第5話 神様プレゼン


「やぁやぁ、5歳の誕生日おめでとう!!」


「唐突過ぎだろ! あと近いわ!」


 どアップで夢の中へ現れた創造神。


 この男、見た目は妙に爽やかなんだが、登場と同時に接近されたらさすがにマッチョな兄貴でなくとも暑苦しく感じてしまう。


「人生は唐突にして突然なのだよ、アケチくん」


 ふふふー、いいネタだろと言わんばかりに笑いかけてくる創造神。もちろん全力でスルーする。

 ま、祝われて悪い気はしないが、男の笑顔では満足感もせいぜい6割止まりだ。せめてコイツが女神だったら良かったのに。

 というか、誰だよアケチって。


「しかし、もう二度と会えないもんだと思ってたが」 


「うーん、なぜかずっとコンタクトできなくってね。順調みたいでなによりだ」


 俺の近況はある程度把握しているのか、にこやかに微笑む創造神。相変わらずその腹の底で何を考えているかわからない。


「まぁ、言語能力がなかったら詰んでたかもしれないけどな」


「意外と言葉なんてなんとかなるものだよ。でも、そこに時間をかけるわけにもいかないからそこはいじらせてもらった。譲渡コピーもできるけれど、そこは適当に考えてくれたらいいさ。それに、魔力の鍛錬も始めたんでしょ? 魔力量も既に人族のその年齢じゃ考えられない量だよ」


 ……何か不穏当な発言があった気がする。まぁ、話が進まないので後で自分で確認しよう。


 さて、創造神は俺のことを褒めてはいるが、さすがにここまでは想定していなかったと見える。

 気まぐれに放り込んだイレギュラーの動きを見ている程度で、やはり本命は『勇者』なのだろう。


「ファンタジー世界に来て魔法使えないとかどんな罰ゲームだよ。まぁ、魔法とか使ってみたかったし、例の能力を使うにも必要なんだろ、魔力」


「そうだけど。でも地味に身体力まで鍛えてるし、やる気満々じゃない」


「第一空挺くるってる団に、特別な教育課程だからとか騙されて放り込まれるとな、脳味噌もぶっ壊れるんだろうなぁ……」


 訓練内容を自分で話しながら、少し遠い目になっていた気がする。

 一方の創造神も「え、何? 日本人ってもしかして頭おかしいの?」って顔をしていた。


 失礼なヤツだ。本当に頭おかしい連中は第一空挺団じゃなくて特殊作戦群SOGだぞ。……ちょっとだけ関わらされてたけどさぁ!


「それより、物質召喚能力のほうはどうなのさ? 役に立ったでしょ?」


 当初の目的を思い出したのか、創造神が勢いよく俺に食いついてくる。


「……まだしっかり使ってないけど、たしかにこの能力は反則だな。だけど、この世界で武力とか権力を取りに行くのに使っていいもんかコレ?」


「邪魔なヤツを排除するのに、地球の兵器ほど便利なものはないと思うけど?」


 答えになっていない。むしろ、どこの世紀末思想だ。

 しかし、地球を覗いていたからだろうか、創造神は前世の技術を知っているらしい。それでも詳細まで理解してはいないようだが。

 まぁ、神といえど干渉できる部分とできない部分があるのだろう。そうでなければ異世界人など自分の世界に呼びはしまい。


「あのなぁ……。現代兵器の大半は1人じゃまともに扱えないんだぞ? 戦略核弾頭装備の大陸間弾道ミサイルICBMなんて召喚してみろ。下手すると、放射線を撒き散らす呪いのオベリスクになっておしまいだ」


 核兵器は最強最悪の攻撃力+置き土産の放射線を持っているが、それを運用するには相応の設備──とりあえず思い浮かぶだけでも、衛星や発射設備などが必要になる。

 というか、コイツは世界のバランスを調整したいんじゃなかったのか? 現代兵器なんか使ってしまうと、今度はバランスが自分の方に傾き過ぎて世界が滅ぶと思うのだが。なんか不自然だ。


