第2話 異民族の侵入

 私達兄弟は人混みを抜けて大広間の向こうのウヌリスの館まで走った。

 

 館といっても、一人が住む為の場所のみではなく裁判所や議会室などとしての役割を兼ねている為、平面にして、馬を十分に往復して走らせられるだろうと思われる程の大きさである。


 大通りをまっすぐ走っていくと、固めて赤くなった木の皮で葺かれた、高い切妻屋根が見えてきた。

 

 館の門に着くと門番に挨拶をして、用件を話し、中に通してもらった。

そのまま、館の客間に通され、我々を案内した従者はウヌリスを呼びにいった。


 客間は非常に落ち着いた様子で、長椅子と長机程度しかないが、全て色合いが統一されており過度な装飾がなく、心地よい空間であった。


 長椅子に座り、従者が来るのを待つ。

 

 「確認が取れました、どうぞ、こちらへ」

 

 従者の声に呼ばれて戸を開けて廊下に出て、案内してもらい広間に通される。そこには、赤い上衣を羽織った背の高い男がいた。

 

 それこそ、ウヌリスであった。

 

 ウヌリスはこちらに近づき、兄に、久しぶりに会ったので、礼儀正しい挨拶をすると、私の方に向き直り質問してきた。

 

「どうした?唐突に私に会いに来るなんて…兄殿まで一緒に」


「いや実は、ここの市に姉の嫁ぎ先に送る布を探してたんだが…少し、気になる事があって」


そこまで言って、私がどう続きを言うか、少し迷うと隣の兄が口を開いた。


「市に面した大通りで馬賊らしき者が連れていかれるのを聞きまして、もし、ここら辺の馬賊が新しい行動を起こすとなると我々の村も、近くて、危ういので何か具体的な情報を持っているのではないかと」


 そう兄が言うと、ウヌリスは少し首を傾げ、知らぬ存ぜぬという顔をした。


「馬賊?馬賊なら確かに最近頻繁に侵入しようとしてきて手を焼いているが、その馬賊の者がこの町に堂々と入っているのか?」


 兄は答えた。


「だから、捕まっているのでは?」


「ふむ、まぁ捕まっているのなら、安心か…馬賊の者が裁きを求められているのならここに運ばれてくるはずだ、私刑は禁止だからな」


そこまで、言い終えるや否や、衛兵が入ってきて、少々、と言った。ウヌリスは手でこちらに来る様に促すと耳打ちした。


衛兵が言い終え、広間から退出するとウヌリスは


「話をすれば、なんとやら…早速、運ばれてきた様だ」

と言った。


その後、

「聞きださないといけない事が山ほどあるので、失礼するぞ、もし、待てるならここで待っててくれて構わない」

と言い、私と兄を残し広間を後にした。


私と兄は広間の椅子に座り待った。椅子は木の骨組みに皮をかけられたものであって座りごごちはよかったが、時間の長さを忘れさせるほどのものでは無かった。


やがて、日も暮れ、兄と話す話題も尽きた頃にウヌリスは疲れた様な顔で広間に戻ってきた。そのまま、私たちの前の椅子にどっしりと座ると事情を手早く説明した。


「やってきた馬賊の男は本当かどうか知らんが、使者と言っていた、散々侵入を試みておいて今更、使者を送りつけて何をする気かと思ったらば、なんと、同盟を結べと、そうおっしゃった」


そこまで言うと、少し間をおきこちらを見て、いたずらっぽい表情をして聞いてきた


「目的はなんだと思う?」


「さぁ?」


「そう、思いつかない、普通なら一方的に敵対していたが攻めきれず更にはもっと大規模な戦争を予定している相手に同盟を願うなどとは、それは和睦であって同盟とは言えないからな」


すると、隣の兄は


「それを知った上で、同盟を申し込んできた、つまり、それ程、緊急的に命を脅かされていると?」


「そう、そうだ、どうやら新しい勢力に追いやられているらしい、それでこちらに来たのもそれだと、しかしこの町を迂回すれば南はどこまでも続く、不吉な森、単独で入るのは問題ないが大勢で入れば森にいる古い者達との、それこそ森を丸ごと燃やす様な争いは避けられない、もしくは北に向かえば、この町よりも更に大きく狂王が収めると言われる巨大な国がある、無論そこにはいけない、皆殺しか良くて奴隷だ、更に北は不毛の地とても人が生きていける環境ではない、だからここを攻めてたと、だが、思った以上に堅く全く落とせないと」


「それで、共闘しろと?」


「そうだ、南に行ってなんとか全滅しない様に森を抜けるよりも、共闘の方が確実だと思ったのだろう、それに森では馬を生かせないからな」


ウヌリスはそこまで言い終えると、疲れたのか大きく息を吸い、吐いた。


「どうすべきだと思ってるんだ?」


「私が今ここで、決定を下すことはできないけど、個人的には、共闘なんてないと思っている」


続ける


「この町に防壁がない頃から侵入できない武力を仲間にしても、たかが知れているし、まぁ信用してないからな、この同盟自体嘘で、油断したところを後ろから刺されでもしたらたまったもんじゃない、そして、まず何よりも先に町民は納得しない」


「そっか、じゃあうちの村は大丈夫そうだな、ありがとう」


「今日も良くここの町に来てくれた、今後もご贔屓を」


私と兄は、ウヌリスが暗くなって危ないからとよこしてくれた兵士の乗る荷馬車に乗って村まで帰った。


そして、今に至った。外からは逃げ惑う声と、定期的に聞こえてくる炸裂音。一体何があったのか。家族は無事なのか。襲撃とは一体。






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