第12話三鷹圭の勘違いと可能性
琴桐家に戻ると、まず豪華なディナーが待ち受けていた。勝利祝いということで、亮太郎が特別に手配させたらしい。
執事の田村が圭を見て顔をしかめたが、琴桐ファミリーは完全に無礼講のノリだった。
「いやー、三鷹くん。本当に君はすごいねえ」
「ホント凄かったわぁ。楓の護衛にはもったいないくらい」
「お母様!」
「はいはい、分かってるわよ」
「ならいいですけど」
三人の食卓に一人大学生が混じる。琴桐夫妻はポワレをフォークで口にした後、わざわざ開けた20年ものの白ワインを田村に注がせる。
「はっはっは、どうかね三鷹くん。君も飲むかい?」「あはは……お茶だけでも満足です」
「お父様、ケイはまだ未成年ですよ」
苦笑いする圭を見て、ダイニングの端にいた米田が敢えて後ろから口を挟む。
「三鷹、今後はどうするつもりだ?」
「今後って?」
予想通りの反応にため息をつく。
「今回、瓦田に勝った。瓦田はランク4だ。当然おまえも同等以上の評価になる」
「ほうほう、ランク4か。いいじゃん」
「分かってないようだな……いいか、こっちの業界じゃ引き抜きが当たり前なんだ。瓦田に勝ったおまえはいろんな人からスカウトの声がかかるだろう」
「へぇ……ん?じゃあ、俸給10億もある?」
「まあ、三鷹の能力を見極めた人ならそれくらい出すだろう」
「ふぇぇ、超金持ちじゃん」
圭がテンションが上がったのに対し、逆に琴桐ファミリーは気分が盛り下がってしまった。
「そうだねえ……10億もうちじゃ出せないし、スカウトされたらどうしようもないか」
「そうですね……楓、残念だけど……」
夫妻はいたたまれない気持ちで楓を見る。圭は楓の護衛だ。スカウトされれば、楓はまた護衛を探さなければならなくなる。
「ケイ、あなたはやめてしまうの?」
横から覗き込んできた楓を見て少し心臓が早鐘する。こう聞かれても、なんて返せばいいか圭には分からない。
「最悪、大学通いを認めても雇いたいってやつは出てくるだろう。今まで楓さんがやってきたように学生ならなんとかなるしな」
「わたしがケイの雇い主なのに……わたしが見つけたのに……」
下を向いてブツブツ呟く楓を改めて見て、圭は頭をかいた。
「10億あっても使いきれないし、今のままでいいですよ」
「おお!」「まあっ!」「えっ?」
三者三様に反応して圭をマジマジと見つめる。もう一度言えという無言の空気ができていた。
「このまま楓さんの護衛続けますよ。他のところだとなんだか息苦しそうですしね」
同じ内容を耳にして、三人がお互いに目を合わせる。
そして、まず最初に楓が叫んだ。
「やったぁぁーー!さすがケイ!分かってるじゃない!」
遅れて琴桐夫妻も喜びをあらわにする。
「まあ、まあまあまあまあっ!信じられないわ」」
「そうかそうか。三鷹くん、うちにいてくれるか!いやー、めでたい!ほんとうにめでたい!どうかね三鷹くん、20年もののヴィンテージだ」
「お父様!ケイはまだ未成年ですから!」
米田はこれでいいのかと圭を睨んだが、圭は何も言わずに笑顔で肩をすくめた。
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居間で琴桐夫妻が食事の余韻に浸っている間に、圭は大きな家の片隅にある部屋に入る。六畳一間のこの部屋は、圭の根城だ。大きな棚の中には大学で使う教科書、漫画、小説、その他参考書が収納されている。
これらは圭が自ら買い集めたものだ。使いきれない200万の一部はここに消えている。
お気に入りのちょっとお高いワークチェアに腰掛け、簡素なデスクに向かう。散らばっていた本や書類は魔術で全て書棚にしまう。魔術が使えるようになってから、圭の周りはだいぶ綺麗になっていた。
「さてと」
体重を後ろにかけながら机に肘をつく。
今日の瓦田との戦いの時に気付いたことが一つあった。
「やっぱ勘違いしてたか。どうもこっちの世界は、魔術に関しては遅れてるっぽいな」
今まで、魔術に関しては『ケイン』の常識で物事を判断していた。だから米田は強そうに見えたし、周りの護衛も強いのだろうと考えていた。
それに対して、ここ最近圭の使う魔術は何度も何度も異常と言われてきた。瓦田は魔術の使用量を見誤っていたみたいだし、魔術師は殴るか逃げるの二択がオーソドックスらしい。
これは、別の世界、ケインが暮らしていた世界とは大きく異なっている。
確かにケインの魔術の多彩さは群を抜いていた。しかし、向こうの世界でも魔術はかなり応用が効く。詠唱なしでも魔術は発動するし、
米田のように身体強化をかける時に魔力を漏らすのは二流のすること。いや、米田レベルのダダ漏れ具合なら三流はおろか四流でも怪しい。
魔力の効率的な使い方も知らない人ばかりのようだし、どうにも感覚がズレている。その原因を、なんとなく圭は予測していた。
「たぶんこの世界、魔術師も能力者も、頭脳よりも単純な強さのみに傾倒している」
魔術師は魔術師、能力者は能力者らしく生きる。それがこの世界の理らしい。魔術を使える段階でいくらでも雇い先があり、普通に大学へ行き就職するよりはるかに金を稼げる。これは能力者も同じだ。
代々伝わる家系の場合は得意な能力を家伝として伝えるため魔術の知識は門外不出。
そのため、魔術師は最も簡単に出来る身体強化でゴリ押す人か、家系にのっとり得意魔術を習得した人のどちらかしかいない。
そうやって圭はあたりをつけていた。
「そもそも魔術やそれに関連する知識が体系化されていない。異能者を集めた学園もあるらしいが、勉学より能力バトルを優先する人たちばかりだろうな」
要はこういうことだ。
1. この世界の魔術師および能力者は、ワンパターンで力押しばかり。
2. 魔術のシステムや魔力な扱いなどの基本的な技術すら知られていない。
学園ならある程度呪文を通して魔術は使えるようになっているだろうが、たかが知れてる。
調子に乗った厨二病が「魔力は使い切れば増える」とか、「魔力コントロールがキモ」だとか考えているだろうが、そんな簡単に魔力は増えないし、魔力の扱いはこっちの世界の普通の人がイメージしているのとはかなり違う。
改めて言おう、この世界の魔術師は魔術師に関しては素人しかいない。
「だとすると、僕、めっちゃ強いじゃん」
同じ魔力量でも、極めに極めた圭と比べると効率が違いすぎるため、他の人から見れば三倍にも四倍にも多く見えるだろう。身体強化だって魔力を切り離して高回転で巡回させるだけのため、そう簡単に魔力は消費しない。
ただ、注意すべき点として、能力者はこれに当てはまらない。瓦田は『パワーアップ』能力だった。これはたまたま身体強化と同じで大した変化はなかったが、中には変わった能力の持ち主もいる。
しかし、向こうの世界でもほぼ全員が『固有スキル』を持っているため対応には慣れている。
「うーん、これは転生チートというやつだな。異世界転生したら科学の知識で無双、とかあるけど、僕の場合は逆パターンか。魔術の知識で無双、ってか」
向こうの世界でのケインは魔力操作の才能を生かしていたためかなり強かった。それが魔術が遅れているこの世界ではどうなるだろうか。
圭はその日はニヤニヤが止まらず、目が冴えて全く寝付けなかった。
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