第15話「黒の館」

 その時、縞縞シャツに白い半ズボンというラガーマンのような体格の良い男が突然アジーンにタックルをし、床にねじ伏せた。

 突然の出来事に、アジーンもイスナーニも一瞬戸惑う。


「(うぅ……亜衣さん!)」


 この隙に治英は立ち上がった。少し遠くだが真正面にイスナーニが見える。

 今だ!治英は必殺技を放った。


「ダイナマイトフィストー!」


 倒されていたアウェイガーたちや自身の強装のチリによる粉塵爆発で推力を得た治英のパンチが猛烈な勢いでイスナーニに向かう!

 イスナーニがそのスピードでかわそうとした瞬間、倒れていた亜衣は落ちていた羽根を拾い、イスナーニのアキレス腱に投げた。

「痛ッ!?」

 動けないことにイスナーニが戸惑っているうちに、治英のダイナマイトフィストが命中した。距離があったので威力は落ちたが、それでも防御に弱いイスナーニは吹っ飛び、壁に打ち付けられ、床に倒れた。


 アジーンは助けに行こうとするが、ラガーマンが離さない。

 ラガーマンはタックルした姿勢のままアジーンの胴を締め付けている。防御力を強化してるはずのアジーンも苦しみだすほどのパワーだ。


「グッ……CIAを、なめるな!」


 アジーンがそういうと、ラガーマンとアジーンの間で何かが爆発し、ラガーマンは吹き飛ばされた。アジーンにたいしたダメージはない。

 自らのボディに仕込んだ爆発物の威力で攻撃を弾き飛ばす。爆発反応装甲の一種だ。これでアジーンはラガーマンから離れた。自らも多少は傷つくが、肉体を強化しているアジーンにとってたいした問題ではない。

 アジーンはイスナーニを連れ急いで去った。イスナーニの手当てが先だと考えたからだ。



 治英は亜衣を手助けしようと駆け寄ったが、それを拒否するように亜衣は自力で立ち上がる。二人はラガーマンに戸惑いの視線を向けた。

 ラガーマンが言う。

「俺の名は蒼狼丸セイロウマル。黒の館の人間だ。ドクターホワイトに用があって来たのだが、CIAの方が早かったか」

「黒の館って?」

 亜衣にも知らないことがあるのかと治英は思った。

 蒼狼丸が問い返す。

「お前は?」

「博士の娘よ。黒の館って名前ははじめて聞いたわ」

「そうか……博士に話があってきたのだがな」


 博士を避難させた勇が戻ってきた。


「博士には安全な所へ避難してもらった。話なら俺が取り次ぐ。どこの誰だかわからん奴を博士に直接会わせるわけにはいかんからな」

「でも、俺たちこの人のおかげで助かっ……」

「お前は黙っていろ」


 治英の言葉は勇に遮られた。


「ふん……そういうことならやむを得ん。CIAの動きが予想以上に早い。俺も黒の館へ戻らねば。博士には、黒の館の人間から話があると伝えてくれ」


 蒼狼丸に亜衣が問いかける。


「ねえ!あなたCIAが私たちを襲うって知ってたの?」

「博士に訊け。黒の館のこともな」


 そういうと蒼狼丸は立ち去った。


「我々も邪魔が入らんうちに計画を進めねば。俺は第二陣で出る」

「第二陣って?」


 これもまた、亜衣が知らないことだ。勇が当然のことのように答える。

「第一陣はすでに出たということだ」

 ドクターホワイトの政府転覆計画が始動した。

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