆け寄る。竹岡にしては、想定外の出来事だった。この目の前の男は他の能力者とは明らかに格が違う。そのため、死人が出ないように竹岡が自ら足止めに徹していたのだ。さらに言えば非常に能力が厄介で、全員上へと逃げさせた。

 だからこそ、ほかのメンバーたちは避難して距離を取ったのだ。


 さらに、すでにここにいた『赤帽』は逃してしまった。そしてこの男のせいで他にも何人か『赤』の中心人物を逃してしまっている。


 とはいえ竹岡としても、この男を野放しにしておくと危険なのは分かっているため、確実に仕留める必要がある。


 これ以上の失態は許されない。


 ここに四人が落ちてきてしまったのは、状況をほとんど理解できずに、本当にたまたま油断していたのが原因だった。



「まさか、上から……あなたたち、すぐあちらに逃げなさい!」


 竹岡は星空を見上げてから、二人を見て修練場の一方向を指差した。そちらの方角は廃施設の方向、やはりあちらと繋がっていたようだ。



 しかし、圭としてはここで逃げるのは憚られた。


 目の前の竹岡はすでに血みどろだ。致命傷は受けていないが、それでも服は所々破れ、一部は身体ごと抉られている。


 少なくともこの場において、圭は彼女の力になることはできる。あまり情に熱いとは言えない圭も、この状況では動かずにはいられなかった。


「『治れ』」


 淡い光が優しく竹岡を包む。初めは動揺していたが、自分の身体が少しずつ治っていくのを見て目を見開いた。


「竹岡さん、でしたよね?アイツを野放しにしておくとどうなると思いますか?」

「……この地域は大パニックになる。今は話せてはいるけど、彼は自身の意識にまで影響を及ぼす能力らしいから、いつ理性を失ってもおかしくない」

「……あらら、あらー」


 頭をガシガシと掻く。それはいつも真面目に考えている時の仕草だ。


「ケイ……」

「アシストだけなら、手伝いましょうか?」

「なにを言って……」



 竹岡が困惑している間に、圭は地面に手をつける。何の声を発することなく魔法陣が展開され、圭に引っ張られるようにしてゆっくりと鉄棒が上へと伸びていく。


「楓は隠れてて」


 身長とほぼ同じ長さになった棒をくるくると回してから、強く地面を叩きつけた。


「竹岡さん。ちょっとばかりですが、協力させてもらいます」






 竹岡は圭を見た。棒を回す目の前の男がどこの誰なのかは分かっていない。しかし、先ほどの治癒魔術に今の棒の召喚を見て、確実に圭が実力者であることはわかった。



「それなら、お願いするわ」


 圭に傷を治してもらった竹岡も立ち上がる。すでに魔法陣が展開されており、敵にいつでも撃てるような体勢を整えた。


「く、くく、く……あれ、だぁれだぁ?」

「その言葉、お返しするよ」


 棒を構えて姿勢を下げる。黒い鎧を纏った男の手先がグネグネと動き、まるでレイピアのように尖った先を圭に向けた。


「俺はぁ、狭山ぁ……焦次ろぅだぁ」

「……なんだこいつ」


 狭山焦次郎(さやましょうじろう)は卑屈な笑いをあげた。


「いぃ気分だぁ、久しぶりのぉ、そとぉっ!」

「ちょっと、……竹岡さん?こいつ何言ってるんですか?」

「あ゛ぁっ!」

「っと、」


 バネのように伸びたレイピアの切っ先が圭に伸びた。話しつつも警戒を一切怠らなかった圭は冷静に対処し、レイピアの先が横に振られる前に棒先を当て上に弾き飛ばした。


「狭山?とやらは手をつけられない能力を持っていたせいで、この施設でされていた。それを『赤帽』が解いた」


『赤帽』曰く、めんどくさいやつを切るのにちょうどいい、という考えらしい。この施設と引き換えに、狭山を解き放って能対課への意趣返しにしようと思ったようだ。


