第9話 重婚式

 結婚式とは人生の葬式である、と言った人がいたが、だとすると7人の花嫁を1度に娶る僕の式では、一体どれだけの人生が失われる事になるのだろうか。


 本来、王族の結婚というのは何日間か時間をかけて様々な来賓を迎え、おもてなしをしつつ政治的な約束が結ばれる会合的な側面があるが、今回は招待客も国内の知人に限り、儀式的な行為もかなり簡略化する事になった。時間が無いので仕方がない。


 それでも一応こうして挙式を執り行うのは、バフ倍率の最後のひと押しという面がある。神の前で愛を誓い合う事によって、結束は更に硬くなる。これをもって最後の数パーセントを埋め、確実に『亀裂』を何とかするという狙いがある。


 普段謁見に使われる間を一時的に改装し、通常よりかなり幅広なバージンロードが作られた。

 色とりどりの花。鳴り響く鐘の音。花婿用の真っ白なローブ。厳粛な雰囲気はあるが、祝いの席なので和やかさもある。


 司教の前に立った僕は、緊張しつつその時を待つ。やがて、荘厳な音楽と共に花嫁達が扉を開けた。


 7人が並んでこちらを向いている。全員が純白のドレスに身をつつみ、いつもと違う化粧でそれぞれの美しさを際立てている。頭にはヴェール。手にはブーケ。見方によっては何とも恐ろしい光景だが、僕には全員が等しく愛らしく思えた。


 ステンドグラスを通し彩られた光の中を花嫁達が歩く。万雷の拍手で迎えられ、みんな誇らしげだが個性もある。例えばサニリアは他6人と同じ花嫁衣装を着せられてるのに負い目があるらしく、「出来るだけ見ないでくれ」という感じだった。


 ルナはまだあまりよく分かっていないようだが、楽しそうではある。真ん中にいるクラウはやはりこういう場に慣れているのか堂々と胸を張っている。レインさんはどこか所在なさげで、ライカは真っ直ぐに僕だけを見つめている。ミスティは他の6人より気持ちちょっと胸元を開いているし、ユキはあまりにもかわいらしく飾り立てられてむすっとしていた。


 それぞれに魅力があった。仮に作戦の事が無かったとしても僕は7人全員と結婚したいと思える。


 僕の目の前に、7人が到着した。拍手が鳴り止み、司教が祝詞を読み上げる。婚姻は、最古の儀式的魔術とも言われており、その効果はまだ検証が済んでいない。末永く幸せに暮らす夫婦もあれば、そうでない夫婦もある。しかしここは、僕達が前者である事を真剣に祈っておこう。


「汝ランドは、ここにいる7人の女を花嫁とし、永遠に愛する事を誓いますか?」

 僕は答える。

「誓います」


「サニリア、レイン、クラウ、ライカ、ミスティ、ユキ、ルナの7人は、ここにいるランドを生涯で唯一の夫と認め、永遠に愛する事を誓いますか?」

「「「「「「「誓います」」」」」」」


 7人の声が揃う。す、すごい圧だ……。思わず笑ってしまいそうになったが、何とか堪える。


「それでは、誓いのキスを……えーと、順番に」


 きっと司教さんも重婚式なんて慣れていないのだろう。


 1人目。

「サニリア」

 僕が名前を呼ぶと、サニリアが前に出てきた。ヴェールをめくると、目を逸らす。

「結婚してからも、僕の師匠である事に変わりはありません。愛してる」

 口づけを交わす。


 2人目。

「レイン」

 まだ呼び捨てに慣れないが、その表情にはいつもの余裕がない。

「お互いに守りあっていけたらいいね。愛してる」

 口づけを交わす。


 3人目。

「クラウ」

 王女にしてこの国の次期後継者。この婚姻には他の6人にない特別な意味がある。

「王の件に関しては、まだもう少し考えるという方向で。愛してる」

 口づけを交わす。


 4人目。

「ライカ」

 幼馴染であり、誰よりも重い愛を持つ女の子。

「想像とは違ったかもしれないけど、約束は守るよ。愛してる」

 口づけを交わす。


 5人目。

「ミスティ」

 こちらにくる時、ブーケを持つ手にコンドームを握りしめてるのがちらっと見えた。

「それしか考えてないのか……。まあいいや、愛してる」

 口づけを交わす。


 6人目。

「ユキ」

 未だに最終形態の姿を夢に見てしまうが、それでも目の前にある姿はかわいい。

「少し手加減してもらえると助かる。愛してる」

 口づけを交わす。


 7人目。

「ルナ」

 生まれたばかりの娘とも僕は結婚する。批判は受け入れよう。

「この世界をもっと楽しんで。愛してる」

 口づけを交わす。


 こうして、7人との結婚式が終わった。


 サニリア  495%

 ルナ    493%

 クラウ   490%

 ミスティ  489%

 ライカ   488%

 レイン   487%

 ユキ    485%

  

 さあ準備は整った。

 今こそ、この戦争を終わらせる時だ。

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