「じ、じゃあ、銃を使えばいいじゃない! あんな武器まだ発明されてないよ!」


 俺の不信感を察知したのか、話を逸らすように露骨に話題を変えた創造神だが、残念ながら落第点だし、むしろぶん殴りたくなる。

 どう説明するべきか少し考えた末、精神体が前世の肉体のままだと思い出した俺は、この空間で『お取り寄せ』能力を使ってみることにした。


「お、イケたイケた」


 魔力容量的には問題なかったらしく、何もないハズの空間から黒光りする長い筒が現れる。


 筒を保護するかのように木で形作られた持ち手がくっついており、知識がなければそれはさながら魔法使いの杖のように見えなくもない。

 そう――――火縄銃マッチロックガンである。


 初めて銃器を召喚したというのに、一瞬しか魔力の消耗を感じなかった。

 無限MPかと思ったが、消費魔力が総容量を超えてしまうものは不可能らしく、RT─2PM トーポリICBMを呼び出してみようと思ったら『魔力が足りません』というイメージが脳裏に浮かんだ。


「仮に、俺が火縄銃コレを出したとしよう」


「うんうん」


 早く撃って見せてと言わんばかりに、創造神は碧眼を輝かせている。

 それを無視して、俺はゆっくりと火縄銃の銃口から火薬と弾丸を順に入れ、朔杖さくじょうで押し込めて発射準備を整える。


「確かに、俺は使い方を知っているし、時間さえあればある程度の集団に行き渡らせることも可能だろう。でも、1回戦闘したら多分終わりだぞ」


「えっ」


 驚きを浮かべる創造神。

 相手をしていると話が進まないので、無視して俺は追加で射撃用の標的ターゲットを召喚。地面に置いて30mほど離れてみる。

 火蓋を切って引き金を絞ると、火薬の炸裂音と共に弾丸が吐き出され、ほぼ同時に標的の外枠スレスレに穴が生じる。

 撃った経験がないのもそうだけど、ほんと当たらねぇな……。


「おお!! これなら一撃必殺だよ! 戦いも楽になるじゃない! 」


 どんだけ物騒な神だお前。

 ぱちぱちと俺の射撃に惜しみない拍手をくれる創造神だが、それを見る俺は小さく溜息を吐く。

 まったく嬉しそうな様子もない俺に、創造神の表情にも怪訝けげんな色が浮かぶ。


「まず命中率が低すぎて量でカバーしなきゃならない。弾丸は鉛があればどうにかなるが、肝心の火薬をどう調達するんだ。部品は? 戦闘で弓矢のようにバラ撒けるほど俺が召喚するのか? 大混乱の戦場で?」


「あっ」


 そこまで説明して、ようやっと一連の流れが得心に至ったという顔をする創造神。


 コイツは火薬すらない世界でどうやって銃を運用するつもりだったのか。

 いや、俺のチート能力でやらせればいいとか思っているんだろうが、非常に甘い認識だ。


 創造神が俺にチート能力でやらせようとしていることは、ざっくり言えば、先進国の人間が万全の道具セットを持った上で、ジャングル奥で狩猟をしながら暮らす原住民集落へおもむき、そこを文明化させるようなものだ。

 だが、それよりも本当にやらなければならないのは、より効率的かつ現地人が理解可能な生活の知恵や、狩猟のような運任せではない食糧確保の方法、快適な住居の造り方、さらには衛生環境の改善など土台の発展である。


 創造神コイツはそこに気付いていないのだ。


 大体そんなことを説明すると、創造神はなぜかむちゃくちゃ落ち込んでいた。豆腐メンタルかコイツ。

 相当ショックだったのか「あー、今までの失敗も全部それなのかなー」などと、そろそろタイムリミットと思われるにもかかわらず、俺を放置してブツブツと何か言っている始末。

 少し気の毒にはなったが、タイミング良く意識がフェードアウトし始めたので、俺には関係ないと思うことにして放置したまま意識を手放すことにした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る