第55話 最凶VS最強?


「よーし、伊達に世界最強の一角と呼ばれていないことを教えてやろうではないか」


 後悔した時にはもう遅い。

 すくっと立ち上がったティアの顔からは酒気が消えており、金色の瞳には闘志が渦巻いていた。


「はっ、お前がその称号を持っていられるのも今日までだ。最後に別れを告げる時間はやるから、大事にしておけよ」


 そんな自信満々のティアの言葉を、残った大量のビールを飲み干しつつ鼻で笑ってのけるサダマサ。

 シニカルには言いつつも、拳を撃ち鳴らしていてやる気満々である。


「ぬかしよる。お得意の剣もなしに地面へ沈むことになっても、その減らず口が続くか見物じゃな」


「そっちこそ魔法やらブレスなしで俺とやりあえるのか? 途中で怖くなっても竜に戻って空に逃げるなよ?」


 ビキビキと、空間の軋む音さえも聞こえてくるような錯覚すら覚えるふたりの殺気の衝突。


 余波だけで泡を吹いて気絶する人間が現れてもなんら不思議ではないのだが、ふたりともそこだけは冷静に放つ殺気を相手に向けて収束しているらしい。

 おそらく、その余波を受けているのは引き続き審判役としてすぐ近くにいる俺だけだ。

 おかげでさっきから冷や汗が止まらない。いい迷惑である。


「いいぞやれー!」


「地上最強の力を見せてくれぇっ!」


 新たな娯楽のネタを見付けたギャラリーが無責任に煽る煽る。

 あのね? お願いだからやめてください。マジで。


 俺の願いを余所に、先ほどから会場のボルテージは上がりっぱなし。

 もはや天井知らずの状態である。


 強い期待のこめられた視線が両者へと不可視のオーラとなって集まり、ついには野次すら飛び交っていた。


 だが、これもなるべくしてなったといえよう。

 ふたりの正体を知る者みんなが、長らく気になっていたことなのだ。

 ここでそれをはっきりさせようとなれば、たとえ偶発的に起きた事態だとしても盛り上がらないわけがない。


 そして、そんな動きもけしてギャラリーだけのものではない。

 ドワーフたちの頂上決定戦で勝利を収めたウーヴェを筆頭に、戦いを繰り広げた者たちがいるからこそ、さらなる高みにいる存在の強さを知りたくなっているのだ。

 すでに止めることのできない流れができ上がっている。


 誰だ、原因を作ったのは。……俺だな。


「まったく……。ここまでギャラリーが盛り上がっちまったらやるしかねぇか。ルールは1ラウンド勝負で攻撃方法は無制限。まぁ、ふたりだったら魔力制御もできるしグローブは要らないだろ。ただし顔は殴るな、いろいろマズい」


