【修正中】CHAPTER/5

スラムが寝静まる夜には、有志で集まった者によって運営されているテレビ局も番組の放送をやめる。

目新しく重要な内容を取り扱っている訳でも無く、そもそも局の都合で途切れることは多いが、夜の帳が下りてからの液晶画面は砂嵐だけが映し出されるのが仕様だ。

雨天の夜に無数の滴が地に落ちて行く音は、砂嵐を延々と放送するテレビの画面に似ていた。

全ての意識が眠りにつき誰にも観測されなくなった時間帯、きっと世界は有るべき一面をノイズに覆われて、夜が明けるまでの間は存在しなくなる。

そして目を覚ました者の視界から世界の構築が始まり、目覚めた意識の数が増えるにつれて、世界はその確実性を増していくのだろう。

俺が瞼を閉じて意識を手放せば、浪費されていく時間を刻む時計も、ひとつ下の階から響く足音も、もしかしたら俺の心音も消滅するのかもしれない。

今日の俺はここで死んで、今日の俺を完璧に模した全く別の俺が明日作られて、当たり前のように日々が繰り返されているだけかもしれない。

ベッドへ横たわるギガは、生の気配の失せたコンクリートの壁を眺めながら考えた。


無数の音が情報として耳から収集されてAIへと流れ、そのほとんどは不必要な情報として破棄される。

どれほど優れた人工知能でも、容量の関係で些細な情報は完全に消去せざるを得ない。

何気ない日常の出来事や景色、無作為に湧き起こる思考の数々などを、全て記憶しておくことは出来ない。

無慈悲なプログラムで無意味だと判別された音たちが、次々と頭から消えていく。

人工物と比較して、人間の脳は些末な事柄を忘れているようでいて、勘や既視感として遠い記憶の片鱗を引き出すことができる。

曖昧な感傷を蓄積できる人間の機能に対して、渇望や嫉妬といった激しい感情はない。

その代わりに、失われていく1秒が手元からすり抜けていく感覚だけが、常に彼のAIの薄暗い最深部を支配していた。

俺はきっと、少しだけ本物の人間を羨ましいと思っている。

彼は卵殻の中で眠る雛のように背を丸めた。

締め切ったカーテンの隙間から曇天を透けて届く薄明かりが、無機質な室内をぼんやりと浮かび上がらせている。

その僅かな光量ですら左目に沁みるようで、彼は眉間に皺を寄せて唸った。

具体的な原因はわからないが、雨の日はやけに左目が痛む。

淡い黄緑色に光るだけの機能を止めた球体の中に、鈍い痛みが閉じ込められている。

どうしてこんなところだけ人間に似ているのだろう。

いっそこの憐れみにも似た余計な苦痛など排除して、一塊の暴力になってみたい。

兵器の大多数と自身を確実に分離している一線を、厄介な「エニグラドールとしての存在意義」を奪ってしまいたい。

などと、つらつら考える。

この発想に着地するのも何度目になるだろうか。

いくら神経回路に微弱な電流を走らせようと、その行為に意味が無いことなど彼には百も承知だった。

彼はいつもと同じように、他愛も無い雑念を千億個は存在する記憶野の引き出しに詰め込んだ。


彼はふと、誰かに観測されたいと思った。

誰かに証明してもらわなければ、ノイズが視界を浸食した瞬間、本当に無に帰ってしまうような不安に襲われた。

灰がかった紫の短髪をぐしゃぐしゃと無造作に掻き、上体を重たげに起こす。

相変わらずぼやけて使い物にならない左目に顔をしかめながら立ち上がり、この鬱屈した閉鎖空間のドアを開けた。

配管が縦横無尽に走る天井からは、切れかけの白熱灯が吊るされている。

光がちらつくたびに揺れる影を追いながら廊下を進むと、突き当りに位置する階段からナナシが顔を出した。

「おう。フォックスが探してたぜ。お前に朗報があるって」

「朗報。お前から聞くと嫌な予感がする」

「人聞きが悪いぜ」

ナナシは両手を広げて大げさに反論し、すれ違いざまに彼の肩あたりを小突いた。

「わかった、わかった。行ってみる」

若いギャングが好みそうな彼の動作に、ギガは苦笑して答えた。

ナナシは牙を剥き出して威嚇とも笑顔とも取れない独特の表情を見せ、踵を返して自身の居室に入ろうとする。

彼の通った廊下を進もうとしたギガは、説明のつかない違和感に囚われて思わず彼を引き止めた。

「………あれ、お前さあ」

「あ?」

「何か……何でもない」

「あっそ」

振り返ったナナシはきょとんとしていたが、煮え切らない様子のギガに怪訝そうにしつつドアを閉めた。

咄嗟に違和感の正体を理解できず、引き止めたものの喉の奥で言葉がつかえてしまった。

階段を降りながら頭を整理すると、あれが酸化しかけた血液の臭いだったことに気付く。

微かな鉄臭さが、ナナシの身体に纏わりついていた。

