第22話「治英、孤独な戦い」

 古井戸の入口で治英はCIAの三人を足止めをしていた。だが元より三対一では分が悪く、防戦一方であった。


 フィーラが五円玉を付けた超高分子量ポリエチレン繊維で治英の首を狙う。それをかわしつつ攻撃しようとするとベッシュの伸びる手刀が襲いかかる。なんとか懐に入ってもアジーンの怪力が待っている。


「(クッ、亜衣さんからもらった狼のゲノムカードのおかげで俊敏性があがって攻撃に当たらずにすんでるけど、これじゃ体力を消耗するばかりで、どんどん不利になる……!)」


 攻撃をかわし続けるだけで反撃の糸口を見いだせない。いくら若起により若返っているとは言え、体力は無限ではない。

 やがてベッシュの手刀攻撃が治英をかするようになった。かすった部分の強装にヒビが入り、砂となってボロボロと落ちた。


「(そうか、戦いが長引いてるから強装も弱くなってるのか。くそっ!)」


 そしてフィーラの超高分子量ポリエチレン繊維がついに治英の脚をとらえ、治英は地面に倒れる。ズサッ!


 素早く立ち上がるも、今度はアジーンのハンマーのような腕で殴られ、再び倒れる。強装はことごとくひび割れ、砕け、砂となった。

 アジーンは、自分の攻撃が致命傷にならなかったことを理解した。


「フン、その皮だか装甲だかが一種のクラッシャブルストラクチャーとなってダメージを軽減したか。だがもうお前を守るものは無いぞ!」


 アジーンがとどめをさそうとすると、フィーラが繊維を引っ張り、治英を自分の所へ引きずり寄せた。


「アジーン、こいつらは半ば不死身だ。胴と首を離さねば死なんぞ。そうだな!」


 そう言うと、フィーラは治英の首に繊維を巻きつけ、締めようとした。

 その時、フィーラは両手に衝撃を受ける。

 背後からの攻撃だった。


「誰だ!」


 フィーラが振り向くと、そこには白スーツにサングラスの男・白鹿丸が立っていた。


「そいつを助ける義理はないが、CIAの思い通りにさせるわけにはいかんのだ。悪いが手を引いてくれ」


 脇腹に痛みの残るベッシュが言う。


「貴様こないだの……こっちは三人だぞ。死にに来たか!」


 そう言ってベッシュが攻撃しようとすると、白鹿丸は両手を捻り擦ってベッシュの脇腹に気流攻撃をした。ベッシュは激痛のあまり倒れうめいた。


「そうだな。こないだの傷はまだ癒えてないか」

「キッサマぁあ〜〜〜」

「お前も我々のターゲットなのだぞ。忘れたか」


 フィーラが警告のつもりで言葉を発すると、白鹿丸もまた冷静に言葉を返した。


「では……私がなぜサングラスをしてるか教えてやろう。ひとつは相手に目の動きを読まれぬため。もうひとつは聴覚など他の感覚を敏感にするため。そしてもうひとつは……これだっ!」


 そう言って白鹿丸がサングラスを外すと、その目を見たCIAと治英は、恐怖のあまり体が動かなくなった。


 ゴゴゴゴゴ!ゾゾゾゾゾ!


 何も起こってないのに、まるで地響きのような、あるいは雷鳴のような音が4人には聞こえた。


「なぜだッ?!体が動かない……」

「これはッ……恐怖!?」

「怖気づいているというのか……我々が」


 戸惑いを口々にするCIAの三人。


 治英には何が起きているのかまるでわからなかった。


 CIAの三人は、いじめられっ子の親が出てきたときのいじめっ子のように怯えて逃げた。

 それを確認すると、白鹿丸はサングラスをかける。すると治英の恐怖感が消え、とにかく助かったと安堵した。

 なにか訊きたげな顔をする治英に白鹿丸が言う。


「CIAの思い通りに事が進んではまずい。それだけだ」


 その時、古井戸から亜衣、勇、白河博士の三人が出てきた。


「あなたは、確か……」


 亜衣は、嗚呼流と戦った時に助けてもらったことを思い出していた。


「いずれアウェイガーとも戦わねばならんかもしれん。だが三対一では分が悪い。今日は失礼するよ。私の眼の力はそう何度も使えないしな」

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