第35話四人目
「「
マロウとタリナの声が重なった。
探知魔術だと分からなかったが、この時二人の表情は激変し、歪み狂っていた。
「はぁぁぁっ!!」
マロウが圭のいる方向へと突っ込む。そのスピードは先ほどまでより遥かに早い。
慌てて別の木に避けた後後ろを振り返ると、スギの木が幹から砕け折れていた。
パンチ一発でこれだ。先ほどまでとはスピードも威力も違う。
「ふっ」
「うぉっ!」
咄嗟に避ける。タリナの毒手が圭のすぐそばを通り抜け、触れられたスギの木は腐り落ちていく。こちらも木を移動しなければ食らっていた。
「なんだ、一気に力が強くなった!?」
三方向から鉄針を配置しながら、マロウがもう一度砲弾のようなスピードで圭目掛けて跳ぶ。その反動で、また一本木が折れた。
木を滑るように降りて下に避けると、少し距離のあったタリナからわずかな土が圭に投げつけられた。
すぐに水の魔術で対処すると、それをぶち抜いてタリナは毒手を圭へと伸ばした。
「『爆ぜろ』」
目前に迫ったタリナを、小さな衝撃波が小気味のいい破裂音と共に弾く。それを好機と捉え、圭が棒で叩き落とそうとすると、鉄の針が上から圭に向けて射出された。
「っ、危ねぇ」
「っらぁっ!」
マロウが今まででは想像できない野太い声で、圭に突っ込む。斜め上に回避した圭を、空中で針を差し向けた。
「『土よ』」
圭の周りを土が覆う。魔術によって強化された土は針をめり込ませ、取り込んだ。
そして、取り込まれた鉄針は、土団子とともに地面に転がった。
「これで針は使えない」
「『ヴェノム』」
「やっべ」
タリナが毒を使う。ヴェノムと呼ばれた毒は非常に強力で、土を伝ってじわじわと木や草を枯らしていく。
タリナから距離を取る圭に、今度はスギの木自体が宙から迫ってきた。
「はぁっ!?」
鉄針ではない、文字通り木の幹だ。先端は鋭く尖っており、杭を連想させる。これもある意味「針」と言える代物だ。
一本ではない。複数の木杭が圭に向かって飛ぶ。外れた木杭は森の中を縫うように自在に飛び回り、何度も圭を追いかける。
次第に侵食毒が領域を広げ始め、圭を狙う木杭は徐々に毒杭へと変わっていった。
それに加えて、能力を行使した二人も接近戦で圭に迫る。
「さっさと死んじゃえー」
マロウは何十本もの毒杭で、木の幹に捕まる圭に狙いを定めた。
死角はない。幹だった杭は何本にも分割され、より針と言える形状で球を作る。一本一本に毒が行き渡っており、みずみずしさを失った枯れ木ばかりだ。
さらに地面を見ると、タリナの侵食毒がゆっくりと圭のいるスギの木を腐らせていた。
「しゃーない……『灼炎』」
「あらあら、森で炎の魔術を使う気かしら」
「『焦がせ』」
圭の右手に展開された魔法陣は、二つ目の言葉で大きく広がり、凄まじい熱量を持つ爆炎を放出した。
狙いはタリナが広げた侵食毒の中心部。腐った地面に炎を当て、そこから広げるように周囲を燃やしていく。
当然、同時にマロウの針球も炎で燃やし尽くし、火炎に塗れる地面に圭は降り立った。
チロチロと火の粉が圭を中心に弾ける。毒は超高熱の炎により、どこかへと消えてしまった。
炎による明かりが、三人を照らす。
魔術師らしく冷静な表情でいた圭は、襲い来る二人の殺し屋の表情を見て戦慄した。
「んだ、狂ってるのか?」
せっかくの美人が台無しだった。目は血走り、唾液が垂れている姿はクスリでも持ったような中毒者を想像させる。
その代わり、華奢だった体つきはひとまわり大きくなり、見れば分かるほどの筋肉には血管が血走っていた。
「ドーピングか」
毒を使えば、ドーピングはできるだろう。ここまで脳筋チックになるドーピングは聞いたことないが、能力によるものなら納得できる。
さらに二人の体の一部には針が刺さっていた。