任務帰りだったのだろうか、本人が気付いているかどうかギガには分からなかった。



談話室、キッチン、機具庫、フォックスの作業部屋。

ナナシからフォックスの居場所を聞き損ねたため、1階の各部屋をひとつずつ覗いて彼を探す。

残るは今まさにドアノブに彼の手がかかっている緊急治療室だが、戦闘で大破したメンバーを治療するような場所で朗報を聞けるとは考えづらい。

ギガはため息を吐いてドアノブを捻った。

滅多に立ち入らない緊急治療室の中へと、やや緊張気味に足を踏み入れる。

緻密な作業が求められるこの部屋だけは、LED照明でいやに白く照らされている。

部屋の中央には、ギガが潜って沈めるほどの巨大な水槽が設置されているが、今は何も満たされておらず空になっていた。

水槽の壁を透かして、部屋の奥に銀色に光る作業台と目当ての狐面が見えた。

「やあ。良い物が手に入ったんだ」

フォックスはギガの方を向きもせず、ただ手招きする。

ギガが言われるがまま歩み寄ると、彼は真っ赤な液体で満たされた10cm四方の密封パックを差し出した。

長身を屈めて覗き込むと、パックの中央に浮かんでいる球体と「目が合った」。

驚いて身を引いたギガにくすくすと笑い、フォックスは掌の上に密封パックを乗せる。

「行きつけの機材店で偶然、半生体ヒューマノイドに適合する眼球を見つけてね。ドナーは不明だが、調べてみたら君と拒絶反応も起こさない。その左目を直せる」

「……なるほど。確かに朗報だ」

「ん?」

「いや、こっちの話」

フォックスはさほど気にする様子もなく、密封パックを乗せた掌を揺らす。

透明のパックの中で眼球が弄ばれては、治療室のあちらこちらを見回している。

「治療直後は、戦闘時の運動機能に障害が出るだろうが、本来の65%まで削られた君の視野が万全な状態に戻る。少々リスクはあるが悪い話ではないだろう」

狐面は誘うようにギガの方を向いて首を傾げた。

要するにこの眼球を移植するかどうか、という話だ。

彼に限らずタタラの目やホノメの身体は、スラムの物資不足と資金難によって欠けた状態でやってきた。

ギガ自身も左目の障害をカバーする方法は身に着けてきたが、やはり片目のみの視野では限界がある。

ギガは二つ返事で承諾した。






治療台に横たわり、生体部分の再生を一時的に抑えるための全身麻酔を受けてから、一体どれほどの時間が経過したのだろう。

両目は包帯か何かできっちりと覆われ、周囲の様子を窺うことはおろか瞼を開くこともできない。

「……フォックス、居るか」

ギガは体に残った麻酔の効力を確かめるように指先を動かした。

ベッドのシーツと皮膚とが触れる繊細な感覚まではまだ感じ取れないが、全身の筋肉は支障なく動かせる。

こつこつという足音の直後、手のひらがギガの胸を軽く叩いた。

「君のことだからそれほど時間は必要ないが、視神経周辺の細胞が完全に適応するまではその包帯は取れない。右目に釣られて動かしてしまうといけないからね」

AIに繋がる視神経を支える細胞も、眼球を動かす筋肉も、麻酔が切れた瞬間から彼の再生能力によってごく短時間で治癒される。

彼の左目周辺は、すでにメスの痕ひとつ残っていないことだろう。

「もう痛みは無いだろうけれど、念のため数時間は大人しくしているんだ。目を触るんじゃないぞ」

フォックスが空中を泳いでいたギガの腕を押し下げる。

「大丈夫だ。子供扱いするな」

「そうか? そうだな。後で包帯を外しに来る」

フォックスは普段より半音高めで答え、来た時と同じ靴音を立てて歩いて行った。

完全に気配の消えた暗闇と、体から抜けきらない麻酔が酷く眠気を誘う。

覚醒していても目の前には暗闇、退屈を持て余す彼は意識を手放した。








―――――白。


視界の端から端まで、視野で捉えられるすべての風景が白で塗りつぶされている。

位置の知れぬ弱々しい光源が作る微かな陰影が無ければ、天地も分からないほど潔癖に眩く白い世界。

巨大なキューブを積み重ねたような、味気ない建築物が塔となり、ひな壇状にはるか遠くまで連なっている。

キューブはそれぞれが同じ面で光を反射し、淡く輝いている。

幻想世界のように非現実的な真白い斜面の頂上には、斜面同様に白い無数の長方形を固めた塔がそびえているのがなんとか確認できた。

さっきから目の焦点が定まらない。

白いキューブと直方体の辺が二重にぶれたり重なったりを繰り返し、どう努力しもピントを合わせられない。

あの塔をはっきりと見たいのに。

視力の落ちた人間さながらに目を細めようとして、はっと気づいた。

瞼が動かない。

体の自由が利かない。

首も、肩も、胴からつま先、手指に至るまで、体の全てが自分の意思の監視下から外れていた。

筋肉の全てを持たず真綿が詰められただけの人形に、意識が紛れ込んでしまったかのようだ。

見覚えのない真白い世界、ここはどこだ。

否、それ以前に自分は一体誰だ。

名前は。

男か、女か、どちらでもないのか。

ひどく焦りを覚え、助けを呼ぶため叫ぼうにも声が出せない。

その焦燥は、突然白い景色を遮った影によって掻き消された。

申し訳程度に人間の要素が含まれたその影は、寸胴に曲線のない手足と頭部らしき球体を持ち、まるで幼児が描いた棒人間に近いフォルムだった。

蒼白く発光する大きな目が、冷たい視線を自分に向けて認識している。

それは味気ない腕を味気ない動きで自分の首に添えた。

顎のすぐ下あたりに親指を押し付け、項辺りを残りの指で支えて絞める。

酸素を吸い込もうとするが、押しつぶされて変形した気道からは、隙間風のような頼り無い声が吹き抜ける。

頭部を巡回して心臓へ戻るはずの血液が停滞し、眼球が押し出され頭蓋骨が破裂しそうな感覚。

このまま抵抗しなければ死ぬ、殺されてしまう。

完全に神経が消えた自分の腕に苛立つ。

首だ、首を絞め返してやらねば、絞殺には絞殺を。

その衝動は血液の代わりに血管を迸り、存在自体が不確かだった両腕に力を与えた。

目の前で自分に覆いかぶさる塊の、プラスチックのように固くつるりとした首を掴み、渾身の力を込めて握り潰す。

「……………離し…かはッ、ぐ、ァ……あ…」

自分の首から手を放した人影は、へし折らんばかりに首を絞める手を引き剥がそうと暴れ出した。

逃がすものか、一度は自分を殺そうとした奴を逃がしてなるものか――――――


無機物の首を絞めていたはずの自分の手に、柔らかい触覚が電流のように流れ込んできた。

頼り無く女性的だった腕は、紫の帯が入った見覚えのあるものに変わっていた。

真白い世界は突如として暗闇に沈み、全身を制御する神経が働き始める。

骨格や皮膚に口から耳から、全ての自分が自分に収束した瞬間。


「……がッ、げほっ! ……は、離…せ……ギガ!!!」

「―――っ!?」

自分の手の中で喘ぎながら暴れている存在に、自分が何者か、何をしでかしたのかを理解した。

ギガは「影」の首を絞めていたはずの手から力を抜いて開いた。

どさりと何かが落ちる音が聞こえる。

目を覆う包帯に手を掛けると、フォックスの言いつけが脳裏を過った。

今は何時間経過したのかなど気にしている場合ではない、彼は包帯を剥ぎ取った。

LED灯の純度の高い光が目に突き刺さるが、何度も瞬きを繰り返して半ば手さぐりで治療台を降りた。

軽い眩暈で揺れる景色にふらつきながら、壁にもたれかかってうずくまる塊―――ナナシに駆け寄ろうとする。

だが。

「や、やめろ!! 近寄んな!!!」

ギガがあと数歩という所まで近づくと、ナナシは片手で首を押さえながら怒鳴った。

もう片手は翼の形に変形し、すでに臨戦態勢を取っている。

「何の騒ぎだ」

怒鳴り声を聞き付けたフォックスが、治療室の扉から現れた。

ナナシは鋭利に伸びた人差し指でフォックスを制する。

「来るな! お前のAIがバグってねえなら黙って下がれ。それ以上近づいたら容赦しねえ」

部屋の明るさに慣れてきたギガの両目は、ナナシの真っ赤な瞳が怒りや困惑、果ては恐怖まで抱いていることに気づいた。

ギガはナナシから目を離さずに、両手を上げて敵意が無いことを示した。

疑わしげに赤く燃える瞳で睨むナナシは、首にある声帯移植の痕から細く血が流れ出している。

ギガがはっとして自身の手を見据えると、そこにはべったりと血が付いていた。

「……俺が、やったのか」

あの非現実的な白い世界は確かに夢だったはずだ。

「2人とも冷静になれ。状況を説明しなさい」

フォックスは用心深く両者を観察しつつ、2人の間に割って入る。

「あんたに言われた通りギガの処置をしようとしたら、あいつが突然起き上がって俺様の首を絞めてきたんだよ。それから、俺様の首の傷を掻っ裂いて」

ナナシの首に残る声帯移植の痕は、無残に開きかけている。

「………夢を見てた、嫌な夢だ。俺は何かに首を絞められていて、その何かに殺されると思って……」

嫌な汗が湧き上がるような感覚に、ギガは口元を掌で覆い数歩後ずさりする。

「お、俺には、お前を襲う理由なんてない」

「そりゃ、そうだけど……」

腑に落ちない顔で睨むナナシの翼と化した腕を、フォックスがゆっくりと押し下げた。

「まずは傷の手当てをしよう、ナナシはそこに座って」

フォックスはギガに歩み寄り、手早く左目をペンライトで照らした。

「異常なし。神経も上手く結合しているようだ、良かった」

彼はてきぱきとナナシの治療に取り掛かりながら、俯いて押し黙るギガに尋ねた。

「ギガ、夢の内容を知りたい。教えてはくれないか」

ギガは少しだけためらう様子を見せたが、やがてとつとつと一部始終を語った。




「……まだ、あの景色が焼き付いてる。見たこともない景色だった」

「白いキューブ状の建物。ふむ」

「なあ、なあ。心当たりでもあんのか」

開いた首の傷を縫われながら、ギガの話にいつのまにか興味津々のナナシが口を突っ込んだ。

彼に敵意が無いと分かり、怯えていたことなどすっかり忘れてしまったようだ。

「ほら、動くな」

ナナシの額をフォックスが軽く叩く。

「確かに心当たりはある。それが同じ場所かどうかは君が行って確認しなければ分からないが、おそらくその場所は」

フォックスは縫合用の糸を最後の結び目でぱちりと切った。

「オリンポスの内部」









左目を移植してから数週間後のこと。

ゼウスから入った緊急出動要請に従い、エニグラドールは本部から数km離れたストリートの廃墟の物陰に身を隠していた。

雨が降り注ぐストリートの上空には、異様なシルエットが浮いている。

身近な例で表すのなら、昆虫か悪魔か、はたまた天使か。

4本の腕を胸の前で組んだそれは、残像が残るほど早く羽ばたき続ける透明の羽によって空中でホバリングしている。

それは音楽でも聴いているかのように、リズミカルに頭をゆらゆらと揺らしていた。

ストリートはオリンポスを真正面に構えており、それは城壁を舐める様に褪せた黄色の視線を這わせた。

土埃で汚れた最下層、乱雑に散りばめられたグラフィティアート、大理石のような白、そして霧に飲み込まれた薄灰の最上層。

それは全く感情が籠っていないにもかかわらず、低く響く男の声色で呟いた。

「せっかくオレが出て来たってのにさ、ゼウスは出迎えもなしか。冷たいよねえ、昔から」

それは身体を打つ雨を気に留めることも無く、エニグラドールがスーツの下に着る物にも似たラバースーツと野戦服から雨水を滴らせている。

「ゼウスが来ないなら、今夜会えるのは、そう」

それは重力を感じさせない動作で、踊っているかのごとくゆるやかに振り返った。

「エニグラドール、だよね」

それが空中で見据えたストリートには誰の姿もなく、ただ風に煽られた廃墟のトタン屋根がはためいているだけだ。

「出て来なよ。ずっと会いたいと思ってた」

それは四本の腕を大げさな身振りで広げ、無人のストリートに妙に艶っぽい声を響かせる。

「今日はただの様子見、散歩さ。『今回は』オリンポスを襲う気も無いんだよ。お話しようよ」

シルエットの動きを把握できる距離まで近づいたギガは、廃墟の陰で居場所を悟られまいと息を潜めていた。

無意識のうちにナナシを襲ってしまった恐怖から、かなり長期間の間眠れない日が続いていた彼は、敵を睨みつつこめかみに疼く鈍痛に顔をしかめた。

恐ろしい睡魔に襲われた最初の数日、その期間を通り越してからはランナーズハイに近い状態が続き、やけに眼が冴えては奇妙な不安に憑りつかれる周期を繰り返している。

実際の所、判断力は格段に落ち、精神力で機能していると言っても過言ではない状況だった。


他のメンバーはオリンポス南西に集中していた複数の熱源、つまりインフレイムを追って四方に散っている。

現在、得体の知れない相手と対峙しているのはギガだけだ。

彼は雨音に掻き消されるか否かに小さく絞った声で無線へ問う。

「場所までは分からないはずだが、俺の気配は感づいてる。人……一応、人型だ。余計なパーツが多いが。あれはインフレイムか?」

『人型か。前例がないが……奴の技術力なら可能だろう』

奴、つまりラクーンドッグを指し、フォックスは唸った。

オリンポスにおいて、高等な技術者は金銭面でも地位面でもゼウスから特待される。

フォックスと並ぶ、もしくは彼を超える技術力を持つエンジニアが存在するとしたら、とうにゼウスと手を組みエニグラドールと共闘していることだろう。

となると、この人型を造ったのはラクーンドッグでほぼ間違いないということになる。

ギガとフォックスの会話がぼそぼそと流れる中、同時に探索へ出ているシアンと双子は敵を発見してその姿にそろって首を傾げていた。

『こっちは……なんだあれ』

『虫カ?』

『とりあえず、棘と足が多い』

情報らしい情報を伝えない3人の代わりに、タタラがオリンポスの壁やストリートを這い回る妙な形状のインフレイムを解説する。

『えっと……あれはマーレラ。カンブリア紀の節足動物、かな』

