第17話「バタフライエフェクト」

 亜衣は何事もなかったのように立ち上がる。


「嗚呼流。あんたにかまってるヒマはないんだ。先に行かせてもらうよ」

「いやいや。私は博士からあなた方を止めるように命を受けて来たのですから。通すわけにはいきませんよ」

「父をテロリストの頭目にしたくないのよ!どいて!」

「博士は、あなたの父上はテロリストなんかではありません。この国の救世主ですよ」

「お前と問答する気はない!」


 亜衣は翼を使って飛び上がり、嗚呼流の頭上を越えて行こうとした。


「通さないと言ったはずです!」


 嗚呼流が体を大きく後ろにそらし背中の羽を複雑に動かすと、亜衣は空中で大きくバランスを崩し、錐揉みを起こし地面に叩きつけられた。


「フフフ。蝶が鳥に勝てないとは限らなくてね」勝ち誇る嗚呼流。


 亜衣はダメージを受けながらなんとか立ち上がったものの、体が思うように動かない。まるで体に何かが絡みついてるような不自由さだ。


「ずっと博士の助手をしてきたあなただ。我々のことはなんでも知ってると思っていたのだが。私の鱗粉のことは知ってても、この技のことは知らなかったか」


「なんだと……?」


「バタフライエフェクト……背中の羽のわずかな動きで大きな気流を巻き起こす。空気の部屋もそれの応用ですよ。もしかして、あなたのその大きな翼ならこの力の影響を受けないとでも思ってたんですか?それは残念でした」


「お前の空気を操る力がここまでとは……」


「これから私の力を思い知らせてあげます」


 激しい気流が亜衣を中心に巻き起こり、亜衣の体をスピンさせる。


「博士からあなたは殺すなと言われている。だがもう二度と博士の邪魔をできないようにはしておかないとですね」


 亜衣のスピンは激しさを増していき、遠心力で強装が崩れた。


「さて、あとは気を失うまで回ってもらいましょうか」


 さらに亜衣が回転させられ気を失う直前、空気を切り裂く激しい音が響いた。


 バシッィ!


「何っ?!」


 若起の解けた亜衣の回転は止まり、フラフラとその場に倒れた。



「私のバタフライエフェクトが破られた、だと……!」


 さらに嗚呼流の羽がどこからともなく放たれた空気の衝撃に次々と引き裂かれていく。

 バシッィ!バシッィ!バシッィ!

 あわてふためく嗚呼流の前に一人の男が現れた。全身白スーツにサングラス姿をかけている。長い金髪だが、顔立ちは日本人だ。


「なんだお前!私の羽を傷つけたのはキサマか!」


「私の名は白鹿丸ビャッカマル。貴様らの計画を止めるために来た」


「何をォ!」


 そう言って嗚呼流は背中の羽を動かしたが、ちょっと強い風が吹くだけだった。


「どうやらお前の羽はもう使い物にならんようだな」


「なっ……何ぃ?」


 そう言って間合いをとったつもりの嗚呼流だった。しかし、白鹿丸が手をすり合わせねじるような仕草をするたびに、嗚呼流の強装はどんどん傷が増えていった。


「なんで……グァ!何もされてないのにどんどんやられていく……ガッ!……あいつの攻撃が届く距離じゃないのに……?」


 白鹿丸が冷静に言う。 


「すまないが、それは私の攻撃だ。君ほどではないが、私も手の動きで気流を作れるのさ。そして遠くの相手を傷つけることができるのだよ」


「なんだって、それじゃカマイタチと同じ……」


「その話だがね。自然の気流で人間が傷つくという理解自体に科学的根拠が無く、迷信らしい」


「だったら何で?」


「何でって、人為的に作ってるからに決まってるじゃないか。これで最後だ」


 そう言うと白鹿丸は腰を落とし手をねじり合わせ、より強い気流を作り嗚呼流を攻撃する。嗚呼流は強装をバラバラにされ、首の頸動脈を切られ激しく出血しながら倒れ、意識を失った。


「アウェイガーと言えど人間。出血多量となれば誰でも死ぬ。そうだろう、亜衣クン」



 倒れていた亜衣は意識を取り戻しつつあった。


「お前は……」


「そのまま倒れててくれ。立ち上がれば君を倒さねばならなくなる。駅に向かった連中は私が始末するから」


「なんだと?一体……?」


 再び亜衣は意識を失った。

 白鹿丸は亜衣を一瞥もすること無く、駅に向かう。


 黒の館の一員である白鹿丸にはドクターホワイトの国会議員皆殺し計画を阻止する使命がある。必要があればアウェイガーを倒すが、今はあの意識を失ってる二人より、駅に向かった連中を始末するほうが先だ。

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