おそらくこれも、ツボを刺激するか何かでパワーアップを促しているのだろう。
これで二人は確かに強くなった。接近戦と能力を絡み合わせた連携は圭にとっては非常に厄介だ。
炎の魔術を使わざるを得ない状況に追い込まれてしまったくらいなのだから。
炎を止めて傾斜の激しい地面に降りた圭は、棒を槍のように構える。
「『水よ』」
「水切り来ますよ!」
「りょーかい」
「『穿て』」
レーザーのように射出された水を、二人は事前に察知して避けた。
「『穿て』『穿て』」
「ムダムダー」
事前に圭について調べておいた二人は、水の刃のことも当然知っていた。そのため、圭が構えた瞬間に射線を察知して躱したのだ。
それを圭は察知し、別の手段に切り替えた。
「チッ、読まれてるか。なら、『キュー』」
「あらあら、それも知ってますよ」
「どうかな?『ショット』『ガン』」
「っ、!?」
不可視の弾丸は、一発の銃ではなく、まるで散弾のように面制圧で二人を襲う。
不意をつかれた二人が体勢を崩したところに、圭は追い討ちをかける。
「『風よ』」
棒の先端に生み出された魔法陣は、振り上げられると同時に風の刃を放った。
「くっ、」
「『毒針千本』!」
「おっと、『灼炎』『焦がせ』」
大量に圭に降り注ぐ毒杭を、炎の魔術で燃やし尽くす。その隙をマロウはついた。
「もらいっ」
「チッ……」
服に穴が開く。あと少し、圭が察知するのが遅かったら、針は身体に刺さり毒が圭を襲っただろう。
それを分かっている圭は、毒を警戒してすぐさま服の穴が開いた部分を引きちぎった。
アンダーには穴はないが、上に来ていたジャケットは穴が開いた部分が変色している。
このままではジリ貧。何か作戦を立てるべきだ。
ただ、圭にはまだ有利要素が残っている。
ランク6、『
圭と同じく八人しかいないランク6が二人揃えば、一瞬でカタがつく。
それを前提として、作戦を組み立てるべきだ。
そう判断して、圭は燃え移りそうな炎を水で鎮火し、戦場を変えるべく木々を蹴り移動を開始した。
圭が止まったのは、楓が小山の頂上に囚われている、一番最初の場所だった。
「よっ、と」
一跳びで小山を超え、意匠を凝らした椅子から楓を解放する。まるで生贄のための磔のようだった意識のない楓を、少し離れたところで隠すようにして木にもたれかけさせた。
そして、静かに魔術を行使する。
「『土よ』」
それだけで小山はゆっくりと地面に沈んでいく。中にはハザマが半ば腐った状態で埋まっているだろうそれは、完全に姿を消す。
その先に、キラリと空間の一部が光った。
「『守れ』」
「もー、おいていくなんてひどいなー、うんうん」
落ちた針に詠唱なしで土をつけ、球状に固め尖っていると認識できなくする。
「あらあら、それは同意します」
同時に、飛んできた毒液は水で守る。
クスリでトんだ様相を見せた二人が、このタイミングで圭のいる場へとたどり着いた。
「悪いね。僕は守る側だ、戦うフィールドくらいは選ばせてもらいたい」
棒を構える。
この場は少し前まで洋館があった場所だ。そのため山の中にしてはかなりひらけている上に、地面が水平なのだ。
斜面かつ相手を見失いやすい場所で戦うよりも、針や毒を仕込める死角をなくした方が有利だろうという結論に至った。
魔法陣を展開させた棒で地面を叩く。
それに合わせるかのように、盛り上がった土が直線軌道でマロウとタリナの元に走り、二人の直下でトゲの花を咲かせた。
圭から見てタリナは右へ、マロウが左へと避けたのを見て棒を横に振る。展開させていた魔法陣からは風の刃が生み出され、水平にタリナの方向へと放たれた。
現状、厄介なのは毒女のタリナだ。能力による毒を治すには、能力者本人が解毒を行うか、能力者の死後に治癒の魔術をかけるくらいしか方法がない。
治癒の能力者であれば話は別なのだが、それをここで期待するだけ無駄だろう。