マーレラなる奇妙な怪物は、無数の脚が芋虫のような節のある胴体から生え、それを守るかのごとく2対の角が後方へ向かって伸びている。

生物的に原始の形状を持ったインフレイムたちは、何をするでもなく地や壁を這っているだけだ。

『目的は……一応警戒していてくれ』

フォックスの指示に口々に返事が飛び交う中、ギガ大鋸を廃墟の角から覗かせ、金属面に映り込む相手の様子を窺った。

「それと、奴は言葉を話せる。『今回は』敵意は無いと言ってるけどな」

宙に浮いたままのインフレイムは、先程からぶれない一定のトーンで、身を潜めているギガを煽る。

「おっと、まずはオレの方から名乗らなくちゃだよね。オレはインフレイム軍特殊強化型兵士、カスケード。以後お見知り置きを」

カスケードと名乗ったインフレイムは、まるで舞台の幕が下りるときの役者のように仰々しく礼をした。

「聞いたか。あの野郎、随分余裕じゃねえか」

ギガの位置を探っているのか、カスケードは無防備にも彼に背を向けて辺りを見回している。

この豪雨の雑音の中では、奇襲も難しい事ではなさそうだ。

『カスケード……待て、相手がどう出るか待とう』

フォックスが無線へ投げかけたその一瞬、1秒にも満たないほんの刹那。

ギガが瞬きのために大鋸から目を離した程度の、ごく僅かな隙のことだった。

ストリートの上空には、すでにカスケードの姿は無くなっている。

まずい。

ギガは彼の機動力の限界スピードで振り返り、右ストレートを繰り出した。

反射的に緊迫する全身の筋肉に、治癒した左目はしっかり着いてくる。

しかし、背後に忍び寄るカスケードの顔面をとらえた拳は、昆虫さながらに関節がむき出しの掌でがっしりと止められた。

衝撃波で周囲の雨が弾け、敵の脚を支える地面が大きくひび割れてコンクリートが浮き上がる。

地上に降りるとギガよりかなり小柄なカスケードは、両の頬骨から飛び出た顎の外骨格をガチガチと鳴らし不気味なほどにっこり笑い、ギガを上目づかいに見上げた。

ギガは言葉を失った。

彼の物理攻撃をもろに喰らって吹き飛ばない事例など、例えそれが何トンもある大型インフレイムが相手でも存在しなかったからだ。

「惜しい、惜しいねえ! 良いストレートだ。ああ、左目直ったんだっけ、なかなか綺麗だよ」

貼り付けたような笑顔のまま、カスケードは恐ろしい握力でギガの拳を握り潰そうとする。

「でもオレは、戦いに来たんじゃないって言ってるだろ」

「『お話』するときは人の顔を見ろと教わらなかったのか。ちゃんと正面から来な」

「生憎ね、ラクーンドッグの教育は過激で姑息なんだ。『悪役』だからさ」

万力のごとく恐ろしい圧力が加わっている拳には、ミシミシという悲鳴と共に激痛が走る。

豪雨のおかげで表情が見づらいことに感謝しつつ、ギガは口角を吊り上げた。

そして敵の野戦服のベルトを掴み、開けたストリート側へ一気に背負い投げた。

空中で姿勢を立て直すカスケードに、大鋸を振りかざしたギガが飛び掛かる。

カスケードは斬撃を腕の外骨格で受けたが、地に墜ちた所を大鋸の連撃で畳み掛ける。

地面の方向へ大鋸を突き刺そうと試みるが、カスケードは大鋸の側面を拳で殴り付けて軌道を逸らす。

体の強度、運動能力、知能、おそらくどの点を取っても普段現れるインフレイムとは比べ物にならないほどのスペックを誇るだろう。

カスケードは硬い外骨格に守られた2本の手で鋸を掴み、残りの腕でそれを横殴りに弾いた。

金属の塊は回転して吹っ飛び、廃墟のコンクリート壁の角に突き刺さる。

失った武器の代わりに殴りかかろうとしたが、カスケードはギガの倍の数がある腕で難なく阻止し、マウントポジションのギガの首を掴んで背後に放った。

空中を舞ったギガは廃墟に爪を立て、壁を削ってどうにか着地する。

カスケードはやはり上機嫌で首を揺らし、ギガに余裕を見せつけた。

――――強い。

ギガは大鋸と自身と敵の位置関係を測り、援護要請のチャンスを狙う。

「まあ、そっちがその気なら、今ここで喧嘩になっても良いんだけどね………オレの最終的な目的は、君を痛め付けることでも達成されるのだし」

カスケードはくつくつと笑った。




ギガとは別の位置でマーレラ型インフレイムを監視していた一行は、敵の挙行が僅かに変化したことに気付いた。

『皆、敵の様子見える? 動きが変なんだ』

数匹のインフレイムが群れるストリートを廃墟の上から見ていたタタラは、メンバーへ声をかけた。

インフレイムはどこにあるとも知れない口で、餌を齧るかのように地面の土を削り始めている。

豪雨で一面が水たまりに覆われ海と化した土の大地が、耕された畑の如く掘り返され、新しい土が露わになっているのだ。

「これは……アカンやつやな」

報告を聞いたシアンはオリンポスの城壁に目を凝らし、インフレイムが白い壁をごりごりと削っているのを発見した。

「その辺の道削ってる奴はまだ放っとけ! 壁食ってる奴が優先!」

屋上から降りてオリンポスへ接近したシアンは、瞬時に廃墟と廃墟の間にカーボン繊維でネットを張る。

トランポリンの要領でネットに飛び降りると、カーボン繊維を引き戻す威力を使ってインフレイムめがけて飛んだ。

カーボンファイバーを応用した微細な鉤爪で壁の表面を捕え、蜘蛛のように壁に着地する。

3mほどの小型のインフレイムはやすりに似た口で壁を削っていたが、敵の存在を認知し臨戦態勢に入ったようだ。

インフレイムは壁の上でも自在に動き回れるらしく、シアンに向かい合ってはガサガサと左右に移動し、金属装甲で覆われた頭で体当たりを仕掛けてきた。

しかしシアンは壁に張り付いたまま、一瞬逆立ちになって容易く避け、長くしなやかな脚で強烈な蹴りを一撃お見舞いする。

インフレイムは金属を擦り合わせる様な奇声を上げ、壁から離れて落下し、地上に叩き付けられた。

「あら、弱い」

確かに1匹の能力は高くないが、気付くと壁を覆い尽くすほどのマーレラ型インフレイムが白い素材をがりがりと削っている。

「地味というか……あんまおもろない……?」

シアンは壁を伝いながらインフレイムを蹴散らしつつ、普段の勢いのない敵に違和感を覚えていた。

確かにこの数のインフレイムに壁を削らせ続ければ脅威にもなり得るが、この耐久力の無さでは簡単に破壊できる。

これではいくら数が居ても意味を為さないだろう。

別の場所で戦っていたメンバーもその違和感に気付いていたらしく、口々に疑問を述べ始めた。

『へんだな……』 『弱スギル』

シアンははっと気づき、不可解な相手と接近しているはずのギガを呼んだ。

「――――――ギガ!! ギガ!!!」

この小型インフレイムは時間稼ぎ、敵の狙いはメンバーをばらばらに引き離し、1人ずつ相手をすることだった。

シアンがギガを必死に呼ぶが、彼からの応答は全く無い。

敵の目論見を察知したメンバーはマーレラ型インフレイムを一旦放置し、ギガの向かった方角へ駆け出した。




AIがけたたましく警鐘を鳴らしている。

「増援はしばらく来ないよ。やっとオレの危険性に気づいたくらいじゃない?」

作戦会議で立てた計画では、双子はここから最も遠い地点に配置されているはず。

最も速い彼らでさえ応援要請を受けてからここに辿り着くまでは5分はかかるというのに、他のメンバーの機動力ではもってのほか。

カスケードの狙いは確実にギガひとりを仲間から引き離すことだった。

『ギガ!! 無事か!!』

『応答して!!』

無線には異変に気付いた仲間たちの声が届いているが、ギガは口を開くその刹那ですら相手に隙を与えることを直感していた。

「5分も必要ないかな、っと」

カスケードは恐ろしい速さでギガに詰め寄り、彼の片腕を掴んで飛んだ。

必死で敵の腕を引きはがそうとするが、カスケードはギガを引きずって廃墟の壁へと叩き付ける。

「ぐッ――――――!!!」

肺が圧迫されて息が詰まり、眼下では廃墟が崩れ去る。

敵はギガを引きずってストリートを飛び、そしてオリンポスの壁に彼を押し付けた。

背中の下で強固な城壁が凹むのを感じる。

カスケードは鋭い爪でギガの腕を掴み、地面に対して逆立ちの状態で壁に降りた。

「これで大人しく……おっと、そうだそうだ」

敵は磔にされて暴れるギガの顔を、逆様の状態で覗き込む。

ギガの両腕を拘束している敵の腕がカメラのシャッターのように光ったかと思うと、その両腕を電極にして強力な電流がギガの体を襲った。

「ッがああああああ!!!!!!」

「便利だろ、オレの発電機構。無線だって簡単にマナーモードにできる」

頑丈なギガにとって打撃は慣れたものだが、物質の強度に関わらない電流は彼の全身を突き刺すように襲う。

「2人で話している所、盗み聞きされるのは嫌いなんだよね。それに、邪魔者が来るまでの時間も稼げた」

感情らしい感情が表に出ない割に、カスケードの瞳孔はやけにぎらぎらと光っている。

「そういえば、ひとつ質問があるんだよね」

「答える義理は無え」

全身から怒りを滲ませるギガに、カスケードは肩を竦めた。

「連れないな………オレはさ、エニグラドールが必死でオリンポスを守ってる理由を知りたいだけなの。君は一体誰のために戦ってるの。もしかして、そっちのボスとか、オーウェンの言う通りに動いているだけ? 人形みたいに」

「……オリンポスの中で生きてる人間がいる限り、貴様らを前にして退くわけには行かないんだよ」

カスケードが発した最後の一言に、ギガがやや剥きになって噛み付いた。

釣れた、と言わんばかりにカスケードが不気味に笑う。

「嘘はいけないよ。本当は君、戦うことでしか――――」

「黙れ。言った通りだ。俺は人間を護るために生まれた。それだけだ」

ギガはカスケードの言葉を食い気味に遮った。

彼の全身にできた裂傷がたちまち回復を始め、蒸気が立ち上る。

「………そんなに俺と話したけりゃ教えろよ。ラクーンドッグの目的は。オリンポスに何の恨みがある」

カスケードは尖った指先でギガの装甲をコツコツと叩きながら、とぼけるようにそっぽを向いて答えた。

「ごめんね。それはまだ言えないんだよね。今教えた所で、そっちのボスは聞いちゃくれないよ」

カスケードはひどく血色の悪い鼻先が触れそうなほどギガに顔を近づけ、昆虫を模した顎を噛み鳴らした。

外骨格が開く度に、内部の黒い筋肉が露出する。

「それに、女性は秘密があった方が魅力的だよ」

ギガは項垂れて黄緑色の血反吐を吐き棄てた。

「その意見……は、同意しかねる。俺は正直な方が良い」

彼が拘束されている腕を押し返そうと力を込めた瞬間、カスケードは笑顔の仮面を剥いだ。

「まったく残念だなあ。君とは良い友達になれるかと思ったんだけど」

途端に、カスケードの声色が捕食者の虚無と冷酷さを湛える。

彼は残りの腕を持ち上げると、ギガの首筋に指先を伸ばした。

「ねえ、ギガ。信念の実行には、時に暴力も必要だと思わない?」

関節の浮いた硬い掌が、ギガの首を絞める。

電流で大きくダメージが蓄積され、筋繊維の再生が追いつかずろくな反撃もできない。

体液が十分に循環せず朦朧とする頭で、オリンポスの遠く高い白を仰ぐ。


――――――――――――ああ。


あの風景だ、景色は全てが白く、どこまでも白く。

自身の腕は弱く、まるで無力な子供か女のよう。

このままでは殺されてしまう。

夢がフラッシュバックする。


そのとき、体液が沸き煮え滾る感覚に襲われた。

全身の血管を融けた鉄が走り、筋肉がのたうつかのような感覚だ。

心臓が、脳が、肺が、細胞のひとつひとつが、本来持っているエネルギーを最大限に解放している。

高温の分子が互いに振動し暴れ狂う。

衝動が実体を持って暴走する。

箍を外し、鎖を引き千切り、身体があるべき姿に帰る。


意識が飛びかけていたギガの眼の焦点が合い、黄緑とペイルブルーの眼光をぎらつかせ、彼は獣のような重い響きを孕んだ声で唸った。

そして首を絞められたまま、両腕を拘束するカスケードの腕をじりじりと押し返し始めた。

カスケードは目を丸くしたが、すぐに元の無表情へ戻って呟いた。

「……そう。そう来てくれなくちゃ」

急に腕力が増したギガの顔を見上げ、彼の顔の骨格が少しずつだが変わり始めていることを確認する。

額は頭部に沿って平たく、鼻筋が長く、食い縛る歯はナイフのように尖り―――その姿は正に、狼。

骨格の変化と共に増す腕力でカスケードが少しずつ押され、ギガが拘束から抜け出すか否か、その時。


電源を抜き取られた機械が動きをぱたりと止めるかのごとく、ギガの腕から力が抜けた。

「…………はぁ?」

彼はまるで眠ってしまったように、カスケードの手に自身の全質量を預けている。

カスケードは滑り落ちそうになった彼を咄嗟に抱え直し、オリンポスの壁から地上に飛び降りた。

雨で水浸しのストリートに乱雑にギガを放ると、カスケードは足元に倒れた彼の顔を怪訝そうに覗き込む。

頭部の骨格の変形は、目の錯覚かと勘違いするほどすっかり元に戻っている。

カスケードは鋭利な足先の爪でギガを蹴ってみたが、一向に反応はない。

「ちぇ……エニグラドールは電池式か、って」

雷撃でできた全身の傷も直りかけているというのに、雨に頬を叩かれながら仰向けに倒れているギガは無言のままだ。


「……………不完全だね。まるで、人間みたいだよ」


カスケードは誰に向けるでもなく囁いてから、自軍の無線へと呼び掛けた。

「……眠ってる。ああ、そう……………了解。帰投する」

カスケードは僅かに息を吐き、倒れたギガの腕を掴み自身の肩に回して飛び立とうとした。

が、すぐにギガを手放して自分だけ宙に舞った。


ストリートに立ち並ぶ廃墟から、迷彩塗装で覆われたVSSの銃身が覗いていることに気付いたからだ。

城壁を食うインフレイムを後回しに、ギガを探しに来たメンバーが駆けつけたのだ。

「捕捉!」

片目を閉じて狙いを定めたタタラが、飛び去ろうとする敵の羽を立て続けに2か所撃ち抜き風穴を開ける。

弾丸を追って現れたロックが跳び、シアンが張ったネットを蹴って宙に躍り出る。

空中で隣に並んだロックに回し蹴りを喰らったカスケードは、オリンポスの外壁へ叩き付けられた。

だが彼は淀みない動作で首を起こし、体の前へと強い閃光を放つ掌を突き出す。

重力に引かれ落下しかけるロックを、瓦礫と埃をつんざく雷撃が直撃した。

意識が飛んだのか声も上げず頭から落下するロックを一瞥し、カスケードはわざとらしく野戦服の埃を払う仕草をする。

「あーあ。随分と手荒い歓迎だよ」

そして額を狙って放たれたVSSの弾丸を片手で止め、背後に投げ捨てた。

「ロック!!」

地上では一度着地したジャックが城壁に爪を立てて登り、壁を蹴って跳び出すと、落下する兄の体を空中で抱きかかえた。

タタラは廃墟の影からストリートに転がり出てカスケードを狙ったが、恐ろしい速さで射程距離を外れた敵に、唇を噛んで悔し紛れに地面を殴った。






結局、カスケードが姿を消すと共に囮用のマーレラ型インフレイムも撤退し、城壁の損害レベルはことなきを得た。


またもエニグラドール本部の治療室に戻されたギガは、ベッドの上で身じろぎひとつせずに眠っている。

「突然。本当に、突然気を失って倒れたんだ」

無線が途絶え異変に気付いたメンバーが、カスケードに拘束されているギガを助けるべく廃墟に身を潜めていた時の状況を、タタラは首を傾げながら話す。

「……耐久力は遥かに高いが、君たちのAIも構造は人間と同じだ。どうしても眠らなければならない」

フォックスの話によると、エニグラドールのAIは彼らが五感から入手する膨大な情報を、一時的に小容量メモリに待機させてあるという。

情報を得る時点であまりに不要なものは省かれるが、それ以外にも厳選しなければならない記憶がメモリに蓄積していく。

その間隔は人間よりある程度長いものの、適時にスリープモードへ移行し一時待機させてある記憶を主記憶野に格納しなければならない。

「長期間眠らずにいると、過剰に蓄積したデータがAIに悪影響を与えるのを防ぐために、強制的に脳がスリープモードへ移行してしまう」

フォックスは細い目をさらに細めた。

雷撃の火傷に包帯を巻かれてから、大人しく話を聞いていたロックが呟いた。

「隠スンダヨナ。コイツ強イカラ、ソノ責任感ガ」

「…………駄目だ。それでは駄目なんだよ。君はただの兵器じゃないのだから」

フォックスは険しい表情でギガの額を撫で、徐に立ち上がった。

「君はここに残ってくれ。彼の脳波が安定しないうちは、良くない夢を見ているだろうから。しばらく頼むよ」

タタラにそう言い残して、彼は治療室を後にした。


「あのさ、2人とも」

「「何?」」

タタラが治療室から立ち去ろうとする双子を呼び止めると、双子は同時に振り返った。

「ギガが気を失う前、少し様子がおかしかったんだ。何て言うか、顔が人じゃなくて、犬みたいな形に変わって。2人は見た?」

彼は両手を鼻の横に立てて、前にスライドして頭の形を表した。

「ううん。おまえは」

「見テナイ」

双子は首を傾げて顔を見合わせ、考え込み始めたタタラの様子を伺って治療室の扉から出て行った。

「そっか………僕の見間違い………」


―――――――嫌な予感がした。

この感覚を例えるならば、豪雨の前の積乱雲、地震に伴う地鳴り、もしくは開戦を告げるサイレン。


タタラは脳波と共にギガの心電図を映し出すモニターを眺めていた。

一定の周期で波打つグリーンのラインが自身の心臓にまで干渉し、パルスを強制的に同調させようとしている気がする。

彼は気付かぬうちにモニターに釘付けになっていた視線を、どうにか引き剥がすように逸らした。




CHAPTER/5 THE PALE BLUE IMPULSE INSIDE HIS PUPIL

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