第4話「若起《ジャッキ》とは」

 治英と亜衣の二人は夜中歩いて鬼ヶ岬へ向かう。

 道すがら、二人は名乗りあうなど軽い自己紹介をした。

 亜衣は女子高生で、父である白河博士の助手でもある。

 治英はようやく定職についた中年男で、仕事で疲弊して自殺を試みて踏切から電車に飛び込んだらなぜかこの騒動に巻き込まれた。


「どうして死のうとしたの」


 若い女の子に言うのも恥ずかしい話だが、嘘をついてもしょうがないと思い、治英は話した。


「その……つらかったんだ。毎日毎日朝から晩まで仕事をしてて家には寝るためだけに帰るような生活。疲れて、何も考えられなくなっていた」


 その自分が、この少女を助けるためとはいえ誰かと戦い、そして勝ってしまうというのは、治英自身も不思議だった。


「あの男と戦った時の、俺や、あの男の姿はなんなんだ。亜衣さんも同じような姿だった気がするけど」


「あれは強装。体を守ってくれる。爪や髪と同じで、なくなっても何度でも再生するわ」


「亜衣さんのは羽が生えていたようだったし、あの男のは牙がついてたみたいだったけど」


「強装の形は一人ひとり違うの」


「どうするとあの姿になるんだ」


若起ジャッキするのよ。この、腕につけたバインダーブレスにジャッキ!って叫ぶと、バインダーブレスの力で太古の遺伝子が発現し、あの姿になって戦えるようになる。その時、私たちの心身は18才前後になるとされてるわ」


 いきなり遺伝子とか言われて面食らった。だが死を選ぶほど心身が疲弊していたのに少女を助けるため戦えたのは、気力も体力も若い頃に戻ったからなのか、と治英は少しだけ納得した。


「私は今の年齢がそのくらいだから実感ないけど、あなたは顔も姿勢も若者みたいだったわよ」


 そう言って亜衣は少しだけ笑ったが、治英が今はただの中年男に戻っていることを確認するとまた真顔になる。


「若い頃に戻るのは、若起してる間だけだから」


 警告するような口調だ。

 治英は、はじめて亜衣の笑顔を見れたのがうれしかったが、それがすぐ消えたことに、何か申し訳ない気持ちなった。


 空が明るくなってきた。一晩中歩いてたのか。治英がそれに気づいた瞬間、二人を同時に緊張感のようなものが襲った。

「なんだこれ……!」

暴意ボウイよ。アウェイガーが近づいてきてるってこと!気をつけて」

「アウェイガー?」

「私達みたいに、若起できる人間よ!」

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