第20話「蒼狼丸と白鹿丸そしてCIA」
五円玉を蒼狼丸の首めがけて飛ばしたが、何かに弾かれた。
弾かれて手元に返ってきた五円玉を握るフィーラ。
「どういうことか」
遥か遠くに白鹿丸の姿。手をこすり捻り何かを投げるような仕草をしながら走ってくる。白鹿丸が作る気流の衝撃がベッシュを襲う。
バシッィ!バシッィ!バシッィ!
「チィッ!」間合いを取るベッシュ。
白鹿丸がやって来たことに驚く蒼狼丸。
「どうした!なぜここに?」
「話はあとだ」
「そうだな」
血みどろの左腕にかまわずタックルを狙う蒼狼丸に対し、フィーラは五円玉のついた繊維を円状にヒュンヒュン振り回し盾とした。
「超高分子量ポリエチレン繊維は鉄よりもずっと硬い。お前のタックルなど効かんぞ」
白鹿丸がフィーラに気流攻撃を試してみるも、衝撃音が鳴るだけだった。
そのスキをベッシュが狙う。「甘いんだよ!」
白鹿丸にベッシュが手刀で攻撃しまくる。だが白鹿丸はあらかじめ攻撃がわかってるかのようにスイスイと避ける。
ベッシュは、なぜ自分の攻撃がこうも簡単にかわされるかわからず、戸惑いを覚えた。
一方、フィーラはじわじわと蒼狼丸との距離をつめている。
フィーラに対し蒼狼丸は半身となり左腕をかばい、右腕は攻撃の構え。だがそのきっかけをつかめずにいた。
回る繊維のスピードが一瞬落ちた、ここぞとばかりに蒼狼丸は拳を叩き込むが、それはフィーラの罠。今度は右手を繊維で縛られてしまう。
「こんな簡単な手にひっかかるとは!」
「どうかな!」
ニヤリとする蒼狼丸。
「何っ?!」
距離をとって蒼狼丸の動きを封じるつもりのフィーラだったが、蒼狼丸は得意のダッシュ力で逆に距離を縮め、ゆるんだ繊維をフィーラの首に巻きつけた。
「グッ!」思わず声が出るフィーラ。
「さあどうする!お前の首もハムみたいにしてやろうか……」
「お前もな!」
フィーラも落ち着いていた。気がつくと蒼狼丸の首にも繊維が巻きつけられている。
「約束通り君の首を刎ねてやらんとな」
「そういや首は鍛えられないとかなんとか言ってたな。試してみるか。このまま無理に繊維を引っ張れば、互いに首が飛ぶぜ」
それは事実だった。
脅かして隙きを作ろうとしたフィーラのハッタリは失敗した。
フィーラの焦りを察したか、横っ飛びのような体勢でベッシュが両手で繊維を挟み、断ち切った。
「何?そんな簡単に!」あっさり切れたナントカ繊維に驚く蒼狼丸。
体勢をくずしたベッシュに白鹿丸の気流攻撃が脇腹をえぐる。流血は無かったがベッシュは脇腹を手でかばった。
「ベッシュ!大丈夫か」
「クッ、一旦退くぞ!フィーラ」
二人は登山道を下りていった。追わない白鹿丸。
「追え!」
蒼狼丸の声を白鹿丸は聞かない。
「いや、お前のケガが心配だ。それに奴らの狙いは俺たちの命だろう。嫌でもまた来るさ」
白鹿丸と蒼狼丸はひとまず黒の館へ戻ることにした。
蒼狼丸と白鹿丸は、不動山の陸側にある黒の館に戻ってきた。そこには、何人もの同胞が倒れていた。
「白の館をCIAが襲ってきたので、もしやと思いここへ戻ってきたのだが、俺が着いたときにはもうこの状態だった」
悔やむように言う蒼狼丸。
「それで、逃げるCIAを追ってさっきの戦いになったということか」
「白鹿丸、お前の方はどうだった」
「白の館の連中が東京へ行くのを止めるために駅に向かったが、首なしの死体がいくつも転がっていた」
「アウェイガーは簡単には死なんからな。首を取るのが一番確実、ということか」
「我々と組んでいれば、命までは落とさずにすんだものを……」
白鹿丸の言葉に、蒼狼丸はあえて無反応だった。
同胞らの死体に目をやりながら、蒼狼丸が言う。
「こいつら、黒田博士を、ドクターブラックを逃がすために体張って……」
「博士は今どこに?」
「いつもの“ある意味一番安全な場所”へ逃したと、息絶える前に聞いた」
「我々の知るところではないが、安全は安全か」
蒼狼丸が悔しさと焦りを込めて言う。
「ドクターホワイトにも会えずじまいだ。なんとか話をつけなければ、CIAに漁夫の利を与えてしまう」
「それだけは避けねば。我々がなんのために戦ってるのかわからなくなる」
「こいつらの命も、気持ちも、ムダにはせん」
二人はドクターブラックを探すため、黒の館をあとにした。
不動山の海側に白の館があり、すぐ北は海岸になる。その砂浜でCIAのアジーン・フィーラ・ベッシュが話し合っている。
フィーラはイスナーニがこの場にいないことを問うた。
アジーンが答える。
「極東支部へ一度戻らせた。命に別状はないが、体の“メンテナンス”が必要だからな。ベッシュ、お前もやられたのだろう」
「たいしたことはない……と言いたいところだが、この強化服でなければ、脇腹は肉ごとえぐり取られてたかもしれん」
腰に手をあてながらベッシュが言う。
CIAが着ているスーツは特殊な加工が施してあり、防弾・防刃仕様になっている。また彼らは肉体も強化されている。それでも白鹿丸の気流攻撃でダメージを受けたのだ。
「それで急いで退却か。だが奴らの前で俺の超高分子量ポリエチレン繊維を切ってみせたのはマズかったぞ」
「他に方法がなかった。お前だって相手とがんじがらめになっていたではないか」
フィーラは答えなかった。
二人を制止するようにアジーンが言う。
「どうやら、ハル・ノートの情報より敵は手強いな」
ハル・ノート。それは、CIAによる今回の作戦指示書類。白の館や黒の館の情報も掲載されている。
トリアも倒された。その、トリアを倒したアウェイガーはハル・ノートには記載が無い者だった。
「白の館には協力者もいたというのにか」
ベッシュが怪訝に言う。
彼らの方針は決まっていた。白の館も黒の館も日本から消すべし。そしてその全てを我がアメリカの手に。日本に力はいらん。千年先まで我がアメリカの属国なのだから。
三人はそのあとスッと黙り、海辺の廃病院こと白の館へ向かった。
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