第183話 Rock 'n' Roll with Missile Dive~前編~
『こちら、HQ。現在、航空ユニットはリーパー1機が付近上空で待機中です。あー、戦況を見るにちょっと押されている感じですね。支援が必要ですか?』
唐突な俺からの発信だったにもかかわらず、即座にインカムへとレスポンスが返ってくる。
ずいぶんと話が早い。最初からこちらの状況をモニタリングしていたのだろうか。
まぁ、
「あぁ、1発カマしてやろうと思ってね」
「人間相手に豪勢ですねぇ」
「遅れてきたサンタクロースからのクリスマスプレゼントだよ」
口笛を鳴らすオペレーターに俺は鼻を小さく鳴らす。
しかし、この世界でのサンタのデビューが空からのミサイル攻撃では、ずいぶんと物騒なものになってしまうな。
自分で振ったネタに内心で苦笑をしながら、俺は司令部に支援要請を出す。
『連中、もう勝った気でいるわけですか? それなら目覚めの1発にしては、なかなかキツいモノになりますね』
「贈り物にしては準備不足だが許してくれるかな?」
『
よく通る凛とした声で軽快なジョークを交えて喋るオペレーター。
ずいぶんと人間臭いが……そうか、人間とほぼ同じだったな。
そんな俺の内心の思いを映すかのように何やらマイクの向こうからは、コンソールを操作する音とスタッフが指示を飛ばす声が聞こえてくる。
「まぁ、本当にさっさと目を覚ましてほしいのは、後ろのノンキな連中だよ。この状態でも騎兵突撃敢行しねぇとか、どんなアホが指揮してんだか。……よし、レーザーマーキングはこちらでやる。攻撃準備が整ったら教えてくれ」
『了解。リーパーのミサイル発射可能エリア到達まで約3分。ターゲットエリアからは十分に距離を置いてください』
「了解」
オペレーターからの返事を聞きながら、俺はAN/PEQ-1 SOFLAM(Special Operations Forces Laser Acquisition Marker:特殊作戦部隊用レーザー指示装置)を『お取り寄せ』する。
狙うは敵獣人突撃部隊の真ん中からやや後方くらいか。
血飛沫と咆吼を上げている
戦場の空気、あるいはむせ返るような血の匂いに酔っているのだろうか。
それとも、この地域をヒト族から解放するための大義のためか。
戦いのプロたる傭兵たちを蹴散らしながら進軍を続ける獣人兵士たちの顔には、獰猛そのものの表情が張り付いていた。
さて、個人的な恨みはないが……。
「オーケー、HQ。ヤンチャなモフモフどもにプレゼントの届け先をペイントしたぞ」
『
高高度を飛行しているだけでなく、一帯を支配する戦場音楽によりリーパーの奏でるターボプロップエンジンの音はこちらには聞こえてこない。
しかし、目には見えぬ
俺の脳裏には、高高度を飛翔するUAVからの運用に最適化された対戦車ミサイルAGM-114PヘルファイアIIが、戦場の空気を切り裂いて飛んでくる姿がはっきりと浮かんでいた。
ほんの一瞬だけ、空気を切り裂く鋭い音が聞こえたような気がした。
次の瞬間には、高速で突き刺さるように着弾したヘルファイアは轟音を上げて爆発。
吹き上がる爆煙と轟音と、そこからわずかに漏れ聞こえる悲鳴。
たしかな形を保った“なにか”が空中や周囲へと飛散するのが見えてしまった。
『ヘルファイア、
ミサイルの着弾――――もちろん、俺たち以外はその攻撃の正体を知らない――――により、完全に戦場の空気が一時的に凍り付いた。
いや――――。
運悪く生き残ってしまった獣人たちが上げる絶叫と悲鳴により、流れが定まりつつあった戦場に新たな混乱という名の流れが生まれる。
動くなら―――――今だ。
「
『Roger That』
「……乱れたか」
すでに腰の鞘に手を伸ばして鯉口をあわらに切ったサダマサは、いつでも動けるよう腰を低くしている。
まるで、この後俺が指示することさえもわかっていると言わんばかりだ。
「よし、ポーズ程度でいいから、野郎どもで押し返すぞ。ショウジ、お前は俺についてこい。いいか、イケるとわかっても絶対に深入りするなよ? 特にサダマサ。ネタ振りじゃねぇからな? あっちの強そうな連中のとこには絶対行くなよ?」
「ちっ」
残念そうに舌打ちをするな、そこの戦闘民族。ショウジも苦笑してるじゃねぇか。
まぁ、サダマサもこんな態度を見せているが、俺の真意はちゃんとわかってくれていることだろう。
そう、ここで反攻に出て、後ろで状況が掴めないでいるノロマな連中にチャンスだと知らしめてやるのだ。
ホントはそんなことしないでも動いてほしいんだけどな!
「ミーナは長射程の
混戦に備えてあらかじめ各自へ渡しておいたインカムを、存在を再確認させる目的で指ではじいてみせる。
「かしこまりました」
「ミーナの援護もかねるのね。わかったわ」
俺の指示にインカムの差し込まれた耳を触りつつ、力強く頷くミーナとベアトリクス。
そして、そのままミーナは背負っていた複合弓を取り出し、矢筒から取り出した矢を番え始める。
さすがは、古くからの書物で森林の狩人と評されることもあるエルフの上位種族。その構え方もなかなかサマになっていた。
先ほどまでの寒さに震えていた姿もどこへやら、だ。
それを見届けて、俺は最後にティアの方を向く。
「ティアは……まぁ空気でも撹拌しといて」
「あれ!? 妾だけ扱いが雑ではないか!?」
まさかの言葉だったのだろう。
俺の視線を受けて期待の表情を浮かべていたティアは、意外な言葉に肩をずっこけさせる。
「だって援護しろって言ったら、この雪原が焦土になりそうじゃないか。さすがに地形を変えかねない人はちょっと……」
少なくとも、それが可能なだけの超常的な力をティアは持っている。
「いやいや! 可能だからと言って、そこまで見境なしに魔力を振ったりはせぬぞ!?」
心外であったのか、むきーと不満げな顔で怒るティア。
そんな表情豊かな反応に、なにげにからかうと一番面白いのはティアなんじゃないかと思えてくる。
「まぁまぁ、そう深刻にならないで」
「……クリス、なぜだかまるで妾が聞き分けのないような物言いになってるのじゃが?」
俺の場を和ませようとするジョークに、どういうわけか疲れたような表情を浮かべるティア。
どうもツッコミ側に回るのは苦手なようだ。
「とっておきの存在は出番も選ぶのさ。……まぁ、冗談だよ。俺の背中を任せていいか? あー、なんだその……頼りにしてるからさ」
「……っ! うむ、任せておくのじゃ!」
ウインクと一緒に放った俺の言葉を受けた途端、ティアは先ほどまでとはうってかわってパァッと顔を輝かせた。
その眩しい笑顔に俺もつられてしまいそうになるが、気まで緩みそうになることに気付いて慌てて視線を逸らす。
なんというか、妙にくすぐったい気分になったのだ。
前世で後輩たちの前で少し大人ぶることができた時のような。
まぁ、いずれにせよ悪い気分じゃなかった。
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