「『爆ぜろ』」
上に跳んで避けたタリナの後ろから、破裂の魔術を発動させる。
これは圭にとって最も馴染みの魔術。完璧に制御される魔術は、魔術干渉がないこの場ではあらゆる場所で展開させられる。
「あら、」
パンッと小気味の良い音が鳴り、タリナが宙でバランスを崩した。それを圭は狙い打つ。
「『風よ』『穿て』」
狙いは、腹部。
いつものものとは異なる不可視の弾丸は、威力はケタ違い。
そして棒から放たれた放たれた風の魔術は、
「タリナごめん!」
「ぐっ、ぁ……くぅっ、」
巨大なスギの木に直撃した。
「チッ、木を操ったか」
折れた木を直接針に見立てたマロウが、側面で無理やりタリナを弾いたのだ。
それにより魔術が当たったのは木の一部。魔術によって、その中心は綺麗にくりぬかれていた。
「一度でも毒を入れれば勝ち、こっちの優位は変わらないのだー、うんうん」
圭の様子を見ながら、マロウはニヤリと気狂いの顔を月明かりの元に晒した。
そして、小さな針と同時に、複数の木を幹ごと自在に宙に操った。
「『
上空に薄く、毒の膜が広がった。これはこの平地を一気に覆うほどの大きさで、圭が選択したこの場に逃げ場は一切ない。
「『灼炎』『広がれ』」
咄嗟に上げた圭の手の先から魔法陣が人の大きさ大に広がる。さらにそこから、爆煙が上空に放射状に大きく広がった。
あっという間に毒の膜を焼き焦がし、ほとんどの場所が死地になることから逃れた。
「ああもう、しぶといなー」
「それはこっちのセリフだよ。『キュー』」
「あら、っと」
連続で放つ不可視の弾丸がタリナを追うも、あと少しのところで刺さらない。この魔術は便利ではあるが、致命的なダメージまでは与えられない。
「無視されたらこまるなー」
「チッ」
構えていた棒を持ち直し、圭目掛けて飛んできた木を避けて鉄棒を側面から刺した。これにより、圭の棒はまるで巨大なトンファーへと変貌する。
「おらぁっ!」
棒を支点に大きくスイングすると、それが障壁となり宙に浮く木々はマロウのコントロールから離れて吹き飛ばされた。
同時にタリナから放たれた毒弾も木で防ぎ、その勢いでタリナへと突き刺さっていた木を投げつけた。
タリナは僅かに跳んで宙を飛ぶ木に着地して、圭の真上に飛んだ。
「プレゼントですよ」
タリナのポケットからこぼれたものが、ゆっくりと圭へと落ちてくる。
初めは何か分からなかったが、近づいてくるとそれが圭の目にも鮮明に写った。
「手榴弾!?くそっ!」
すぐに横に大きく飛び、鉄棒の先に水と鉄のベールを作った。これは衝撃緩和と、毒を防ぐため。
そう、これはただの手榴弾ではない。中にはタリナ特製の猛毒が詰められた、ポイズングレネードだ。
破裂の瞬間に、宙に浮いたままの圭に衝撃が走った。
「危ねぇ……」
その場をゴロゴロと転がり、すぐに体勢を立て直す。
飛び散った毒はそれだけでトラップとなる。僅かでも毒が付着した土に触れれば、それだけで死が確定する。
「そろそろ終わりだねー、うんうん」
「あらあら、そうみたいですね」
窮地だった。そこら中に毒が飛散し、針や木が宙を舞う。
そして、後ろには
「まずいな」
木にもたれかかって気を失っている、楓がいた。
「避けたら彼女、死んじゃうよー?」
二人も分かっているのだ。琴桐楓は三鷹圭の弱点。故に、窮地に陥った時の人質としての役割を持っている。
圭だって、楓が二人に見つからないように奥に隠していたが、どうやら場所もバレたらしい。
「残念、やられる予定はない」
鉄棒を二人へと向ける。二人の能力は圭なら防げる。そして、隙をついてさっさとケリをつける。今ならできるはずだ。
マロウから針が、タリナから毒液が、圭へと狙いを定める。
「「死ね」」
二人の攻撃が、圭と、そして楓へと向かう。圭は棒を回し、すべての攻撃に備えた。そして、
