第3話「白の館とドクターホワイト」

 海沿いにある廃病院。そこには政府転覆を企むドクターホワイトこと白河博士がいる。

 ここを抜け出した博士の娘・亜衣を捕まえに行った勇であったが、予想外の敵・治英に倒されてしまった。重傷を負った勇であったが、ふらつきながらも自力でこの廃病院「白の館」に帰還する。


 勇の傷は完全には治ってないが傷口はほぼふさがっている。


「亜衣は取り逃がす、重傷は負う、どういうことだ。亜衣がそこまで強いとも思えんが……」


 怪訝な声を出す博士に、勇は言いづらそうに話す。


「それが、バインダーブレス無しで若起するものに邪魔されまして……」

「なんだと?」

「博士もご存じない?」


 白河博士は答えなかった。


 そこに口をはさんだのは、絵須エスという女だ。


「アタシの出番のようだね」


 絵須は専門学校生だったが、高校生活から変わった環境に適合できず、学校をやめてこの白の館に入った。


「お前が亜衣を連れ戻すというのか」


 勇が訝しむように問う。

 その勇の言葉を無視して、絵須は得意げに言う。


「アタシの強さは博士も知ってるでしょ」


 確かに絵須は強い。それは白河も認める。

 だが白河にとって絵須はあまり愉快な存在ではなかった。他人の会話に平気で口をはさむようなところや、茶髪だとか耳中にしたピアスだとかスカジャンにダメージジーンズといった姿が、高齢の白河には好ましく思えなかった。

 娘とソリが合わないことも知っている。


「亜衣を倒すのではない。連れて帰るのだぞ」


 白河博士は念を押すように言う。


「わかってますよ」


 そこに、勇はやはり訝しむ声を出す。


「お前ひとりでか」

「いや……来な」


 絵須が呼ぶと、ヨレヨレのスーツを着た猫背の中年男がやってきた。

 眉井ビイだ。

 ただでさえ身長が低いのに猫背がさらに低く見せる。いつも膝を曲げたようなヨロヨロと不気味な歩き方をする男だ。


「こいつこんなだけど、若起すると強いんでさあ」


 絵須が軽く自慢げに言う。


「へへっ」


 照れをごまかすように半ば不機嫌に笑う眉井。


「そうか……なら二人で亜衣を連れてこい」


 博士の言葉に、どうしても気になるという感じで勇が言葉をはさむ。


「あの、バインダー無しの男は……」

「可能ならそいつも捕まえたい。興味がある。勇は休んで傷を治せ」

「いえ、これしきの傷、人並み外れた自己治癒力を持つ我々なら……」

「それはそうだろうが、まずはあの二人に任せよう」

「バインダー無しで若起した男が気になりまして」

「まあな……そんなことは突然変異でも起こらねばありえんが。実際に調べてみたいものだ」


 絵須と眉井は廃病院・白の館を出て、手分けして亜衣を探し始めた。

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