 レギュレーションを言い含めながら、まずは互いの距離を取らせる。


 今にも相手に飛びかからんばかりに殺気立っているティアとサダマサだが、勢いだけでイキっているチンピラではないため、その実中身はきわめて冷静である。

 いつゴングが鳴ってもいいように、構えを取りつつ相手の一挙一動を見逃すまいと絶えず目が動いていた。


 おそらく、互いの脳内では相手の身体の部分部分が置かれている位置を把握した上で、繰り出す最高の攻撃で仕留めるための戦術が幾度となく組み上げられているに違いない。


 突如開催されることとなった異種族格闘戦とはいえ、体術でいえばサダマサには地球での歴史の中で積み上げられてきた技術により一日の長がある。


 だが、ティアは膨大な魔力を持ち、一撃の破壊力もケタ外れであるばかりか、高位竜の生命力によりサダマサよりも遥かに打たれ強いはずだ。

 冷静に相手の攻撃をいなしつつ、手数を稼いで体力を削り取るしか活路はない。


 ふたりの視線が俺に注がれる。「早くやらせろ」とばかりにギラついていた。


 オーケー、好きにやってもらおうじゃねぇか。


「はじめ!」


 開始を告げる声とゴングが鳴った瞬間、一瞬で間合いを詰めたティアとサダマサふたりの拳が衝突した。


「せいっ!」

「ぬぅっ!」


 拳圧で拳が破壊されないよう魔力でコーティングされた一撃が衝突。

 急激に動いた空気の流れが互いを押し合って俺へと押し寄せる。


 間近で見守っていた俺は前髪が乱れるのを感じつつ、両者が繰り出す次の攻撃に注視する。


 一旦、双方ともに間合いを取るべく後退したが、先に動いたのはサダマサであった。

 腰を落として接近しつつ、素早く足払いを仕掛ける。


 それを見てのティアの反応はさすがというべき速さ。

 空中に逃げて足払いを回避したティアは、そのままサダマサの脚を膝からヘシ折りにいく。


 だが、サダマサの狙いはティアを転倒させることではない。

 そこへ誘い込むことこそが真の狙いだったのだ。


「甘いぞ、ティア!」


 絶好のチャンスを得たサダマサが叫ぶ。

 足払いをブラフにして空中へ退避したティアを狙い、初めから傾け過ぎていなかった重心により引きこんだ右脚を新たな軸足として体勢を変え、そのまま内側に捻りこんだ身体の勢いを利用して左踵を使った後ろ回し蹴りを放つ!


「ぐうっ!」


 想定外の方向から襲い掛かった蹴りが、ティアの左肩付近をクリーンヒット。

 鈍い音と共にリング端まで一気に吹き飛ぶ。


 あぁ、これは二の腕が折れたな。


 だが、それだけの一撃を受けてもティアは守勢には回らなかった。


 裏をかくようにサダマサへと一気に迫り、無事な方の右拳を腰の捻りを交ぜ込みつつ放つ。

 獲物へ猛然と喰らいつく蛇のごとく、急激に軌道を変えたティアの拳が、サダマサの顔面をわずかに掠める。

 咄嗟に顔を逸らしたものの、ほぼ拳圧だけでサダマサの頬が小さく切れていた。

 ただの拳であるはずが恐るべき速度と威力を秘めている。


「ティア、テメェ! 顔面攻撃は禁止って言われたばかりだろうが!」


「おっと、狙いがたまたま外れただけじゃ。ノーカンノーカン」


 飄々としたティアの言葉にブチ切れ寸前のサダマサ。

 血の跡こそあったが、拳圧によって切られた頬の傷は、体内を循環する高濃度の魔力により早々に自動修復されつつあった。

 正直、サダマサが同じ人間であるか疑問にしか思えない光景だ。


「んなろっ!」


 鋭い踏み込みから、ティアの下顎めがけて鋭いフックを放つ。


「なんじゃおぬし、よもや女子おなごの顔を殴るのか?」


「ぐっ……!」


 狙いが意趣返しであることを読んでいたティアの言葉で、呻いたサダマサの拳がすんでのところでぴたっと止まる。


「ふふっ、もらったぞ!」


 好機とばかりに、サダマサの静止した腕を回復した左腕で払う。

 続いて下段から襲いかかったティアの一撃が、サダマサの鳩尾へと沈みこむように叩きつけられる。


 危険を感じて迅速に間合いから後退しようとしていたサダマサ。

 だが、ティアの反応速度が異常なのもあってか微妙に間に合わない。


「ごふっ!」


 拳にこめられた凄まじいエネルギーによって、サダマサの長駆が重力へと逆らうようにわずかに浮き上がった。

 ミシミシと骨の軋む音が伝わってくる。


 ウェー! あれは間違いなくクソ痛い!


