第139話 Kick your ass to Heaven~天まで吹っ飛びな~後編~
「いくらなんでも一方的すぎじゃないですか……」
当たり前だ。一方的に勝てる状況を用意できないのなら、本来は勝負などするべきじゃない。
現状、地獄絵図さながらの光景を作り出しつつあるが、結果的にワンサイドゲームとなっているだけで、それなりの用意をしてなければこちらに被害が出た可能性も少なくはない。
事実、俺たちは積み上げられた土嚢を防壁として、そこからM2による制圧射撃を続けているが、既に数本の矢が俺の近くへと突き刺さっていた。
彼我の距離が離れており、また目の前で繰り広げられている虐殺同然の事態に、弓兵も悠長に狙っているヒマも度胸もなく、当たれば儲けものくらいの杜撰な撃ち方をしていたためだ。
そこでM2が沈黙し、ベルトの弾が切れたことを告げる。
「先に出るぞ、クリス!」
装填していた弾丸を撃ち切ったところで、俺の横合いからサダマサが飛び出し、逃げようとしているエルフたち目がけて突っ込んでいく。
「俺たちも出るぞ、ショウジ!」
「え? はい!?」
次のベルトリンクを装填するものとでも思っていたか、咄嗟に言われたショウジは反応が遅れる。
そんなものには構っていられないので放っておき、俺は傍らに置いてあったFN M249 MINIMI 分隊支援火器を掴むと、サダマサへと続くように洞窟の出口から飛び出す。
黒い塊となった剣鬼が兵士たちの中へと飛び込んでいき、振るう刀で次々に血しぶきを上げているのを見ながら、俺はそことは別の位置から逃げ出そうとしているエルフたちに5.56㎜弾を叩き込んでいく。
瞬く間に、潰走に移りつつあるエルフたち。
彼らは背後から容赦なく浴びせられる弾丸によって次々に倒れていき、最早壊滅寸前であった。
しかし、そこで何やら視界の奥――――エルフたちが逃げて行こうとした方向で巨大な物体が動くのが見え、俺は様子を見るために射撃を止める。
人の形をしているが、エルフにしてはかなり大きい。
一瞬、オークかオーガを使役しているのかと思ったが、筋肉や脂肪といった生物の身体を描く線ではない――――計算のもとに作られた曲線に似ていることから人工物であるとわかる。
「ほぅ、ゴーレムか。まだ残っておるとはな」
いつの間にか、俺の傍らにまでやってきていたティアが、こちらへ向けてゆっくりと歩みを進めてくる物体に向けて感心したように漏らす。
ティアの言う通り、その物体の見た目は、俺の知る前世のファンタジー作品に登場するゴーレムと同じく巨大な人形の形をしていた。
見たところ、その身体は青銅か何かでできているらしい。
また、頭部――――人間でいう目の位置に赤く光る魔石を埋め込んでいるようだが、アレは感覚器官の代わりだろうか。
とんでもねぇ切り札を出してきやがったな。
「知っているのか、らい――――ティア」
「……何じゃ、今の妙な間は」
「あ、気にしないで。解説してどうぞ」
こちらへと不信感のこもった視線を向けるティアに俺は続きを促す。
「……まぁよい。アレは、はるか昔、人類と魔族との戦において使われたハイエルフの決戦兵器じゃ。胴体深くに埋め込まれた魔石から魔力を供給することで、あのように動かすことができる。当時の大森林の周辺の資源を使ってまで作ったせいで、この森も一時はなくなるのではないかと思われたほどじゃよ。アレが切り札とはのぅ。目の前の個体は下位のモノらしいが」
まったくもって初耳の情報だった。
そんな記述は、俺が読んだ歴史書には残されてはいな――――あぁ、ヒト族がそんな偉業とも呼べそうな異種族の手柄をわざわざ書き残すわけもないか。
「たしかに、ありゃ厄介そうだな。金属相手じゃ火縄銃も効果は発揮できない。戦争で持ち出されたら事だぞ」
あんなのが帝国との戦争に投入でもされた日には、たとえ一体だけであっても帝国軍兵士に甚大な被害をもたらすのは間違いない。
脚の関節を狙って集中砲火を浴びせれば動きくらいは止められるかもしれないが、それとて火縄銃の命中精度では不可能だ。
近代レベルのライフル銃が揃って初めて可能性がわずかに出てくるレベルだろう。それならまだ魔法を撃ち込んだ方がマシだ。
第三王子のヤローが博打に出たくなる気持ちもわからないでもなかった。
だが――――。
「戦車相手に戦争してきた俺らを舐めるんじゃねぇ!」
即座に取り出したM136 AT-4無反動砲を取り出し、後方に味方がいないことを確認した上で輸送用カバーをスライドさせて照準器を展開。
そのまま狙いを定め、撃針起こして流れるように発射スイッチを押し込む。
轟音と共に発生した強烈な発射ガスが、弾体が発射される際の反動を打ち消すも、後方から噴出されるそれにより、周囲に落ちていた5.56㎜弾の空薬莢の一部が宙を舞う。
音速に迫ろうかという速度で飛んで行った成形炸薬弾が、青銅でできたゴーレムの胴体に着弾。
同時に、発生したメタルジェットが青銅でできた装甲を完全に穿孔して内部にまで達したか、青銅ゴーレムの頭部にある赤い魔石の輝きも消失し、ゆっくりと地面に倒れ落ちた。
どうやら、内部の魔石を破壊することで機能停止に追い込めたようだ。
これなら榴弾よりこちらの方が確実かもしれない。せめてアパッチとかの支援があればもっと楽なんだが……。
「こんなモノ、人類同士での戦争に使わせるわけにはいかねぇな」
「まぁ、先に耳長どもが殺し合って凄まじい被害を生み出しそうじゃがのぅ」
倒れ伏したゴーレムの残骸を見ながら、しみじみとつぶやくティア。
まぁ、歩く非常識さんからすれば大したものではないのだろうが、こんなものが人類圏に牙を剥く形で解き放たれた日には一大戦争になりかねない。
なんとしても、俺たちが『大森林』にいる間に、すべて破壊するか封印をする必要がある。
残念ながら今のエルフたちでは、この魔導兵器を魔族との戦いに使ってくれることは期待できそうにないからだ。
『――――ろ。こちら本部。捜索隊、応答しろ』
「――――っ」
戦闘にかかり切りで気が付かなかったが、静まり返った空間の指揮官らしきエルフの死体のすぐそばに落ちていた水晶球らしきものが光を放ち、そこから何者かの声が発せられているのが確認できた。
「なんだあれは?」
集まってきたヴィルヘルミーナに尋ねると、そのタイミングで水晶球の光は強まり、空間にホログラムよろしくひとりの人間の姿を映し出す。
白髪に限りなく近い金色の髪に長い耳の偉丈夫が、どこか不遜に感じられる表情を浮かべながらこちらを見下ろすようにしていた。
「に、兄様!?」
そうか、コイツか。
このタイミングで、ヴィルヘルミーナが驚愕と共に「兄様」と呼ぶ、俺の見知らぬハイエルフは一人しかいない。
そう、このクーデターの首謀者にして、ハイエルフ第三王子リクハルドだ。
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