第6話 教団攻略作戦会議
暗くなった頃、僕の作業が終わり、それと同時にレインさんと師匠が宿に帰ってきた。ネッドさんもいつの間にか戻ってきており、これで全員が揃った形となる。
アビンダ2日目の夜。相変わらず僕はインドア。
「さてさて、誰から何を報告しようか」
レインさんが言った。
「まずは偵察の報告を聞きたい。それによって作戦が変わるからな」
「それもそうですね」
レインさんが地図を広げ、ペンで書き足しながら説明する。
「これが今、『銀翼の運命団』の本部となっている屋敷の見取り図だよ。以前は貴族が使っていたらしいけど、20年程前に教団幹部が買い取ってそこに信者を住まわせている。便利なのはなかなか広い地下室がある所でね。そこで血を採取する用の女性を監禁している」
レインさんが説明を続ける。
屋敷内にいる信者の数は3、40人ほど。屋敷の近くに井戸があり、そこで汲んでいた水の量からの推測だそうだ。「それなら井戸に毒入れたら話が早いんじゃない?」とクラウ様が鬼畜な提案をしたが、即却下された。
仮にそれで教団を全滅出来てもライカまで死んでしまっては元も子もない。
屋敷の地下にいる女性達が何人程度なのかは正確には分からないが、屋敷を出入りする信者の数と、世話出来る人数、地下室の広さを考えると最大でも10人程度だろうと予測出来た。
「それと、おそらくだがネッド達を襲った奴らも見つけた」
屋敷に出入りする者の中に、大柄な男3人と魔術師風の女1人という組み合わせがあった。
屋敷から出た所で後をつけると、男達の方はアビンダの賭場で豪遊していたという。羽振りの良い様子で、知り合いらしき者に「臨時収入が入った」という話をしていたのも聞いたという。
本部に戻ると女の方は教団に残っており、庭で魔法陣の練習をしていた。
「元々ならず者だった奴らが教団に入って魔術師の協力を得たという所か。その女魔術師の素性が知りたい所だが、そこまで調べる時間はなさそうだ」
師匠の耐魔スクロールを無効化したという話が僕も引っかかっていた。
その女魔術師が鍵を握っているのかもしれない。
「……とまあ、こんな所ですね。戦力的にはならず者と熱狂的な信者が半分半分といった所です。私達の敵ではないかと」
レインさんがあっさり言い放つ。実際に戦っている所は見た事ないが、その地位と暗殺者の首を落とした鮮やかな手並みからしてかなりの腕前を持っているのは分かる。
「分かった。次は私から、襲撃用に用意した魔術を説明する」
師匠が立ち上がって地図の前に移動し、レインさんからペンを受け取った。
「私が用意した魔術は3つ。『閃光』、『索敵』、『捕縛』だ」
『閃光』は一瞬だけ強い光を発する魔術で、目を眩ますのに使える。
本来は術者の手の平や杖から発するが、今回は師匠が魔術専門店で買ってきた魔石に機能を移植して使う。
『閃光』を使う理由としては、相手にも魔法陣を扱える魔術師がいるので魔法耐性を高めている可能性が高いので、『誘眠』や『失神』といった魔法は効果が出ない可能性がある。『閃光』は相手に視覚がある限り有効なので、こちらを採用する。
それと、作戦中は師匠が別の役割をこなさねければならないので、突入した人間が適時『閃光』を扱わなければならない。
『索敵』。これが師匠の役割である。
屋敷内は広く、出入り口もいくつかあるので襲撃に気付かれれば信者達が逃げる可能性がある。
単独で逃げ出すのは別に構わないが、ライカを連れて逃げ出されると困る。ライカを確実に確保する為には屋敷内における敵の動きを正確に把握しておく必要があり、そこで師匠の出番という訳だ。
師匠が扱う『索敵』の魔術は、まず魔力を変換した見えない「波」を放出する。「波」は魔力を持つ者に反応して反射して返ってくる。それを魔法陣によって感知し、情報として整理する事によっておおよその位置を判別する。
この魔術の欠点は、リアルタイムで位置を観測したい場合、術者が魔法陣から離れられない所。そして返ってきた波の情報を処理するにはつきっきりにならないといけない事。つまり、少なくとも『索敵』を使用している間、師匠は戦闘に参加出来ない。
これは大きな戦力ダウンだが、無くてはならない役割の上師匠にしか出来ない。僕に出来れば1番良かったのだが、言うまでも無く高等な魔術なので僕ではあと10年くらい修行しないと扱う事は出来ないだろう。
最後に『捕縛』。これはその名の通り、対象を拘束する魔術だ。
正確には、対象の筋肉と脳の伝達を切断し、機能不全に陥らせる。今回はレインさんとクラウ様の2人が戦力の中心なので、2人の扱う武器にこの魔術を付与する。
つまり、レインさんの剣に下半身を切られれば足が動かなくなり、クラウ様の槍に肩を突かれれば腕が動かなくなる。そうしたら首を撫ぜて捕縛は完了という事だ。
そもそも武器で切ったら魔術に関係なくどの道動けなくなるのでは? と思ったが、師匠はこの魔術の為に刃を落とした武器をわざわざ用意していた。
「ていうかさ、なんで殺しちゃいけない訳?」
クラウ様の倫理観が欠如した指摘。
とはいえ確かに、わざわざそれ専用の武器と『捕縛』の魔術を用意するのには何か理由がありそうだ。
「それについてはまず、信者の正確な総数が分からないので必要以上の恨みを買いたく無いのが1つと、人質を確保しておきたいのが1つだ」
「人質、ですか?」
作戦会議に同席していたネッドさんが尋ねた。
「そうだ。敵がならず者だというなら、追い詰められていざとなったら幽閉している処女達を人質にしかねない。そうなった時、人質交換の為に出来れば教団の重要人物を確保しておきたい」
なるほど確かに襲撃が上手く行っても、土壇場で相手が卑怯な手を使う可能性は多いにある。そうなった時に人質交換が可能なら、ライカを無事に救出出来る可能性が高まる。
「それともう1つ」師匠が思い出したように付け加えた。「ランドへの配慮だ」
突然僕の名前が挙がり動揺する。
「ランドはレインが人を殺す所を直に見て不信感を抱いたからな。今回は乳の力で何とか信用を取り戻したようだが、次はそうなるとは限らない。よってバフ倍率を維持する為にも殺さない方が望ましい」
「ふふふ、それもそうですね」
「おっぱいの話はそれ以上しないで」
いつのまにか僕は、胸を触らせてもらえばすぐに信頼の回復するチョロい奴だと思われてるらしい。心外だけど事実だ。
「作戦の流れを纏めると、まずは『閃光』によって相手を混乱させ、視覚を奪う。私は外で『索敵』を使ってお前達を手引きする。そして立ちはだかる敵は『捕縛』によって人質として確保。以上だ。何か質問は?」
「無いですね」
「無いわ」
流石は師匠。完璧な流れだと思う。この順番に作戦を実行出来れば間違いはない。
「よし。では作戦決行は明日の正午とする。今夜はゆっくりと休もう」
それぞれが頷き、互いの顔を見た。
「それと、今日の部屋割りだがランドは私と同じ部屋だ」
師匠がそう宣言したが、何故かレインさんからもクラウ様からも異論の声は上がらなかった。
昨日はあれだけ誰が僕と同室になるかで争っていたというのに、少し奇妙な話だと違和感を覚える。それを自分から言うと自意識過剰みたいで嫌だが、不思議な事は不思議だ。
何故、今日は師匠が僕と同じ部屋なんだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます