第7話 ギャルの事情
今日、学校へ行こうと家を出たけど途中で眩暈と吐き気がして動けなくなってしまった。
最近は治まっていたけど、緊張やストレスが原因で以前良く起きていた症状だ。
今日は学校を休むことにして担任に電話をしてそのまま帰宅した。
竜太郎は学校に行ったみたいで家には私一人。
キッチンでハーブティーを飲んで少し気持ちを落ち着かせた後、着替えてベッドに横になった。
『多分、昨日智花ちゃんに会ったからだな』
智花ちゃんは幼稚園からの幼馴染で仲良しだった。
いつも明るく何でも出来てみんなからも人気のある智花ちゃんは、地味でおとなしい私にとってはヒーローだった。
両親が離婚して、母さんについて私が転校することが決まった時も泣きながら『また会おうね!』と言ってくれた。本当嬉しかった。
転校した東京の学校。東京と言っても少し郊外の方だったけど、川北の中学よりは全然都会。同じクラスの女子も輝いて見えた。
ここには頼りになる智花ちゃんも居ない。私はクラスに馴染むために化粧や流行を色々勉強して頑張ってクラスに馴染んでいった。
口下手とおとなしい性格は中々治らないものの少ないけど友達も出来たし、街を歩いているとき声を掛けられて読モ的な事にもチャレンジした。
色々と生活も歯車が回りだしたけど、何だか心は満たされなかった。
この自分は本当の自分じゃない。上辺だけ変わっても本質は変わってない。
本当の私は口下手で本が大好きな化粧も下手な地味な女の子。
そう思い、家で大好きな本を読んでいると決まって自分の事を好きだと言ってくれた男の子の事を思い出す。告白してくれたのに関係が壊れるのが怖くて返事もせず引っ越してしまった酷い私。
『多分、嫌われたよね』
唯一といっていい男の子の友達。彼とは自然に話し笑顔を見せることが出来た。
何であの時すぐに返事が出来なかったんだろう。今でも後悔している。
お母さんはデザイン関係の仕事をしていて、離婚してからは夜遅くまで仕事をしている。時々会社に泊りの時もある。
弟も戸籍上は母方になっているが、川北の中学で友達とサッカーを続けたいということで、越境になるけど川北に比較的近い祖父母の家に住み遠距離通学で中学に通っている。
つまり、ほとんどの時間家には私一人。
小さい頃は智花ちゃんや弟が居たし寂しいという感情はあまり持ったことがなかったけど、最近は一人が辛く感じる。
高校へ進学した後も代り映えの無い生活をしていた。
外では派手目なギャルで通してはいるものの性格は相変わらずで、本来の自分とのギャップでこの頃からストレスや緊張で体調を崩すことも多くなった。
仕事人間の母も心配してくれて、弟と同じ川野辺高校への編入を提案してくれた。都内の高校よりはゆっくり出来るのではないかとの考えだ。
正直なところ良くなるとも思わなかったけど、今より悪くなることもないだろうと思い川野辺高校へ編入することにした。家は弟と二人暮らしになるということで母が高校の近くにマンションを借りてくれた。
編入は2年生の2学期から。受験前の中途半端な時期だ。
そして初登校の日。いつものギャル風な感じで自己紹介をしたけど、正直都内の学校と雰囲気は違い少々浮いてしまった。
そして、クラスの面子を見たとき見知った親友の顔を見つけた。
「智花ちゃん・・・・」
智花ちゃんは、私の事に気が付いて驚きながらもすぐに話しかけて来てくれた。
彼女は当時と変わりなくというより、さらに輝いていた。
中学でクラスメートだった小宮君に猛アタックして付き合う様になったこと。
(小宮君も私と同じ地味な男子だったのでグイグイくる智花ちゃんに最初は戸惑っていたみたいだけど、最後は彼女の熱意に負けたそうだ)
バスケで全国大会に出場したこと等、私とは全く違う充実した高校生活を送っていた。それは彼女が努力した結果であり素晴らしいことではあるのだけど、私には遠い人になってしまったみたいで、何だか話しかけるのにも緊張するようになり会話もあまりできなくなってしまった。
そして、いつしか親友だった智花ちゃんすら遠ざけるようになってしまった。
そのうち、口下手な自分を隠すように強気な空気を読まない発言などをするようになり、いつしか"毒舌美少女"とか"残念美少女"とか呼ばれるようになってしまった。”残念"って何なのよと思ったこともあったけど、まぁ自業自得なのかな。
3年生に進級。今年は受験だ。
成績はそれなりに良かったけど、将来何をやりたいのかよくわからない。
進路指導も今後受けるけど憂鬱だ。
そして始業式のクラス替え。
私はC組で智花ちゃんと小宮君はA組とクラスが分かれた。
まぁこれでよかったのかもしれない。
と、ふと見たB組のリストに信じられない名前を見つけた。
"小山内 源"
私のただ一人の男の子の友達。
『この高校だったんだ・・・』
会って話がしたい。でも今更どんな顔して会えばいいんだろう。
と思いつつも翌日から彼の情報を集めた。
幸い、この高校に編入してから出来た友人 春川さんが彼と同じB組だったので、彼女から話を聞くことが出来た。
春川さんは、美人さんなんだけど、なんというか私と同じ闇を抱えてそうな雰囲気があって、不思議と普通に話も出来るし色々と相談も出来る関係になれた数少ない人だ。
そんな彼女の情報によると、小山内君は3年連続図書委員で本が好き且つ温厚そうな地味男君。顔もスポーツも人並みだけど、成績は上位に入るとの事。ちなみに彼女は居ないそうだ。中々の情報量だったし何故か隠し撮りの写真までくれた。
ちょっと闇の深さも感じだけど、写真は自宅の机に飾っている。
多分、今の私を見ても図書館で会っていた麗香とは気が付かないと思うし、普通に初対面で一目惚れということで勇気を出して告白してみようかな。
あの日、彼は私に勇気をだして告白してくれたんだし。
そして、あの昼休み彼に話しかけた。
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