第16話「捨て身のアイデア」

 ドクターホワイトの国会議員皆殺し計画は開始された。すでに第一陣が東京に向かっているという。亜衣は急いで新幹線の駅に向かうことにした。いくらアウェイガーが超人的な運動能力を持っていても、東京まで行くなら新幹線の方が早い。そもそも白の館の近くに駅はひとつしかない。


 治英も亜衣についていく。治英は亜衣が拘束を解いてくれたことで、自分が亜衣に頼られてると確信した。この世でただ一人自分の存在を認めてくれている亜衣のためなら、死ねる気さえする。なにせ元々捨てた命なのだから。ひょっとしたら自分は死に場所を探してるのかもしれない、と思った。


 駅に向かって走る二人。だが治英は早くも息切れし、亜衣に離されそうになっている。


「若起しよう。若返って元気になれば走るのも楽になる」

「ダメよ。若起は戦う直前にしないと。強装は若起した直後が一番強くて、その後はダメージを受けなくても自然と弱くなるのよ」

「そうなのか?じゃあ戦いが長引いたら不利になる?」

「戦ってたら相手から受けるダメージのほうが大きいとは思うけどね。だから戦う時は無視していいレベルではあるわ。でも髪の毛だって何もしなくても抜けるでしょ。それと同じなの。戦う直前に若起し直しても強くなるわけでもないし」



 走りながら会話する二人。だが治英はだんだんフラフラしてきた。


「ゲホッ!ゲホッ!(情けない……)」

「先に行くわよ」


 冷たく言い治英をおいていこうとした亜衣だが、急にむせた。


「ゲフッ!何……」


 周囲をよく見ると、キラキラとした粉が漂っている。


「急に何だ……黄砂?」

 何かを思い出したように亜衣が叫び、若起する。


「しまった!治英、若起して」

「じゃ、若起!」


 二人は強装を身にまとう。

 粉の量がだんだん増えてくる。二人とも咳き込んだり、粉が目に入ったりしてまともに動けない。


「治英、伏せて」


 治英が伏せると、亜衣は背中の翼で風を起こした。

 粉を風で飛ばそうとしたのだが、埃っぽい部屋でハタキを使ったときのように粉はもうもうと舞い上がり、二人をつつむだけだった。


「やはりダメか」

「何なんですこれ?」

「アウェイガーに嗚呼流アァルというのがいる。蝶の羽を使い空気の流れをコントロールできる力を持つのよ」


「そのとおり、君らは私が作った空気の部屋に閉じ込められているのさ。この鱗粉からは逃れられないよ。ホホホ」


 すでに目を開けることができない二人の前に、カン高い男の声とともに強装をまとった嗚呼流が現れた。目はサングラスのような極大ゴーグルで覆われ、背中には蝶のような立派な羽がある。


「空気の部屋?」治英が問う。

「コンビニやスーパーに扉のない冷蔵ケースがあるだろう。あれは空気の流れで壁を作って冷気が逃げないようにしている。言ってしまえばあれと同じ原理さ」


 だとしたら……!治英がひとつのアイデアをひらめいた。


「亜衣さんは伏せててください」

「何をする気?」

「いいから」


 治英が立ち上がった。亜衣は地面に伏せたままだ。


「フッ、何をしようとこの空気の部屋からは逃れられな……」


 嗚呼流の言葉をふさぐように治英が叫んだ。


「ダイナマイトフィスト!」


 空気の部屋に閉じ込められた鱗粉が濃くなっていたため続々と誘爆する。空気の壁は崩れたが、治英も鱗粉に全身を囲まれていたため爆発に巻き込まれ、黒コゲになって倒れた。


「治英!何やってんだ」


 戸惑いながら亜衣が問いかける。


「これで、鱗粉は全部消えたはず……早く……駅へ……」


 そこで治英は意識を失い、若起は解け、強装は砂となり、中年男に戻った。

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