第3話 (前編)
彼女の後ろ姿が見えなくなった後、彼女とは反対方向にある自宅へ向け歩き出した。その道中において、彼女の表情が瞼にちらつき、瞼を閉じても自然と浮かんでくる。そのまま歩き続けること20分程が経ち、自宅に到着した。
「ただいま」
返事がない。ただの屍のようだ。
両親は共働き、また、妹がいるが部活に所属しているため、帰りがもう少し遅くなるのであろう。つまり家には自分1人だ。自室へ向かおうと靴を脱ごうとした。
するとブーブーと携帯電話のバイブレーションがポケット越しに伝わった。手に取ってみると着信元は美紅だった。
「どうしよう!テスト勉強しようと思ったら春休みの課題が終わってなかった!助けて〜」
電話に出るやいなやだった。
俺の幼馴染みはどうやら課題の問題がテストに8割程引用されることを知らないらしい。課題のプリントに書いてあるんだけどなぁ…。ただしテストがない教科もある。テストがない教科なら適当に答えを写せばいいと個人的には思っているが、罪悪感からしっかりとやるのは俺だけなのか…とどうでもいいことを考えてしまった。
「課題の問題がテストに出るぞ。だからそれをしっかりとやるんだぞー」
「え?知らなかった。ありがと、じゃあまた明日!」
そう告げると彼女からの電話は切れた。
それにしてもまだ宿題終わってなかったのかあいつ…。
幼馴染みのどこか抜けているところを嘆きつつ自室に入った。しかしあの幼馴染みがテスト教科を勘違いしている可能性を感じてしまい、電話をかける。繋がったのを確認してから話しかける。
「明日のテスト教科だが、国数英だからな。…勘違いするなよ?」
「え?理科と社会ないの?じゃあ理科と社会は答え写そ!」
「おう、また明日な」
俺が罪悪感を感じることを彼女は堂々とできるらしい。答えを全部写したら学力的にバレることを考えているのか不安だが、そこはもう諦めよう。
机に向かい、既に終わらせている課題の見直しを始めるのであった。
──────────────────────────
翌日、学校へ登校しテストが行われた。結果からいうと俺は可もなく不可もなくといった感じだろう。苦手の数学が平均点より少し上で、後は平均以上だと思う。
美紅は何とか課題を終わらせたのだが、途中で疲れた結果国数英も多少(本人比)答えを写したためあまり分からなかったらしい。ただ赤点は回避できたと思う!と意気揚々と俺に伝えてきた。赤点回避(本人予想)によりゲーセンへ向かうことになった。
美紅の部活の活動は週2と結構緩い。それにも関わらず県大会優勝を成し遂げるこの幼馴染みのセンスのよさは目を見張るものだと思う。
「あーこれこれ!」
新しく入荷されたぬいぐるみのようだ。この幼馴染みは意外とメルヘンチックな面もあり、ぬいぐるみが部屋には多々飾られている。
また、長期休暇になると千葉の某夢の国によく行きたがるのだが、なぜか俺も連れていかれる。はっきりいうと何時間も待つのは苦行なので行きたくない。
とある情報網によるとデートスポットに向いていないらしい。何でもコミュニケーション能力だったり、周りのカップルと比べたりで別れてしまうらしい。
しかし美紅は幼馴染みであり、気ごころの知れた仲であるため適当に会話をあしらっても特に何もなく…待ち時間にソシャゲをしていても何も言ってこない。個人的な意見だが遊園地とかってデートで行くべきじゃないよ。友だちとかと行く場所だな。
話がそれてしまったが、その間に美紅はぬいぐるみをゲットしていた。
「アームが緩くなくて助かったよー」
どうやらアームがしっかりとしており大した出費もなくぬいぐるみを獲れたようだ。
美紅は獲ったぬいぐるみを抱え、もふもふしている。
「あ、あれも可愛い!」
そう言うとまた別のクレーンへ向かいだした。最近部屋にぬいぐるみを置くスペースが怪しくなり、俺の部屋にも置かれ出したためこれ以上獲ってほしくないのだが…。
「あ、獲れたよ!」
こちらに駆け寄りながら無邪気に笑う幼馴染みを見ていると自然と唇がほころんだ。
ゲームセンターを出る際、獲ったぬいぐるみを大事そうに抱える幼馴染みの甘美に満ちた顔をみることができてよかったと思う。
ちなみに俺は手元には何一つ抱えてはおらず、お金をただクレーンゲームに溶かしただけの結果となった。
…まぁ美紅の笑顔がみれたのでよかったのかもしれない。
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