第7話琴桐楓の華麗なる日常
琴桐楓は、七琴学園では有名人だ。
まずその美貌。上流階級の人は美形が比較的多いのだが、彼女はその中でも際立っている。スカウトも何回もされており、その美貌は学園でも一二を争うと言われていた。
もう一つは魔術。魔術師や能力者を雇っている人たちは魔術は知っているが、魔術が使える人は少ない。さらにそう言った人たちは国立学園の方に行きそのまま国に雇われるパターンが多い。
そのため彼女は物好きとも言われており、同時に魔術師としては最弱クラスのため若干の嘲りも見られる。
ただ、彼女は学園では際立って権力を持つ強者ではない。
勉強に関しては上位をキープしているがトップには擦りもしないし、魔術を使わなければ運動能力もそんなによくない。
ある人曰く、そういう弱みがあるからこそモテるらしい。
たまたま美人だった彼女は、名だたる御子息からお誘いが来ており、縁談もかなり舞い込んでくる。特に大企業の次男三男あたりが多い。
中には強引な人もいるため、そういった人に強く出られるように、楓は自分を強く見せるために常に背筋を伸ばして威圧感が出るよう心がけている。さらに、学園内では生徒は魔術を使える人がいないことも、厄介ごとの対処としてはラッキーだった。
「はぁ、疲れた……」
図書室の一角で机に寝そべる。彼女にとって学園は気を張る必要があるため、ストレスが一気に溜まる。当然仲のいい友人もいるが、こういう一人になった時間くらいしか完全に気を抜けないのも事実。かといって下校の際に気を抜けば、美貌目当てに人並み以上に狙われやすくい。前みたいに死にかけることもある。
今のところはギリギリのタイミングでなんとか米田や能力対策課に助けられているが、安息地は家しかない。
そういう意味では三鷹圭は渡りに船だった。
性質上狙われやすい楓を護衛するためには、琴桐グループのキャパを超えた金額を払う必要がある。しかも、よりによって距離が近いから寮にも住めない。
しかし三鷹圭が現れたことによって、登下校は確実に安全になる。初めて会ったときに襲ってきた2人組はランク2の護衛を軽々と叩き潰したのだ。それを瞬殺できる圭なら安心感はグッと増す。さらに騙したような感じではあるが格安で雇うことができた。
「しかも帝一大、教えてもらってる感じだと、超頭いい」
社会的ステータスもかなりいい。おそらく勉強なら七琴学園生徒の誰よりもできる。
唯一の問題は大学を優先したいという点だが、大学の授業の間はだいたい学園で過ごしているのでなんとかなる。
「あ、楓せんぱーい!」
「うわ……」
黄昏ていた図書室の一角で楓は思わず呻く。黄昏タイム終了のお知らせである。
図書室なのにバタバタとかけてきた少女は六条美波(ろくじょうみなみ)だ。一個下で楓のことを崇拝しているくらいには好きだと聞いたことがあった。怖い。
かといって、六条はビッグネーム。琴桐のようなローカル企業と違って時価総額は百倍くらい違う企業の社長令嬢だ。絶対に無碍にはできない。
「楓先輩、お茶でもいかがですか?今日は美味しい茶菓子を用意したんです!」
「ごめんね、美波。ちょっと今日はやめておくわ」
「もう、いっつもそればっかり!」
子供かと言いたくなるような反応を示してくる。美波はこうして毎日お茶に誘ってくる。毎日だ。断ることは分かっているはずなのだが、決してめげることはない。
他にも、四ツ橋という財閥系の役員の息子や、新進気鋭のベンチャーを渡り歩いてCEOを務める人物の息子なども毎日お誘いが来る。
基本的に誘うことに抵抗はないらしい。他の人にその熱烈なパフォーマンスを向ければいいのに、なんて思ってしまう。
確かにそういう人とお付き合いしたら琴桐家としてもかなりプラスになるだろうが、それはそれで別の人の恨み妬みを買いそうで憚られる。同じ女子の恨みとか、アピールしてきた男子の恨みとか。
それに、楓は恋仲などは考えたことはない。
「あ、わかりました!最近新しくなった護衛さんに気が行っていますね?」
「……え?ああ護衛の話ね」
「大丈夫です。あたしとお茶するなら絶対に安心なのです」
彼女の護衛は業界では有名な魔術師だ。結界魔術を得意としており、護衛という点では最も適任な人物だ。
「大丈夫よ、大丈夫。今回の護衛は今までとは違うから」
「ええー、やっぱり護衛くんに気が行ってますよ!それに、あたしの護衛の方が優秀です」
「あー、はいはい。美波の方が強い強い。そろそろ迎えが来る頃だから、また今度ね」
渋る顔に苦笑いを返しながら席を立つ。まあ護衛に気が行っているというのもなくはないかもしれない。雇ってすでに二週間近く。優秀なのは間違いない。取引相手と考えると少し失礼だが、圭は護衛だ。多少の非礼は楓としても気にならない。それに学もある。
校門まで行くと、格好だけは立派な護衛が待っていた。
「あ、かえでさーん、おつかれさんですー」
「おまたせ。帰りましょう、今日も疲れたわ」
この二週間で少し馴れ馴れしくなった護衛を見て、安堵して車に乗る。この男、運転もできるらしい。初心者マークつけてるけども。
シートに座ると、外で美波が何やら大きな声で話していた。相手は三鷹圭だ。彼女は護衛が変わるごとに毎回難癖つけるのだ。
「あなたが楓先輩の護衛ですか?」
「あー、はい。いちおう」
「な、ななななんてやる気のなさ!これは歴代楓先輩の護衛で最低です!」
「そうですか。じゃーナンバーワンですね」
「違う!違います!違うのです!」
「これでもちゃんと仕事はしてますよー」
美波は声が高い。大きく叫ぶとかなりうるさい。圭の方を見てみると、案の定耳を塞いでいた。
しかし、それは逆効果だ。田村並みに、美波は楓の護衛に完璧を求める。わずかな悪態が目についてしまう。
「そんなのじゃ楓先輩の護衛なんて……ななな、なんですかその態度!護衛のくせに偉そうに!」
「あ、すいません。もう少しボリューム抑えてくれませんか?ほら、周りにも迷惑ですし」
「し、失礼です!侮辱です!あたしに対する侮辱ですこれは!」
雲行きが怪しくなってきたところで、楓は窓を開けて圭を呼ぶ。
「ケイ、美波は大事な後輩なの。あまりいじめないであげて」
「りょーかいです。ということでごめんね、美波ちゃん」
「ぐぬぬ、ここは楓先輩に免じて許してあげます。でも、これ以上はないですよ!」
どうやら美波の方にも迎えがきたらしい。護衛の方に圭がペコリとお辞儀をした。こういうところは抜け目がない男だ。
初心者マークがついた恥ずかしい車に乗って家に帰ると、父からすぐに呼び出された。
「失礼します」
書斎に入ると、父・亮太郎だけでなく、護衛も一緒にいた。
「米田はまだしも、なんでケイ?」
「さあ?僕もさっぱり」
両手を肩まで上げてひらひらと手を揺らす。その動作は相変わらずというべきだろう。ただ、呼び出された理由に関しては本人も知らないらしい。
「おお、来たか」
「それでお父様。何か用でしょうか」
亮太郎は立ち上がり、まず米田の肩……ではなく背中を叩いた。その次にケイの肩を叩く。
「三鷹くんを、私の護衛にしたいのだが、どうだろう」
「え?」
「あぃぇ?」
二人は気の抜けた表情でお互いの顔を見た。
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