第二神聖ローマ帝国

蛇いちご

第1章 ナザリエのダッカ編

第1話 第二神聖ローマ政策

 「Bereit Waffe!!」

草の生い茂る草原に一つの声が響く。

「Feuer!」

合図とともに猛烈な火薬の破裂する音が響きわたった。


「突撃っ!突撃っ!進み続けろ!前進し続けろ!あんな鉄の棒きれに負けるな!怯むな!進め進め!」

 

 鎖帷子を身にまとった男達が馬を駆り目の前の軍勢に向かっていく。同胞の死体を飛び越え徐々に徐々に距離を縮めていく。


「行け!!あと少しだ!我らの未来の為に!我らの運命の為に!!」

兜に羽飾りを付けた男を先頭に騎馬軍団は進む。大地を揺るがす大いなる蹄の音を響かせつつ背丈の2倍はありそうな槍を敵に向け、前方を睨みつける。


「あと少しだ、あと少しで奴らに武器が届く。」

「諦めるな、進め進み続けろ。」 


「Bereit Waffe!」


「行けええええーーーっ!!」


あと少し!ほんの少し腕さえ伸ばせば首を…


「Feuer!!!」


草原には再び火薬の破裂音が響いた。








馬の蹄が響く。


遥か遠くから、一定間隔で鳴り響いている。だんだんと近づいてくる。その音で、眠り始めた脳が起きてきた。つい目が開く。自室の木製の天井が目に付く。馬の蹄の音がすぐそこまで来る。


「おいっ起きろ、皆起きろ」


男が大きな声で叫んでいる。


「来たっ!来たぞっ!襲撃だ!!」


その声がすると同時に何かが爆裂するような音が遠くで響いた。

少し前の出来事が想起される。


1週間前のことだった。兄と布を求めて隣町の市に向かっていた。その日は、雲ひとつなく、恐ろしい程に青い空が広がっていた。町の警護兵に挨拶をし、木で組まれた砦をくぐる。


「この町、こんなに物々しかったけ?」


兄は、最近町まで来てなかったので事情が分からず、困惑した顔で訪ねてきた。


「最近、やたらと馬賊供が侵入してくるらしくて、それで、略奪を防ぐ為に警戒を強めてるらしい」


「危ないな、うちの村まで来られたらたまったもんじゃない。帰ったら久しぶりに弓でも射るか」


砦の先には、やや壊れた家があるものの活気のある街並みが広がっていた。

街の南方には広大な森林が広がっており、その為、家々は多くが木材をふんだんに使用されたものである。


土を平らにした大通りを過ぎていく。人の声が多く聞こえる方へと道なりに進んでいく。すると、人でごった返す市が見えてきた。


この町は陸上貿易の中間地点として古来より栄えていたそうで、その為、軍事費に回す資金が大量にあり、どこそこの王やその支配下の者に支配されることなく自治することが可能であったそうな。


市に入ると私たち兄弟は二手に分かれて布を探し求めた。


日光、雨のみ防げればいい為に、細い柱と垂木に布を二重で被せただけで作ってある露店では、店構えの質素さに反して、様々なものが売られている。

鶏、毛皮、干し肉、馬の鞍、籠、豆、人の指、翡翠、蜂蜜、樽、生糸、ごま、腐った血、ヒル、蛇、枯れ草、そして、布!


布を売っている店の前で立ち止まり、慎重に吟味する。嫁いでいく姉が相手に送る為の布なので生半可な物は選べない。色、手触り、香り、全てが揃って恥ずかしくない布となる。そうして、見ていると店の主人の老婆が話しかけてきた。


「どんな物をお探しですか?」


みすぼらしく、痩せた姿で、声も力ないものだった。


「姉が嫁ぐので、相手に送る布が欲しいんです」


「そうですか…あぁ、ここら辺はそうでしたね」


老婆は、そう言うと疲れたのかそれ以上話しかけてこなかった。


一つ一つ手に取り、香り、肌触り、薄さを確認していく。そうして、慎重に全ての布をそれぞれ3回ほど確認したあたりで、やっと決めることができた。


その布の値段を老婆から聞く。言えば、値切ることも可能であったかもしれないが弱々しく、話すことさえも辛そうな老婆に対して交渉を仕掛けるなどという甲斐性はなかった。なので、言われた値をそのまま、腰の巾着から出し老婆に手渡した。


「どうも」


老婆はそう言うとこちらに対する興味を失ったようで、下を向き眠り始めた。

その後、別れた兄を探しに、兄の向かった方向へと歩みを進めた。様々な品物を眺めながら、人混みの中、兄を探す。


暫く探していると、何やら近い場所で男の怒声が聞こえた。人ごみの中の人々は多くがその事を気にしその声がした方へ歩みを進めた。そして、私もその流れに乗り、兄を探す事を一旦中止して、そちらの方へ向かった。また、どうせ兄のことだから同じように野次馬に行ってるだろうと思っていた。


怒声の方向へ、人の流れに沿って向かっていくとその声の発信地はどうやら市から少し外れたところにある大通りであることが分かった。再び男の怒鳴る声が聞こえた。


「離せ!離せ!俺たちはただ逃げてきてるんだ!離せ!」


訛りが酷いが聞き取ることはできた。どうやら、人に遮られ姿は見えないが、大通りで異国の男が誰かに捕まっているようだ。おおかた、露店から何か盗り店主に捕まって元首のところにでも連れて行かれてるのだろう。


「うるさいぞ!黙らんかお前!お前達はここ最近、侵入を繰り返し試みただろうが!それでのこのこやって来て帰れると思うなよ!!」


どうやら、違うようであった。問答の内容からして、捕まっている男はどうやら、馬賊の一員のようだ。そして、音の動きからしてどうやら引きずられている様子でもある。


音を聞いても実際風景を見ているわけでもなく、起きていることは想像するしかない、という現状に飽きてしまい、横を見てみると、思ったとおり、少し離れた所に兄がいた。


兄に近づき話しかける。


「兄さん、やっぱり来てたんだな。これは、どういう事態なのか分かるか?僕にはさっぱりなんだ」


「聞いてのとおりだ、馬賊が何故か来て捕まった、それぐらいしか分からない」


「どうせ、元首のところに連れてかれるんだろ?先回りして、ウヌリス元首に話を聞こう」


「そうか…ウヌリスと友達だったな、そうしよう…そのまえに、布はどうした?」


「うん。見つかったよ、兄さん」


「そうか、なら行こうか」


こうして、私たちはウヌリス元首の館まで、人込みをぬけだして、走っていった。


ウヌリスは私の村の友人だった。幼いころから神童と言われており、その頭脳を見込まれこの市のある町の養成学校にスカウトされたのだった。そして、気づいたらその町の元首になっていたというわけだ。そして、度々、市に行くときに、一緒に飲んだりしている。ウヌリスとはそんな気さくな秀才なのだ。














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