第143話 デストロ・ノーカ~後編~


 この120㎜迫撃砲RT は、砲全体の重量が582㎏と非常に重いため、本来であれば移動と設置には車両を必要する。

 また、車輪なしタイプで同口径のM120 120㎜迫撃砲とは異なり、移動と設置に大掛かりな準備を必要としない利点も存在するが、そこはさすがの『お取り寄せ』。即時発射可能な状態で召喚されているのであまり関係はない。

 装甲車に120㎜重迫撃砲を積んだドラゴンファイア自走迫撃砲などもあるのだが、あまりにも目立つし、運用するのが俺一人に近いため本体のみの召喚に留めている。


 もうちょっと現代兵器の運用に便利な能力が欲しいところだ。

 本来なら、あんなのは航空機からの空爆で洞窟を崩落させるなりしてしまえばそれで終わるのだから。


 とはいえ、ないものに文句を言っても仕方がない。


 砲身後部にある撃針を後退させ、拉縄式にセット。

 設置した各砲に20㎏近くもある榴弾を砲口から中へと刻まれたライフリングに沿うように滑り込ませていく。

 これで発射準備は完了だ。


「よし、待ち望んでいた出番だぞ。俺の合図で縄を右から順番に引っ張れ。ダッシュだぞ」


 そわそわと落ち着かない様子のショウジを呼んでひとつ目の縄を渡す。これくらいの作業でも動かせてやった方がいいだろう。


「よし、状況開始だ。ショウジ、引け!!」


 俺の言葉に、ショウジがM120から伸びた縄を勢いよく引くと、破裂するような音と共に、重迫撃砲が天に向かって火を噴く。


「きゃっ!?」


 耳を塞いでおけと言い忘れたため驚く褐色エロフ。いちいち反応が初心ウブい。


 だが、そんな反応を余所に、真剣なショウジは次々に縄を引いていく。

 塞いだ耳越しにその発射音を聞きつつ、俺は観測へと戻り、心の中でカウントを行う。


 そろそろだな。……3……2……1……弾着、今!


 爆炎魔法でもこうはなるまいという強烈な爆発が、双眼鏡の向こうでほぼ連続するように三つ生じる。

 それぞれが、見事にエルフの密集した陣形の近くへと吸い込まれるようにして発生。

 立ちこめる粉塵で目標の周辺は見えなくなるが、にわかに騒がしくなったのを聴覚でなんとか確認しつつ、俺は立ち上がって照準がズレていないかと初弾の命中地点から目標となる地点への修正を行い、急いで次弾を装填していく。


 やはり、一人で運用するのは効率が悪すぎる。

 だが、今の俺が隠れたまま行える面制圧火力としてはコイツが一番確実で効率的なのだ。


「よし、撃て!」


 修正した射線により効力射を実施。

 放たれた砲弾は、今度こそ何が起きたかわからず混乱状態の真っただ中にいるエルフたちへと正確に吸い込まれていった。


 おそらく、着弾地点では空気を切り裂く甲高い音を立てて降り注いだ砲弾により、地獄絵図もかくやの光景が展開されていることだろう。

 事実、双眼鏡の向こう――――効力射の着弾地点には、既に動いている物体はほぼほぼ見受けられない。

 また、幸運にも着弾点から最も遠くにいたエルフの兵士たちは、既に我先にと武器を投げ捨てて墳墓の入口付近から逃げ出していた。


「すごい……。これが『使徒』の……」


 あっという間に、魔法の担い手として古来から戦場を駆け抜けてきたエルフの兵士たちが、地面と共に耕され物言わぬ屍へと変えられていく。

 その光景に、俺の隣まで寄って来ていたヴィルヘルミーナが震える声を漏らしていた。近くで見たらすっぱいもんじゃ焼き作れると思うが、さすがにそれは言わぬが花である。


「これが戦場だ。何百年生きていようが死ぬ時はあっさり死ぬ――――平等な世界だ。そして、こんな光景を新たに生み出そうとしているヤツがいる。さぁ、さっさとケリをつけにいくぞ」


 ヴィルヘルミーナに促すように言うと、俺は魔力の流れを感じながらMk19自動擲弾銃グレネードランチャーを搭載したM-ATVを『お取り寄せ』する。


 コイツはMRAPと略される『耐地雷/伏撃防護装甲車』をコンパクトにしつつも同等の防御力を持たせ、より高い機動性を求めて計画された車両だ。

 日本語で言うなら『耐地雷/伏撃防護、全地形対応車』となるが、クソ長いだけなのでM-ATVでいいだろう。


「これは……」


「“鋼の召喚獣”だ」


 表情が固まっているヴィルヘルミーナには悪いが、今の状況でいちいち説明などしてはいられない。


「いや、でもこれってどう見ても生き物じゃ――――」


?」


「あっ、はい」


 そう断言して、なんだか腑に落ちない様子のヴィルヘルミーナを後部座席に押し込んでから、装甲を施された重いドアを閉める。


「……さて悪いな、ショウジ。この車は5人乗りなんだ」


「ここで俺を置き去りにしますか、普通!?」


 突然の戦力外通告なかまはずれに、愕然とした表情を浮かべるショウジ。


 でもね、欲しかったのはそのツッコミじゃないんだよ……。すごく謎の髪型をしたイヤなクラスメイトのアイツをさぁ……。


「冗談だ。だが、さすがについて来てるおにも――――諸姉を荷台に押し込むワケにもいかない。お前にはそっちに入ってもらうぞ」


 だから、三人しか乗れないストライカーMGSも主力戦車も召喚できなかったんだよ。

 まぁ、そもそも砲手を担当できるヤツがいないから、強力な武装を積んだ車輌を『お取り寄せ』しても装甲車の代わりくらいにしかならないのだが。

 ……今更だけど、運用できる人間とかが付いてこないって、コレ能力として重大な欠陥を抱えてるよな?


「クリス。であれば、妾は後から飛んで行こう。さすがにこの狭い中に入りとうはないからの」


 思わぬところで、ティアが助け舟を出してくれた。

 そうだな……。敵は既に潰走を始めているし、墳墓の入口までであればティアが半竜形態で飛んでも問題はあるまい。

 そうと決まれば早々に行くのみ。


 サダマサを運転席に、ショウジを助手席に座らせ、ハイエルフ王族に恐縮している褐色エロフを無理矢理後部座席に押し込んで、俺は銃座についてMk.19のグリップを握る。


「よし、行くぞ!」


 天板を叩いて合図を送ると、サダマサの踏み込むアクセルと共に、M-ATVがディーゼルエンジンの唸りを上げて一気に加速を開始する。



 さっさとケリをつけようじゃねーか、叛逆の王子リクハルド様よぉ?


 ……こう書くとすごい中二病感だ!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る