第24話「男の人生」
治英と亜衣、勇、そして白河博士は白の館へ戻っていた。博士はあらためて三人に説明した。黒の館の黒田博士はかつて自分と軍で人間改造の研究をしており、その後黒田博士は天皇家乗っ取りを企てる一派の支援を受け研究を続けたこと。そして白河博士自身もCIAの支援を受け研究を続けていたこと。
「だが研究が……すなわちアウェイガーの技術が完成すると、CIAは支援を打ち切り、この白の館へ攻め入ってきた。秘密を知る私が邪魔になったのだろう。黒の館にしたってそうだ。ナチスみたいな研究をアメリカが支援してたなどと明るみになっては大変なことになる」
「証拠隠滅……慧を使って技術だけ回収しようとしたのね」
亜衣が思い出すように言う。
白河博士が続ける。
「そして、このような恐るべき技術が日本に存在すること自体、アメリカにとっては避けねばならんことだ。日本をこれからも隷属させるために」
「もうこんなのたくさんだ!」
急に大声を出したのは治英だ。
「なんなんだ、どいつもこいつもわけわかんない小難しい話ばっかりで、戦うのなんだの。なんで今のままじゃいけないんだ、みんな平和に暮らしてる。それでいいじゃないか!」
「そうやってお前は、その歳になるまで現実から逃げて生きてきたのか」
そう言う勇もまた、中年男である。
「なんだ偉そうに。俺だって自分なりに必死に生きてきたんだ」
「そうだ。みんな自分なりに必死に生きてきた。それでも社会に捨てられたのが俺たちだ。俺はこの白の館に来て、ようやく生きる意味を見つけられた」
「それが大量殺人かよ」
「この国の未来のためだ。世襲と既得権という悪の連鎖を断ち切るには、誰かが罪を背負わねばならんのだ」
「世直しのつもりか!そんなの、間違ってる……」
それ以上言葉が出ない治英。
「私は治英と同じ考えよ。どうしてもというなら、私はあなたを倒すわ。父さん」
亜衣の断言に、博士は目を閉じ、深く息を吐いた。
だが勇が言う。
「もう止まらん。新たに数名のアウェイガーを派遣した。国会議員皆殺しは時間の問題だ」
「なんですって!」
「これ以上邪魔はさせんぞ。お前たち、ここから動くなら俺が倒す。お前たちは俺と一緒に博士をCIAから守るのだ。異存はあるまい」
治英を守るように勇の前に立ちはだかる亜衣が言った。
「治英、東京行きの連中を追って!」
「行かせんと言っている!」勇がすごむ。
「なら私を倒しなさい。あなたにできて?博士の前で」
「ぐぅっ……!」
自分の今までしてきたことを呪うように歯ぎしりをする博士。
「これが、因果かっ……!」
白の館を出て、東京へ向かうアウェイガーらを追いかけるべく、駅に向かい走りだす治英。
治英は、亜衣が自分と同じ考えだと言ってくれたことがうれしかった。その言葉は治英にとって、亜衣から信じられ頼られているという証。
今はそれが生きるよすがであり、治英が戦うたったひとつの理由だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます