第10話「計画を止める計画」

 海が見えた。前は崖だ。ここから崖沿いに歩くと鬼ヶ岬に着く。


 いくら治英が鈍感でも、二人がどういう関係かはわかる。だがそれと、政府転覆を止めることと、どういう関係があるのだ。そもそも政府転覆って、亜衣の父親は一体何をする気だ。それを止めるため俺たちは具体的に何をするのか。


「これからどうするんですか」


 自分の子供ほどの年齢の若者らに対し、治英は敬語で話す。


「このアルミケースの中のアイテムと、慧が持ってる父の……ドクターホワイトの研究データを、協力者に渡して、父の政府転覆計画阻止に協力してもらう。父はアウェイガーの力で、日本の国会議員を皆殺しにするつもりなのよ」


 治英は、その単純で暴虐な計画に言葉を失った。


「それを阻止するため、慧は父のコンピュータからデータを抜いたあと消去して、私は父の作ったバインダーやカードを全て持ち出した。協力者が援助してくれる条件がその二つなの。アウェイガーを増やさないように、活動できないようにするために」


「その、協力者って誰なんですか」


「私も知らないけど、慧が協力者とつながってるおかげで、父の計画を止めることができるわ」


「知らないんですか」治英は不思議がった。


 それまで黙ってた慧が、「事は秘密を要するからな。情報を知ってる人間は少ない方がいい」と、治英の方を見ないまま言った。



 鬼ヶ岬へ着くと、その崖っぷちに一人の西洋人が待っていた。


「彼が協力者だ。CIAのトリア」


 いきなり出てきたCIAというワードに、亜衣と治英は緊張した。


「さあ、ケースを」


 慧にうながされ、亜衣がケースを渡す。慧は自分の持ってるデータカードとともに、トリアに渡す。トリアは黙って受け取った。


「これでドクターホワイトの政府転覆計画を止められる。そして俺は晴れてCIAの一員だ」


「えっ?」


 慧の言葉に、そんな話は聞いてないという声が亜衣から出た。


「博士の計画阻止はトリアの方から話があったんだ。協力する引き替えに、俺をCIAに入れてくれる事になっている。こんな泥舟みたいな日本とはおさらばして、アメリカでエリートになるんだ」


「そのために……父を裏切ったの?」


「裏切るも何も、そのために俺は絵須を口説いて白の館へ潜入して、お前に接近して博士の作ったバインダーやカードを全部持ち出させたんだ。じゃなきゃ、できそこない中年男が集まる白の館に、俺が入るわけないだろ」


「私を……騙したの?」


 怒りとも悲しみともつかない声で亜衣が言う。


「お前もアメリカに一緒に行くか?割と好きだからな。いいだろトリア」


「……フッ。ハハハハハハ」


 トリアが本当におかしいという笑い声を上げた。


「おい、笑わなくてもいいだろ」


「お前は本当に自分がCIAに入れると思っているのか」


 それはどういう意味だ、と慧が問いかける前に、トリアの腕から刃渡り20センチぐらいの剣が飛び出し、横一文字に慧の首を刎ねた。

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