第134話 どっちもどっちも!~前編~


「緑の大地が萌えるどころか燃えるは炎――――ってかぁ?」


 誰に話しかけるでもなく、戦闘服へと着替えた俺は、ティアが恫喝――――もとい交渉してくれたおかげで、遠慮なく使うことができるようになった『お取り寄せ』で召喚した武器を並べながら、溜息と一緒に呟きを虚空に向けて放つ。


「どうすんだよ、これ。ヤる気満々になってるじゃねーか、どいつもこいつも……」


 ひと通りの準備が終わったところで、今度は武器と弾薬の確認に移る。


 屋内での戦闘においては、貫通力の高い弾丸は危険なため、メインウェポンにはUMP45短機関銃サブマシンガンを選び、ボルトを引いて初弾を装填。セレクターをSAFEに合わせておく。

 次いでアンダーレイルに取り付けたフォアグリップと、折り畳み式のストックに異常がないか確認しつつスリングで右肩に吊るし、予備マガジンを数本だけベストのポーチに挿入。

 既に昨晩の戦闘で使っていたUMP45だが、これは世界的ベストセラーとなったMP5短機関銃の廉価版&45口径版といった代物である。

 精度は簡易狙撃銃とまで言われたMP5ほどではないが、屋内で使う際に9㎜パラベラム弾では不足する威力をすこしはカバーしてくれるため、扱いの楽さもあって俺は結構気に入っている。


 続けて、制圧力を確保するための副兵装であるMPS AA-12フルオートショットガン。コイツは背中に背負っておく。

 ちゃんと様々な事態に対応できるよう、各種ショットシェルも十分なくらい5連マガジンに詰めて用意している。

 取り回しの邪魔にならないよう、今回32連ドラムマガジンは使用しない予定だ。


 それから、手榴弾数個を腰のベルトへ付けて、HK45T自動拳銃を右腿のホルスターへ突っ込む。コイツは近接戦闘など、いわゆる“もしもの時用”となる。

 そして最後に、白兵戦用の腰に佩いた小太刀は、背中側へと回し各銃器を取り扱う際の邪魔にならないように固定。


 よし、これでいつでも打って出られる。


 ちょうどそのタイミングで、部屋のドアがノックとは違う特殊なリズムで叩かれる。

 外に偵察に出ていたサダマサが戻って来たのだ。

 こちらを向いていたエレオノーラとショウジは、俺が頷くのを見てゆっくりと鍵を開ける。


「……ずいぶんとめかし込んだな」


 ドアを開けて俺の姿を見た途端、呆れたような顔を浮かべるサダマサ。


「そりゃ歓迎パーティどころか、国を巻き込んでカーニバルまで開いてくれるんだろ? ちゃんと武装から何からフルで用意しておかないと失礼だからな。それで、外の様子はどうだった?」


「城の大部分は既に制圧されているな。こちらへはまだ手が回ってはいないが、それも時間の問題だろう」


 初動に手間取っているのは奇跡と言ってもいいな。あるいは抵抗勢力でもいるのだろうか。エルフが一枚岩でないことに感謝したくなる。


「そうか。こちら側になりそうな戦力は?」


「不明だ。だが、謁見の間に守るモノでもあるのか、一部の騎士や騎士たちが立てこもっているらしく小競り合いが続いている」


 相当ギリギリのラインまで偵察を敢行したらしい。

 化物じみた動きと、暗殺者顔負けの気配遮断能力を持つサダマサだからこそ行える芸当だ。


「なるほどねぇ。でも、敵がよっぽどのバカでなければ、そろそろこちらへも浸透してくるよな」


「いずれにせよ、分断されたままではあまりにも不利だ。士気にも影響する」


「同感。こっちから出て行くしかなさそうだな……。側面を突いた方が確実だ」


 溜息を吐いて、俺は覚悟を決める。

 戦争にさせないためにここまで来たつもりが、まさか相手の国の中で戦争しなきゃいけなくなるとはね。


「戦いは、避けられないのですか……?」


 緊張に耐え切れなくなったか、ヴィルヘルミーナが口を挟んでくる。

 顔色が優れないのは俺の気のせいではなさそうだ。


「無理だね。強硬派の連中は喜んで俺たちを殺しに、そして君ら王族を捕えに来る」


「ですが、これでは……もはや内戦と同じではないですか……!」


 本当は叫び出したいのだろう。その声と肩は、感情を抑制しようとするあまり小さく震えていた。


 こんなことを言っているヴィルヘルミーナだが、彼女とてバカなお姫さまではない。事態は十分に理解しているはずだ。

 それでも――――たとえわずかな望みであっても、それに縋りたいのだろう。


「正確にはちょっと違うな。王側が抵抗したら内戦、降伏したら新政権が帝国に戦争をふっかけるってだけで結末はほとんど同じだ」


「そんな……」


「シンプルだろ? だが、結局はなるべくしてなった事態だ」


 少なからずショックを受けた様子のヴィルヘルミーナには気の毒だが、俺は心のどこかでこうなると予想していた。


 帝国を出る際に緊急事態であったにもかかわらず、手持ちの戦力としては破格のサダマサを引っ張り出したのはそれが理由だ。

 まぁ、ティアがついて来たのは少々想定外だったが、おかげで存外に事が早く進むことになった。


「わからないか? 国内の連中に――――」


 そこで俺は言葉を切る。

 俺とサダマサ、ふたりの視線がほぼ同時に扉へと集中したその瞬間、扉に何かが叩き付けられる音がした。


 もう来やがったか……!


 しかし、音がしたと思った時には、既に構え終えていたAA-12が、扉に向かって立て続けに耳をつんざく轟音を放っている。

 質素な造りではあるが、堅牢な木材を使ったと思われる扉も、一斉に押し寄せる数十粒の鉛弾により見るも無残な姿に変わっていく。

 数回の射撃によってズタズタになったところに追加で撃ち込まれた散弾の一部が貫通。扉の外から複数の悲鳴が上がる。


 それを合図代わりに、俺は疾走を開始。全弾撃ち尽くしたショットガンを放り投げ、扉を蹴り壊すようにぶち破る。

 弾け飛ぶ蝶番。それと一緒に吹き飛んでいく扉と同調するように廊下へと躍り出る。


「下品なノックは嫌われる……ぜ!」


 虚空に躍り出ながら、俺は胸甲の外へ散弾を浴びてのたうち回っている兵士を無視して、彼らの後に続こうとしていた無傷の兵士たちに向け、腰だめに構えたUMP45の掃射を浴びせる。


 鎖帷子など容易く貫通し、胴体へと叩き込まれたフルメタルジャケット弾が身体へと穴を穿っていく衝撃で、兵士たちはまるでタップダンスを踊るような動きを見せて流れ出る血と共に床に沈んでいく。

 至近距離でこれだけの銃弾を喰らえば、胴体内部はグチャグチャだ。


 それにしても、さすがは45口径である。9㎜弾よりも


 だが、その装弾数も25発。

 この至近距離からとはいえ、ロクに狙いを付けられない中で全員を仕留めるには、フルオート射撃はいささか大盤振る舞いに過ぎた。


「貴様ァァ!!」


 機関部が止まったのを手に伝わる感触で感じつつ、俺は肩にかけたスリングに任せて右手に握っていたUMP45のグリップを手放す。

 同時に後ろ手に掴んでいた小太刀を左手側から引き抜き、逆手に握ったまま素早く右へ向けて一閃。


「がっ!」


 不意打ち同然の攻撃を受けて味方があっという間に沈んでいく中、怒号と共に剣を振り上げて斬りかかろうとしていた兵士は、左右の二の腕を撫でるようにして進んだ小太刀によって神経を切り割かれ、握っていた剣を床へと取り落とす。


 だが、それだけでは終わらせない。

 更に手の中で小太刀を回転させて順手へと持ち替え、そこから左へ薙いだ刃が、その兵士の首へと新たな呼吸口を作っていく。


「かひゅっ」


 一瞬、兵士は何が起きたかわからない様子であったが、漏れ出る息に遅れるようにして噴出し始めた自分の血に塗れることでようやく事態を理解。

 自分の首を両手で抑えながら、取り落とした剣に続くようにして膝をついてそのまま地面へと崩れ落ちた。


「……こ、この猿がァ!!」


 小太刀を振り抜いた姿勢のまま、今度は右太腿のホルスターから引き抜いたHK45Tで、近くにいた生き残りの兵士たちが魔法の詠唱を終える前に、頭部を中心に狙い順次仕留めていく。


「ぎゃっ!」


 背後から破砕音と悲鳴。

 振り返ると、いつの間にか動いたサダマサが扉を串刺しにしていた。


「筋は悪くないが、きちんとトドメを刺してから動け」


「へいへい。サダマサ先生にかかっちゃカタなしだ」


 よく見れば、扉の下敷きになりながらもそれをカモフラージュにして魔法を放とうとしていた兵士を、サダマサが跳躍から押し潰すように急襲し扉ごと貫いてトドメを刺したのだ。


「しかし、直前まで気配が感じられなかった。支援魔法が得意なヤツを投入してきたか。いよいよ連中も本気だな」


「王族相手となりゃ、さすがに差し向ける戦力も豪勢だな。人気者はつらいねぇ」


 昂ろうとする意識を抑えるように、血を拭った小太刀を鞘に納めてから、俺は大きく息を吐いて呼吸を整えサダマサに返事を投げる。


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