「『赤帽』が能力について語ってくれたが、……イマイチよく分かっていない」


 肩で切りそろえられた茶髪を揺らして、詠唱しながら魔法陣を展開する。

 それはまるでお手本のようで、圭には魔法陣を見ただけでなんの魔術かすぐに分かった。


「潰れろ」


 その言葉と同時に、魔法陣から巨大な土塊が生まれる。

 使った魔術は学園の黒井と同じだが規模が違う。


 黒井の魔術は両手で抱えられるくらいの大きさだったが、竹岡はゾウを超えんばかりのとてつもない大きさで、なおかつ黒井よりもはるかに速く射出された。


「うわやば」


 この規模までいけば、一軒家程度なら潰してしまえるだろう。当然人が下にいればミンチ確定だ。

 ある程度魔術を使うことができる人間なら死にはしないだろうが、当然ただでは済まない。これを連発されたら上位の魔術師であっても死は免れないだろう。


 だが狭山は違った。


 さっきまでレイピアだったものはすぐに剣へと変わり、縦に土塊を真っ二つに斬り割った。

 いつの間にか剣になっていた手を大きく振りながら圭と竹岡の方へと走る。

 そして、圭の方を見向きもせずに竹岡へと斬りかかった。


 はっきり言って、剣の斬れ味は異常だ。

 振り下ろされた剣を竹岡が避けると、地面にいとも簡単に剣先が沈んでいく。その様相は、まるでハザマの素人剣を思い出させるものだった。


「狭山は、負の感情をっ、エネルギーとするらしい。だから、他の人は全員っ、下げさせた」

「へー、そんな能力あるんですねえ」


 大勢の人数がいれば、それだけ感情は多くなる。その中の少しでも負の感情が存在すれば、勝手に回収され力へと変換させる。

 狭山に対しては、複数よりも一対一の方が戦いやすい。


 その後も狭山は、竹岡に魔術を使わせないように接近して手を振るう。手元のエネルギーの塊は自在に形を変え、言葉を発しようとする竹岡の行動を尽く阻止していく。


 はっきり言ってランクの低い人間だったら話にならないだろう。この場にいるだけで殺される可能性すらある。


 チラリと楓が隠れている方を見た。身を隠してはいるようだが、しっかりとこの戦いを見ているようだ。



 狭山には、圭は眼中にないらしい。せっかく楓も見ているのに、いいところを見せるどころかいないものとして扱われるのに、圭は不満げな様子を見せる。

 そして、詠唱をせずに、圭の方を無視する狭山に対して小さな魔術を使った。


「あ゛っ……」


 発動したのは土の魔術。少しだけ盛り上がった鉄塊に、床を意識しているわけがない狭山は見事に足を取られた。


 その好機を竹岡は見逃すはずもなかった。圭が見ればすぐなんの魔術か分かるほどの綺麗な魔術を使う。


「『雷よ我に従い槍となれ』」

「あ゛ぐぅぅっ、」


 竹岡の異常な魔力によって生み出された雷は、強烈な雷光を放ち狭山へとぶつかった。

 しかし謎の鎧が効果を発揮しているのか、竹岡の多大な魔力量による雷の暴力も大きなダメージを負わせられたようには見えない。


 雷に貫かれてすぐに身体を低く抑え込み、飛びかかる構えを見せた。


 だが、それでも圭の方は見てくれない。しかたないのでもう一度似た魔術を使った。


「それ、」


 鉄を踏み込みに合わせて流動させる。飛びかかろうとする狭山が踏み締めた床を、タイミングよく動かして踏ん張りを効かなくした。


 この小さな嫌がらせ魔術は効果は絶大で、飛びかかろうとした狭山がその場でもう一度前のめりに倒れ込んだ。狭山も、そして竹岡も何が起こったか分かっていないようだったが、好機を逃す手はない。


「『炎よ我に従い弾けろ』」


 シンプルでありながら膨大な熱量を持った炎が竹岡の頭上に展開される。


 それを見て、圭は驚愕した。


 炎の魔術をここで行うのはまずい。しかもあれは爆発系統だ。


 ここは非常に大きな空間だ。そのためほとんど地上と条件は変わらないと言えるだろう。規模が大きくなければ、の話ではあるが。


 竹岡の作った火の玉の威力が問題だった。人どころか家すら簡単に消滅させるバカでかいサイズが、魔法陣を通して竹岡の手で踊っていた。


 この場にに存在する限られた酸素量を全て使い切らんとする竹岡の間違った選択に、圭は肝が縮み上がった。


 同時に理解する。先程の地崩れは完全にこの女が原因だということに。


「おいおい、おいおいおいおい!マジでかよそんなんここで放つなバカ野郎!」


 そして、後ろに飛びながら放たれた火球は、狭山を中心に大爆発を起こした。








「きゃっ!」

「あ、あの人バカだろ!こんな洞窟で火の魔術使うなよ!」

「ケイっ!?」


 炎の魔術を見た瞬間に何が起こるかを察知した圭は、後方に隠れていた楓を抱き寄せ距離を取った。

 大量の炎はそれにふさわしいエネルギーを使う。たとえ魔術でも道理は同じ。手から離れた時点で魔術現象は自然現象へと変化する。



 爆発の勢いで空洞全体に地響きが起こり、圭たちが落ちてきた岩盤の周囲がガラガラと雪崩を起こし始める。どうやら地崩れの異変を察知したらしい上にいる能力者たちはその場から避難していたようだ。能力の関係上決して近づくなと言われた彼らは、四人が落ちるのを見逃したこともあり救助の気配は全くない。


 この本来起こるはずのない地崩れは、二人の戦闘が原因だった。狭山の鉄を豆腐のように斬り裂く剣と、竹岡が放つ異常な威力の魔術。二つが重なって、天井自体を破壊してしまったのだ。


「まともな人なのかもしれんが、もう少し学習してくれよ……。楓、大丈夫か?」

「ええ、でもなんで急に?」

「あんな超ド級の爆発魔術使ったせいで、この空間では衝撃に耐えられなかったんだ。咄嗟に爆発範囲の外に出たから僕たちはなんともないけど、他の人は違う」


 周囲を見ると、ランク6の自爆のせいで散々たる現場だった。真ん中だけにしかなかった瓦礫は一気にその規模を広げ、土煙は舞い上がるばかりで収まることを知らない。


 袴田と中田は生きているだろうか。落盤の中心部には何も起きてないので、酸欠以外は特に問題はないだろう。


「あの二人、死んでないわよね?」

「……生きてるよ、探知できた」


 あの二人は運がいいのだろうか。先ほどの場所とほとんど動いていないのだが、それでも無事に生きている。


 それと同時に、竹岡と狭山も生きていることは確認できた。


「使うなら雷とか風にしておけばよかったのに、なんでよりによって炎を選ぶかなぁ」


 肩を落としてため息をつく。楓もそれに同調した。


 二人はあまり考えたことはなかったのだが、神城学園では基本的に炎の魔術が最も攻撃力が高いと認識されている。その次に雷、風とならぶ。逆に、便利なおかげで圭が非常によく使っている土の魔術は、最も攻撃力が低いと判断されていた。



「ゲホッ、ゲホッ……おい、男。そっちは大丈夫か」

「大丈夫ですよ。ヤバくなる前に逃げましたから」


 頭を抱えてふらつく竹岡に治癒魔術をかけると、すぐに健康体に戻った。


「せっかくサポートしたのに、今のはひどくないですか?」

「くそっ、またやってしまった……やはりあれはおまえの仕業か」

「はい。隙を作ろうと思いまして」

「土の能力者か。地味な割に便利な能力だ」

「え?あ、いえ別に能力では……っ、」


 ガラガラと音を立てて瓦礫が崩れると、その隙間から針のようなものが圭と竹岡の間を通過する。



 その根本を目で追うと、半身焼け焦げた状態の狭山が立っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る