第5話「治英、再び若起《ジャッキ》する」

 亜衣は左手首のバインダーブレスにカードを挟み、手首を口元にもってきて「若起!」と叫んだ。光が彼女をつつみ、その光が強装となって彼女の全身を覆った。背中には鳥のような翼がある。


 その次の瞬間、ヒュンという音とともに太い鞭が二人を襲った。鞭の持ち主が朝日の中に現れる。強装をまとった若い女だ。

 

 亜衣はその翼を広げて宙を舞い鞭をかわしたが、治英は瞬時に鞭で滅多打ちにされ、その場に倒れた。


「絵須!あなたの狙いは私じゃないの」


 亜衣は攻撃の主を絵須、と呼んだ。


「フッ、邪魔者を先に片付けただけだ」


 絵須の右手首から伸びる鞭は強装の一部だ。絵須は手首で鞭をトグロのように回し、攻防一体の構えとした。


「アタシのこの構え、わかるよね。アタシに向かってくればお前は全身滅多打ち。逃げようとすれば首でも脚でも巻きつくよ」

「私に、どうしろと」

「お前が慧[ケイ]をそそのかして、二人で白の館を抜けた。お前がいなければ、アタシは慧と一緒にいれたんだ!」

「それは……!」

「違うとでも言うのかい?結果がそうなってるんだよ。ドクターホワイトの研究データを消し、バインダーやカードも全部持ち出して、二人で逃げた」

「だから私を捕まえに来たの」

「そうさ。殺すなとは言われたが傷つけるなとは言われてない。慧に二度と会えない顔にしてやる!」


 円の陣形を解かれた鞭は絵須の意のままに亜衣の顔をめがけ襲った。

 翼で宙に逃げる亜衣だったが、鞭は亜衣の脚に巻きつき、亜衣は地面に叩き落とされた。


「死なない程度に殺してやる!『ショックウェーブ』!」


 絵須はそう叫ぶと鞭をものすごい勢いで震わせ、その振動が亜衣にダメージを与える。

 亜衣が声も出せず苦しんでると、鞭を両手でつかんで振動が亜衣に伝わらないようにする者が現れた。

 治英だ。

 振動はそのまま治英に伝わるが、亜衣を助けたい一心で堪えた。


「なんだこいつ?普通の人間が手でショックウェーブを受けるなど自殺行為……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る