 肋骨にヒビが入っていくと思われる音に、俺は顔を顰めてしまう。

 衝撃を殺しきることはできなかったのか、息の詰まったらしいサダマサの顔が苦痛に大きく歪む。


 だが、ティアの攻撃はそれだけで終わりはしない。


「終わりじゃ!」


 互いに超回復が恒常的に発動しているため、時間をかければダメージを与えた意味がなくなる。

 浮き上がったサダマサの意識を一気呵成に刈り取るべく、優美な曲線を描く脚が高速で跳ね上がる。

 鋭い刃を思わせる軌跡を描いてティアの回し蹴りが首筋めがけて急襲。


 目で追うのが精一杯のとんでもない速度。頸骨すら粉砕しかねない容赦のない一撃だ。


 鳩尾への攻撃で呼吸が途絶しかけている中、サダマサは自身に迫る蹴りを無理矢理身体を丸めることで強引に回避。

 その際、動きに取り残された髪の毛の一部が、蹴りに持っていかれて宙に舞う。


「ちぃっ!」


 高速であるがゆえに急激な軌道の変化まではできず、ティアの蹴りは勢いそのままに空を切る。


 一方、地面に手をついたサダマサは、両腕のたわみをバネとして後方へ回転しながら瞬時に後退。

 勢いのままに立ち上がり構えをとるが、その表情には苦痛の色が濃く浮かんでいた。


 よくもまぁあんな曲芸じみた回避ができるものだ。


「くっ、きたないぞ、ティア!」


「あまいのぅ、サダマサ。要は勝てばよかろうなのじゃ!」


 間合いを取って睨みつけるサダマサへ向けてにやにやと笑うティア。


 いや、挑発目的なのはわかるんだけど、竜とかもうちょっと高潔な生き物じゃないんですかね?

 さっきからやってることが極悪極まりないんですが。いつからティアさんは《神魔竜》から《邪竜》にクラスチェンジされたんでしょうか。


「妾はここでサダマサを倒し、クリスから素敵な褒美をもらうのじゃ。……じゅるり」


 おい、なんだその最後の反応。どえらい寒気がしたんだけど!


「なにそれ、サイッテー……」


「おい、ティア! 俺はそんなことするなんてひと言も言ってねぇぞ!」


 目敏くティアのつぶやきを聞きとがめたのか、再び汚物を見るような目を向けてくるベアトリクスに、俺は必死で弁解をする。

 なお、サダマサとの戦いに神経を集中させているおかげで、当のティアさんにはまるで聞こえていない模様。

 ははは、こりゃ誰も幸せになりゃしないわ。


「なのでここで安心して死んでいくがよい! サダマサの死を通して妾は生物として大きく成長するからのぅ!」


 なんかもう目的が相手を戦闘不能にするのではなく、殺すことになってるんですけど! どうしてこうなった!


「ねぇ、クリス! ふたりを止めないでいいの!?」


 怪獣大決戦が繰り広げられる最中、事態を重く見たベアトリクスが、気丈にも近づいてきて俺へどうにかしろと要求してくる。


 だが、「はいそうします」なんて安易に答えられるわけがない。


「あのなぁ! コレを止められると思うか!?」


 放たれる1発1発が、強大な魔物であっても即死させられるだけの威力を秘めている。

 そんなティアとサダマサの殴り合いに割り込むなんてのは、戦車部隊が全力で主砲を撃ち合ってる中に、イマジンがどうのこうのと現実を無視した歌を口ずさみながら突撃するくらいアホな行為だ。

 俺程度が制止に入っても巻き添えを喰らい、ひき肉も残らない可能性すらある。

 少なくとも、今のタイミングで踏み込むことは絶対に不可能だ。


 そんな中、ティアは瞬間的に膂力りょりょくのリミッターを外し、未だ完全に呼吸が整っていないサダマサにトドメを刺すべく強烈な回し蹴りを放つ。


「多少パワーがあるくらいで調子に乗るなよ、ドラゴン娘!」


 左腕で蹴りを受け止め、こめられた運動エネルギーによって骨を砕かれながらも、サダマサはこれを待っていたとばかりに反撃を繰り出す。


 蹴りの勢いを受けながらも素早く腰を落とし、右手を地面について軸としつつ、両脚で地面を蹴って下半身を空中へ向けて伸ばす。

 そして、自分の左腕を犠牲にしたことで、蹴りの勢いを大きく削がれたティアの右脚に両方の足を絡めながら、残った運動エネルギーを利用するようにして、自分の身体を捻りながら地面へと引きずり落とす!


