第184話 Rock 'n' Roll with Missile Dive~後編~
「――――いくぞっ!」
意識を切り替えるように小さく息を吐き出し、俺は短く叫ぶ。
それから腰の刀を抜き払い、俺は返事を待つこともなく疾駆を開始。
背後に仲間たちの気配を感じつつ、俺は丘から敵のいる平原まで一気に駆け下りる。
目の前に広がる鉄火場の空気が俺の頬を撫でつけ、同時に背中へ氷柱を突っ込まれたような感覚が襲ってくる。
本能からの警告なのだろう。
だが、それを意図的に無視して、俺ははたらき始めた慣性のままに突っ込む。
「――――てっ、敵襲!」
警戒を促す声こそ上がったものの、突然の攻勢に空爆の余韻から立ち直っていなかった獣人兵士の反応が遅れたのを俺は見逃さなかった。
遅い!
「オオオオオオオッ!!」
威嚇とともに自身を鼓舞するべく雄叫びを上げながら、俺は剣を振り上げようとした姿勢の豹の獣人の右脇腹を浅めに薙いでその脇を通過。
トドメは後ろに任せて、すぐ奥にいた狼獣人の顔がこちらを向くのに合わせるように、露わになった肩口目がけて刃を袈裟懸けに振り下ろす。
ほぼ同時に一人目の漏らした断末魔の叫びが耳朶に響くのを背後に感じつつ、俺は目の前の新たな敵に集中する。
「ギィッ!?」
肩口からずぶりと侵入した刃は、振り下ろしで付与された加速により鎖骨を一気に破壊。
次の獲物である肋骨にぶつかる硬い手応えを柄を握る俺の手に伝えながらも、それはすぐに両断の感触へと変わる。
致命傷を与えたと判断し、絶命しようとしているワーウルフの身体を蹴り飛ばして刀身を一気に引き抜く。
後方へと崩れ落ちるワーウルフに巻き込まれて動きが鈍った獣人たちを後回しにしつつ、俺は横手から襲い掛かる犬の獣人の喉元に左手で腰から抜いた短刀を喉へと投擲。
空気の抜けるような苦鳴とともに喉に短刀を生やした犬の獣人が、首にやった両手の隙間から鮮血を噴出させて地面に沈むのを横目に見ながら、腰を深く落として刀を旋回させるように振るう。
俺の間合いに入ってきていた獣人たちの足元を狙った牽制だ。
「ぎゃっ!」
あまり効果を期待してのものではなかったが、それでも何体か俺を取り囲もうとしていた獣人たちの何人かから機動力を奪うことには成功する。
しかし、いかんせん数が多い……!
回転の勢いを活かしながら、もっともこちらへと接近していた猫の獣人の短槍の穂先を、右手にはめた手甲の表面を滑らせるように逸らし、返す刃先で相手の両目を切り裂く。
「ガゥァッ!!」
そんなこちらの間隙を縫うように、裂帛の気合とともに迫るワーウルフが繰り出した長槍の柄。
その一撃を、俺は首を捻りながら最小限の動きで躱して左手で掴み、瞬間的な魔力強化で生み出した力で自身の方へとワーウルフごと引き寄せながら、折り曲げた右肘を体勢を崩して驚愕に歪む相手の顔面へと容赦なく打ち込む。
ぐしゃりという音とともに、突き出た鼻と口の骨が砕ける不快な感触が伝わってくる。
確実に仕留めるには不十分な攻撃が続くこととなったが、戦術的にはこれで成功だ。
そもそも、この攻勢では相手を殺すことが第一の目的なのではない。
その一撃で殺せるようなら殺しておくが、あくまでも戦力を奪うことが最優先の目的である。
その最大の理由としては、獣人の仲間意識がヒト族のそれよりも強く、致命傷でなければ負傷者を救出しようとする兵士も多いからだ。
であれば、無理に殺傷を狙ったりはせず、後送のために兵力を割いてもらうに限る。
この部分に限っては、獣人の方が進んでいるようにも感じられるが、まぁ、元々の総兵力がヒト族に比べて多くはないのも一因として存在しているのだろう。
そして同時に、先ほどまで俺をヒト族ごときと侮っていた視線の大半が、警戒すべき存在への殺意へと変わっていることに気が付いた。
あー、それにしてもフルオートショットガンが欲しい!
尚、まだ後方の友軍が動き出す気配は見受けられない。
いったい何をやっているんだ、あいつらは!
そうこうしている間にも、俺たちの周囲にはヒト族の反攻を潰すために敵が集まり始めている。
もしもこのまま小規模な攻勢に留まるようであれば、こちらが逆に擦り潰されてしまいかねない。
ティアとサダマサみたいな歩く戦略兵器は生き残れるかもしれないが、俺やショウジでは剣一本でこの獣人によって形成されつつある檻を食い破れるだけの体力と人外度を持ってはいない。
半分死に物狂いで刀を振るっているものの、さすがに対応できるキャパシティーをオーバーしかけている。
「……ッ!」
新たな敵の腕を斬り飛ばしたところで、不意に視界の外――――すでに意識の外にあった場所から膨れ上がった殺気が襲い掛かる。
ヤロウ、狙い澄ましていたのか!
幾重にもおよぶ犠牲を払った上での不意討ち。
俺は獣人を甘く見過ぎていた。
たしかに敵の戦力は着実に奪えてこそいたものの、その中で俺は狩場へと誘い込まれていたのだ。
「くっ――――」
迫る殺気に対応しようとするが、間に合うか正直わからない。
いちかばちかで強引に身体を旋回させてそちらに向き直ろうとした瞬間、背後から俺の耳元近くを何かが擦過し、殺気の発生源へと吸い込まれていった。
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