第4話よろしくおねがいします(強制)
圭は車に乗せられ、立派なお屋敷に案内された。
「どうぞ」
「あ、はい」
執事っぽい人が丁寧に車のドアを開けてくれる。そのまま立派な門、の隣の小さな門をくぐり屋敷に入る。
後ろで車が動く音がした。
ヤクザかなにかだろうか。あれほどの猛追をしてくるなんて普通じゃない。はっきり言って、狂ってる。
きっと、この屋敷の人も、狂ってる。そう思わずにはいられない。
あっという間に立派屋敷の中に入り、立派なフロントを眺めながら奥の部屋に連れられる。
拷問でもされるかもしれない。いざとなったら魔術使ってでも全力で逃げよう。
「お嬢様が来られるまで少々お待ち下さい」
そう言って、執事っぽい人は去っていった。
部屋を見渡すと、改めてこの家のレベルが分かる。凝った装飾や骨董品はないが、細かいところにお金をかけている。このソファも人生で座ったどんなものよりも柔らかいし、机も一般家庭で使うものではない。
掛け時計も単純な電波時計とは違う、アンティークな感じ。
応接室って、おそらくこんな感じなんだろう。そんな雰囲気がある。
恐る恐る、手を伸ばす。茶菓子としてまんじゅうが置いてあるのだ。食べたい。食べるしかない。
それでは一つ、
「失礼するわ」
「あ、はい」
手はすぐさま引っ込めた。
扉が開くと、黒髪の美少女が現れた。美人だけど、威圧感があって少し怖く感じる。鼻筋はスッとしてるし目はキリッとしてる。
簡単に言うと、めっちゃ美人。やばいくらい美人だった。
彼女は対面にあるソファに座る。そして、その威圧感のある目でこちらを見てきた。睨んできた。
「こんにちは、三鷹圭さん」
「あ、初めまして、はい」
縮こまるのは仕方ない。こんな眼力今世で感じたことがない。異世界ではあるが。
「単刀直入に聞くけど、あなた、魔術師よね?」
「いえ、違います!」
沈黙がしばらく続いた後、彼女はもう一度口を開いた。
「あなた、魔術師よね?」
「……はい、そうです」
ノーとは言わせてもらえなかった。
「私は琴桐楓、わたしもいちおう魔術師よ」
「は、はぁ。よく分からないですけど、すごいですね」
魔術師と言われてもなんと言えば分からないから適当な答えを返したところ、彼女は非常に不機嫌になってしまった。
「皮肉かしら、それ」
「いえ、えーっと、その、」
「まあいいわ。まずはお礼を」
「お礼?」
そういうと彼女、楓は手を前に揃え深くお辞儀をした。
「あの時はあなたに命を救われました、ありがとうございます」
あの時、とはどの時だろうか。魔術師と言われて思い浮かぶのは、あの日しか思い浮かばない。
「……あー、あの時の」
「思い出してくれたのね?」
「空からぶっ飛んできて川にドボンした人」
「……」
なぜだろう、お礼を言われたのに責められている気分だ。やっぱり言い方が悪かったのだろうか。いやでも他にどう言えばいいのかよく分からない。
「なぜかあなたと話すと不愉快になるのだけれど」
「なんかすいません」
「謝らなくてよろしい」
「あ、はい」
「別にあなたを取って食うわけではないわ。ただ、スカウトするために呼んだの」
「はぁ」
スカウトは、魔術の腕を買われてとのことだった。やはりこの世界には魔術はあるらしく、ほかにも能力者もいるらしい。瞬間移動できる人もいるかもしれない。
「スカウトっていっても、僕はなにをやればいいんですか?」
「やることは二つ。一つ目は私の護衛」
「あーなるほど、あんな目にあっちゃイヤですもんね」
「そう、そうやってオブラートに包んでちょうだい」
一つだけだった指は、二つに増える。
「二つ目、決闘代理。私の代わりに決闘に出てもらう」
「決闘?」
「そう、決闘。代理人の強さは雇い主の強さを意味するの。強さとは力じゃないわ。雇い主、所属企業の権力、資金力、コネ。あらゆるステータスを示す」
「つまり、決闘に勝ったらなんか得られるってことですか?」
「そうよ、賭けるものはさまざまだけど、だいたいは利権を奪い合うわ」
「利権……もしかして、楓様はどこかの令嬢……」
「初めに気づきなさいよ、琴桐グループはこれでもここらへんでは有名な企業よ」
「琴桐?すいません、こっち来て一ヶ月くらいしか経ってないんで」
「あなた、ほんっとめんどくさいわね」
琴桐グループは日本でも有名な楽器屋である。のだが、残念ながら圭は楽器とは無縁の生活を送ってきた。話が通じないのもしかたがないことかもしれない。
「とにかく、私はあなたを雇いたい。どうかしら」
「条件次第ですね」
圭は今年大学生になったばかりだ。授業もあるし多少は勉強する必要がある。そのために必要な時間が一つ。
話を聞くのとあの夜の騒動を見た限り、そうとう身体を張る必要があるのが一つ。
おまけに言えば、この仕事を受けて、まともな大学生活を送れるのかという疑問すらつく。
「月100万でどうかしら」
「やります」
金には勝てない。それだけは確かだった。
ある程度話し合った結果、条件は次のようになった。
琴桐楓が学園以外にいるときは基本護衛。
決闘代理は必ず受ける。
月給100万円。
「あれ?割安すぎないこれ?」
「そうかしら」
服は支給してくれるらしい。執事っぽい服だ。いや、そうじゃない。
「日中以外全部仕事じゃぁないですか!しかも決闘代理って、身体張るんですよ、死んじゃうんですよ!」
学園外全部だとしたらたぶん夜もじゃないだろうか。ざっと計算したら月500時間労働だ。国家公務員もびっくりの過労具合だ。時間外労働300時間くらいある、ブラック企業以上なのではないだろうか。というか、それ以前にだ。
「こんな条件、受けられないですよ!僕、死んじゃう!」
「心配しないで。寝食完全提供よ」
「違う、そこじゃない!」
「じゃあ月200万にするから」
「そこでもない!」
結果、折れた。
魔術で暴力でもしてこれば無理矢理脱走したのだが、圧力のかけ方が違う。
体がもたないと言えば完璧なヘルスサポートを提供すると言われ、そんな時間かけられないと言えばこの屋敷の一角を提供するから大丈夫と言われ。
最終的に親の許可が必要だと言ったら、その場で親に電話をかけさせられた。
母親は琴桐グループを知っていたらしく、月200万と聞いて速攻でOKした。半額実家に入れろと言われてしまった。
うまく逃げ切ろうと動いたが、親の話を出したのが裏目に出た。母親にまで言われれば、断ることは圭にはできなかった。
「くそぅ……労基に訴えてやる」
「決闘代理は労基とか関係ないから」
「くそぅ」
目の前の女が高校生だというのも驚きだし、毎回朝と夕方迎えに行かないといけないし、授業あるし。超ハードな大学生活を送ることは目に見えていた。
「いいじゃない。ほらこんな美少女のそばで働けるのよ?」
「こんな女イヤ」
「失礼ね」
サインを書かされ、この屋敷に引っ越すことも決定した。引越し業者がいますぐ下宿先にやってきてこちらに搬送してくるらしい。
神様、記憶の神様、どうすればいいですか?
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