「なっ!?」


 あまりにもアクロバティックなサダマサの動きに、驚愕の声がティアの口から漏れた。

 肉を切らせて骨を断つ見事なカウンターである。


「うそだろ!?」


 ティアと同様に受けた衝撃が俺の口を衝いて出る。


 言葉で説明するのは簡単だが、いくら超回復するとはいっても骨の砕ける痛みはたしかに発生する。

 それを一切躊躇うことなく、自分の片腕を犠牲にしてまで狙うのは並大抵の精神力ではない。


 だが、サダマサはそこまでの犠牲を払ってまでもこの状況に誘い込みたかったのだ。

 この手の関節技は、格闘術に馴染みのないティアにとっては未知のもので咄嗟の対応が難しい。


 俺が同様のことをすればティアの剛力で押し切られかねないが、サダマサの力と技のキレが合わされば、世界最強の生物とて“王者の技サブミッション”に耐え切ることは不可能だ。


「あぅっ!」


 片足だけでは思うように踏ん張りがきかず、また人間形態での重心まで正確に把握しているわけではないティアは、サダマサの重みに引っ張られるように前方へつんのめるようにしながら一回転。腰から落ちて地面に転がる。


 その絶好の隙を――――サダマサは見逃さない。


 完全にティアが地面に転がることが確定した瞬間、それ以上の深追いはせずに脚での拘束を解除し、体勢を立て直す。

 ティアの両腕は未だ健在だ。マウントポジションを取りに行っても、反撃に遭うのは避けられない。


 少なくとも、左腕の回復が終わっていない状態ではあまりにも不利となる。

 それに──。


「ふっ!」


 ティアも黙って転ばされたわけではない。

 自身が転がされた後にサダマサの追い打ちを予想し、無理な抵抗はせずに投げられつつも、地面に身体がつくや否や即座に腰の捻りを入れた蹴込みを敢行。

 しかし、サダマサが思い切って間合いを取ったことにより、わずかに届かず空振りに終わる。


 ここで流れはサダマサに傾きつつあった。


「そのケツがクッションになりやがったか、大した安産型だな」


「サダマサァ……! よくも、よくも妾にクリスの前で恥をかかせおったな……!」


 今度はティアが挑発を受けて怒り心頭になる中、俺はあくまでも事務的に終了十秒前の合図を鳴らす。

 次がおそらく最後の攻防となる。


 地面に転がされた怒りとこれで決めるという意志による加速でもついたのか、空気を裂いてティアの拳が高速で飛ぶ。


 対するサダマサも、回避するだけでは勝利を掴めないと判断。

 ティアへ真っ向から対抗すべく、迫りくる右拳ギリギリの部分を狙って左拳を繰り出す。


「ごっ!」

「ぶっ!」


 決着を告げるであろう両者の一撃は、見事なクロスとなり互いの下顎を正確に撃ち抜いていた。

 生物としての肉体構造上、運動神経など諸々を司る脳への影響は確実に身体へフィードバックされる。

 そこばかりはさすがに根性ではどうにもならない。


 下顎にヒットした拳から伝わった衝撃が脳へと伝わり、揺れた脳により平衡感覚を狂わされてまともに立っていられなくなる。

 つまるところの脳震盪だ。

 両者ともに焦点の定まらない目を必死で動かして踏ん張ろうとするも、それすら叶わずリングマットに膝をつく。


 そしてタイマーのゼロが並び、時間切れを告げる。

 ここが一番の好機と、俺は即座に終了のゴングを鳴らす。


「……はい、ドロー。ついで顔面への攻撃で双方反則負けだ」


「「クリス、まだ終わって──」」


「時間切れだよ。それとも、これ以上やって宴の余興を殺し合いなんてつまらないものにしたいのか」


 間髪入れぬ俺の言葉に、脳震盪から回復して立ち上がり、ステレオで抗議しようとしていたふたりが黙る。


 少しだけバツの悪そうな顔をしていることから、熱くなりすぎていたと気づいたのだ。

 そして、これ以上続けることがどれだけ無粋であるかも。


「でも、いいもん見せてもらったぜ。俺がその領域に踏み込むにはまだまだってことにも気づけたしな」


 それまでとは一転、俺が破顔して見せるとふたりの顔に冷静さが次第に戻ってくる。