「来やがれ、全部撃ち落としてや……は、ぐぁっ!!」
横に、大きく跳ね飛ばされた。
「がっ、あっ、くっ……な、なに……ゲホッ」
恐ろしいほどのスピードで木の幹にぶつかり、三本ほど木を砕いてから止まった圭は、口から血を吐き出した。
血で濡れた腹を触り、赤黒く染まった手を見る。そして、その先にいた男を見据えた。
「真田……権蔵……」
ランク6、『
その本人が、圭のすぐ前に立っていた。
「死んでいないことを喜ぶのだな」
冷徹な目で座り込む圭を見下ろす。圭が突然吹っ飛んだのは、真田が真横から圭を殴ったのが原因だった。
「くっ、『治れ』……」
全身治癒は、魔力と時間を大きく消費する。真田は助けたつもりなのだろうが、魔力の消費を考えると圭への攻撃は明らかに損をしていた。
しかし、真田はそれを知らないし、知っていても何も思わなかっただろう。
圭の身体が治る前に、興味を失った真田がゆっくりと二人の殺し屋の方へと歩く。
「だ、だれかなー?邪魔をしに来たのは」
「あらあら、困っちゃうわ」
マロウは焦り、タリナは余裕を崩さずに、真田へと問いかける。二人とも、目の前の男のことは知っていた。情報収集に余念のない二人には、この男は嫌と言うほど知っている人のうちの一人だ。こんな有名人を知らないはずがない。
「……どこのどいつだか知らんが、殺してやる」
一言、真田が口にした。
「『圧』」
刹那、二人の殺し屋は同時に弾き飛ばされるように後方へ吹き飛んだ。しかも勢いはただでは止まらず、一本、二本と木を折ってはるか先へと飛んでいった。
圭は体を治しつつもその様子を見て驚愕する。これは前に見た能力ではない。重力では、あんなようにはならないはずだからだ。
だが、それはほんの少しだけですぐに頭を切り替える。
「な、……るほど。それより、楓は!」
まだ治っていない身体を無理やり起こし、すぐに楓を探す。
場所も把握していたため、楓はすぐに見つかった。
「楓……どこかに傷は……」
身体を触る。暗闇でも見えるように小さな光を生み出し、全身に異常がないかを確認していく。
その身体は、手にも足にも傷はない。当然、顔にも。
「よかった……まだ大丈夫だ。死んではいない」
楓の頬に、手を当てる。力なく木にしなだれかかる姿を見て、圭は完全に治った身体を起こし、棒を持って前へ出た。
「くだらん」
見るまでもないと言わんばかりに呟き、真田は二人が飛んで行った先を見据える。
圭はその隣に並ぶ。
「さっきのは気にしないことにします。それよりも、相手の能力なんですが、」
「知っている」
「え、」
「先まで見ていたからな」
「っ、……」
見ていた、ということは、圭が死にそうになる寸前まで助ける気がなかったということだ。不遜な態度に圭は苛立ちを覚える。
この男、偉そうな口ぶりをしているが、中身はクズだ。人を助けるという考えを持ち合わせていないに違いない。
必死に心を落ち着けようと深呼吸をする。余計な思考は術を乱す。
一通り心を落ち着けて目を開いたところで、ゆっくりと現れたマロウとタリナをしかと見据えた。
「行きますよ」
「勝手にしろ」
棒を構え、斜めに跳ぶ。真田と直線状にいるのは重力攻撃の関係上よろしくない。
走りながら、棒先に魔法陣を展開させる。
「『土よ』」
複数の地盛りが走る。これは先ほどと同じような、敵の下でトゲが発生する術だ。当然マロウに利用されないように、トゲが生えた後は崩れるように設定してある。
この三つの線を見て、マロウとタリナはそれぞれ左右に走り出した。
狙うはマロウ。タリナの毒の方が厄介だが、真田のあの能力を見た限り、タリナの攻撃を封殺できると考えたからだ。
それよりも重力の影響を受けにくいマロウを狙う。
「『水よ』」