 決してリップサービスなどではない。

 事実、そう思っているのは俺だけではないのだ。


 そこで呼応するように大歓声が湧き上がる。


 たしかに決着こそつかなかったが、会場の熱気はウーヴェの優勝さえも霞むほどの最高潮に達していた。

 とてつもない戦いを見せてくれた礼と言わんばかりに、凄まじい歓声が上がっている。

 それを聞いていたら溜飲が下がったのか、ティアとサダマサから発せられていた、俺の心臓に良くない殺気が霧散した。


「……サダマサ、次はこうはいかぬぞ」


「そりゃこっちのセリフだ」


 相も変わらず憎まれ口こそ叩いているが、ふたりからは戦いの気配はとっくに消え失せ、その口元には小さな、そして満足げな笑みが浮かんでいた。


 肉弾戦とはいえ、世界最強クラスでぶつかったのだ。

 隠しきれない疲労を滲ませつつも、互いの健闘を称えるような笑み。

 お前らは夕暮れの河原で殴り合った不良か。


「さて……」


 興奮冷めやらぬ空気のまま、俺はリングの上から観客である工廠関係者たちに向けて言葉を発する。


「今日の宴が開催できたのは、ひとえにみんなのおかげだ。世の中全部が平和ってわけじゃないが、こうしてみんなでくだらないことをやったりして楽しく過ごせる時間を、俺はこの領地にもっと広めていきたい。そのためには俺たち貴族だけじゃダメだ。だから、これからもどうかみんなの力を貸してくれ!」


 観客へ向けた俺の言葉に、会場は再度歓声に包まれる。

 そこから宴が再開され、みんなが酒や料理を楽しみつつ、思い思いの時を過ごしていく。


 俺もリングを降りて自分の席に戻る。


「一時はどうなることかと思ったけれど、最後は上手くまとめたのね。たいしたものだわ、クリス」


 溜め息を吐き出しながら席へ歩いていくと、先に椅子へ戻っていたベアトリクスが俺を出迎えてくれた。

 そっとこちらに差し出されるフルートグラス。


「貴族っぽくなかっただろ? でも、人の心に伝えるには、飾らない方が良いと思うんだよな。ここまで疲れるとは思っていなかったけど」


 褒められた気恥ずかしさを誤魔化すように、小さく笑ってグラスを受け取りながら、俺はベアトリクスのすぐ横に座る。


「そうね、勉強させてもらったわ。ううん、それ以上にとっても楽しかった」


 柔らかな笑みを浮かべたベアトリクスが、俺の手を静かに握ってくる。


 それはテーブルの下に隠れていてみんなからは見えないものだ。

 おそらく、これくらいなら許してくれるということなのだろう。


 だが、そんなささやかな気持ちが俺には飾った言葉をかけられるよりもずっと嬉しく感じられた。


 さて、大賑わいとなり、また多くの人間が度を過ごすことにもなったパーティー

 これは、俺が侯爵領へと帰るたびに開催される恒例行事となったのはもはや言うまでもないことだろう。


 なにしろ、普段は口うるさくもちゃんと仕事をしてくれるドワーフたちが、はじめて定期的にやってほしいと要求をしてきたのだ。

 それに応えなければ暴動が起きてしまうくらいには領地のみんなにも気に入ってもらえたらしい。

 俺からすれば至らないことだらけだろうに、そうした反応をくれるのは素直に嬉しいと思えるものだった。


 ちなみに、深く考えず二つ返事で快諾してしまったがゆえに、俺は毎回食材や酒を大盤振る舞いして調理してと魔力の枯渇寸前まで働かされることになるのだが、言い出しっぺでもありそこは必要経費として割り切るしかなかった。


 また、それと合わせて『ボクシング大会~侯爵領で一番強いヤツ~』も毎回開催されることとなった。

 予想外なこととしては、領内の人間たちが日々磨いた己の腕をぶつけ合い、観客がその優勝者を当てる大盛り上がりのイベントへと成長していく。


 また、今回決着のつかなかったサダマサVSティアも、大会におけるエキシビジョンマッチとして好評を博すことになる。


 もっとも、ふたりの決着がつくことはついぞなかったわけだが、それはまた別のお話。

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