魔法陣を展開させると、その先から水球が出てくる。それも一つ二つではない。数十もの数が、圭のコントロール下で空中を浮遊していた。
それらは空間を縫うようにして走り、全てが正確にマロウの操る金属針を捕らえる。圭の目的はマロウの無力化。故に使う魔術は氷。
「『凍れ』!」
球状の氷が音を立てて落ちた。マロウの能力はまず針と認識することから始まる。そのため、ただの球となった氷の中にある針は動かすことができない。
「無駄だよー!」
木の幹で作られた杭が、マロウの操作で氷の弾を破壊していく。これによって割れた氷の中から鉄針を抜こうという魂胆だ。
それを読んでいた圭は足を二度踏む。これだけの動作で、氷の弾を土が取り囲み、ゆっくりと地面の下へと埋没させていく。
「『風よ』……」
さらに圭が魔術を発動しようとしたタイミングで、一言真田が唱えた。
「『重』」
「んうぉっ!?」
一気に身体が重くなる。人三人背負う以上に辛い負荷は、圭の魔術を乱した。
それはこの場にいた全員に当てはまった。
「くっ、」
突然の重圧にマロウは膝を着かされ、同時に木々は自重で下へ下へと落ちていく。それを好機と圭は見た。
「『風よ』」
棒先に展開した魔法陣が風の刃を生み出した。重力の影響を一切受けない刃は、圭の制御のもと正確にマロウへと向かう。
すぐに動き出せなかったマロウは、木の杭で身体を強引にずらすことで難を逃れる。その代わりに盾となった木は真っ二つ斬り裂かれた。
「『針連弾』」
「チッ、『土よ』」
今度はマロウが木々を圭へと射出する。その速度はこの重力下では十分な速度を持っていた。
素早くは動けない圭は慌てて自分の立つ地面を操作し、土ごと自分の位置を動かして躱した。
しかし、圭の魔術とは違い、マロウの能力は止まらない。一度避けた木は宙に浮いたまま旋回し、別の方から圭を狙う。それをそりでも乗ったかのように、一歩も足を動かさないまま圭は地面を滑りながら回避していく。
そして一気に距離を詰めて、圭は掌に魔法陣を展開させた。
「『雷よ』『迸れ』!」
「えいー!」
掌から迸った雷はマロウの方へと走るも、二人の間に押し入った一本の木に触れ、超電流で発火しながら地面へと電流を流した。
「まだだ、『爆ぜろ』」
「筒抜け」
破裂の魔術は、あっさりとマロウに躱された。主に四方向に飛ばすであろう衝撃は、しゃがむことで簡単に回避できる。立体機動でもしない限りは必要ないため、圭は滅多に上下方向に破裂の魔術は行使しない。それが仇になった。
マロウが逆に攻勢に出て木を横になぎ払う。点の攻撃が線へと変化したことで、うまく対応できず圭はその場から吹き飛んだ。
「っしょー!」
「うっ、くぅぅ……な、『治れ』」
幸か不幸か、強烈な一撃にもかかわらず、重力のおかげで圭は大きく吹っ飛ばずに済んだ。
マロウと場所を入れ替わった圭はすぐさま体勢を立て直し治癒魔術をかけた。
チラリと横を見ると、真田がタリナを圧倒しているのが見えた。
動きを封じたタリナに対し、例の吹っ飛ばしの力で強制的にダメージを与えている。それに、毒液や毒弾も真田に届く前に速度を失い、タリナの方に逆戻りしていく。
当然、圭にもその力がどういうものかは見当がつく。
真田が操るのは重力だけではない。引力と斥力も操っているはずだ。
そうであれば、タリナの毒も気をつけていれば真田に届くことはない。
圭はタリナの位置に注意しつつマロウを倒せばいい。
そう考えていた。
「仕方ないなー、タリナいけるー?」
「……っ、なんとか」
二人は動き出す。
真田がいようと変わらなかったのだ。
目的は三鷹圭の殺害。それに必要なのは弱点。
「……っ、しまった!」
マロウ、タリナは同時に木陰に寝かされた楓の方へと走り出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます